三十三話 親愛なる疎外
「はっ、はっ――」
ガーテンへと続く道を走る。ここを通ってモルモ村まで来たばかりの道だけど、一瞬で行き来できるほどに近いわけではない。
もどかしく、思う。
「モータ、は、ふぅっ――、みえて、こない――、ね。マスター」
「はっ、ふっ、あぁ」
息を切らしながらも走るペースは変えずに話す。ソルはこういったけど、僕としては正直にいえば追い付けるとは思っていない。おそらくモータがガーテンに着く方が早いだろう。
というのも、魔族はプレイヤーが選択できない種族だから、わりと思い切った設定を施している。それぞれの部族が得意とする部分では、育て切ったプレイヤーでも敵わないような、ピーキーというか特徴あるステータスになるようにしてある。
牛族であれば、全体的に高い身体能力と、中でも走力はずば抜けて優れている。ゲーム『オルタナティブ』内で牛族と戦う場面は用意していないけど、モルモとは違う場所で、逃げる牛族を追いかけるというイベントを用意した。
それ自体はただのお遊び要素というか、深刻ではない笑い話だけど、普通に追いかけたら絶対に追いつけないという笑えない難易度になっている。いかにもゲーム的な要素として、うまく相手が走るコースを誘導して、木や岩に引っかかるようにすることで追い込めるような感じだったから、つまりそんな引っかかる訳が無い“実際の”牛族には追い付ける見込みがない。
だからこそ若いモータであれば、黒い獣が相手でも外で遭遇しただけなら逃げ切ることはできるだろう。しかし今回はどうも自分で向かって行ったらしい。
あの状況にあっても、志願してガーテンでの露店をしていたモータだし、放っておけなかったのだろう。
と、全力で走ったかいがあって、ようやくガーテンが見えてきた。
「わ、騒ぎになってるね」
「本当だ」
遠目に見ても、ヒューマンやドワーフが村から散り散りに逃げていくのが見える。村の外へと出ていくってことは、中で暴れてるのか!?
「ね、マスター。様子がおかしくない?」
「ん?」
進む足の速度を緩めて、ソルが戸惑う素振りをみせている。
どういうことだ? ガーテンの人たちは確かに混乱して……
「うわぁぁつ、たすけてぇっ」
「なんだあの黒い化け物はっ!?」
「魔族まで攻めてきやがったぁ」
「ドルフが立ち向かってるけど、敵う訳ねぇ!」
明らかに不穏……、というか不安をかきたてる言葉が混じって飛び交っている。
「もしかして、モータは……」
不安そうにソルが視線をさまよわせる。
どちらにしてもここまで来たら、騒がしい方へ向かって、そしてとにかく黒ヘラジカを討伐するだけだ。それでとにかく一旦は、問題を収束させられるはず。
「行こうっ、ソル」
「うん、マスター」
気合いを入れなおすように、わざわざ口にして足を速めると、ソルも応じて声を上げた。
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