三十話 モルモ村
一晩をガーテンで過ごした僕たちは、さっそくモルモ村へときていた。規模としてはガーテンとそれほど変わらない農村で驚いた。……というのも、ガーテン住人のドワーフたちからのあの態度を見る限り、迫害はされていなくとも寂れてはいそうだと予想していた。
「あぁ、そっか売る相手はいるってことか」
「こっちも旅人と商人は多いねー」
ヒューマンの旅人や商人がそれなりにいて売買しているのは、この村も同じだった。
それに、モータからちらと聞いたけど、食料や日用道具の取引はしているらしいしな。ドワーフ側としては、あくまで「慣れ合う気はないっ」ていう感覚なのかな。
「旅人さんはこの村は初めてですかな?」
見回していると、牛族の老人から声を掛けられた。顔の皺が深い見るからに老齢のおじいさんだけど、腰は伸びているし、やはりというかわりと体格はしっかりしている。
「ええ、ショキノ王国からこちらへ入国してきたばかりなんです」
「ガーテンでモータさんに紹介されたんだよー」
「ほう、モータにあったのですな」
何気ない会話からモータの名前を聞いたからか、老人の笑顔が深まった。
「村長の儂からみてもあやつは頑張っておりますからの。少々心配な部分もありますが、まぁ年寄りから見た若者とはそういうものなのでしょうな」
「おぉー、おじいちゃんは村長さんなんだ」
「これは自己紹介が遅れてすみませんな、儂はクホルンと申します」
続いてこちらも名乗り返すと、クホルンさんはにこにこと聞いてくれる。モータもそうだったけど牛族は人懐っこいというか接しやすい気質をしているのを実感した。
けど、心配だと言った時には心底から不安が滲んでいる様子だった。あれか、あえてあの状況で露店を開いたりしているモータの行動がその内に反感を買うんじゃないかってことか。
ガーテンのドワーフは確かに露骨な距離の置き方をしていたし、それは無視に近いレベルだったけど、個人的には悪意という程のものは感じなかった。単にガーテンが排他的だというだけで、正直通りかかる旅人である僕らに対しての視線も友好的とは言い難かったし。
だけど、こればっかりはどちらの村の人間でもない僕が何かを言えることでもないよな。まして元をたどれば元凶とさえいえる存在な訳だし……。
「村長、あの獣のことだけども……。っと失礼、お客と話しとっただか」
内心では色々と考えながらもクホルンさんと当たり障りない会話をしていると、寄ってきた村人らしき女が気になることを口にした。
「黒いののことは後で話し合うから待っとれ」
村長は嗜めるようにそう返した。
獣、それから黒い、……あまり楽しくない言葉の組み合わせだった。
「ここでも黒い獣が?」
「は!?」
僕が反応したことに対して、クホルンさんはひどく驚いたようだった。
「ここでも……、とおっしゃいましたか?」
「ええ、僕らもショキノ王国で二回、全身が不自然なほどに黒い獣と遭遇して倒しています」
倒した、という言葉を聞いて、クホルンさんは先ほどの村人と目線を交わして何事か意思疎通している。
「テスト殿とソル殿は旅人であるとお見受けしております。村からの依頼をお願いしたいので来ていただけませんかな?」
低姿勢で、しかし強い感情がこもった言い方だった。この村でもあの黒い獣にはかなり困らされているようだ。
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