二十八話 魔と人と
鍛冶国家ゴルゴンの南端に位置するショキノ王国との国境門からは、しばらくミナミ荒野という荒れ地が続く。荒野といいつつもそこそこに草地もある地形で、中央部の首都へと近づくにつれてその草地の割合は増していき、首都周辺はそれなりに豊かな農地が広がっている。
そしてこのミナミ荒野にもいくつか町が点在するけど、国境門からまっすぐ北上する今のコースだと……
「もうすぐガーテンがあるはずだ」
「それって……なんだっけ?」
ソルは名前くらいしか覚えていないようだ。まあ無数にある村々の一つでしかないし、僕としてもちょっと特徴的な設定をしてあるから覚えていただけだしな。
「牛族のモルモ村と隣接する小村だよ」
「え? 牛族って魔族の?」
ソルが意外そうな顔を見せる。牛族は魔族を構成して“いた”一部族で、立派な角と巨大な体躯を特徴としている。
「そうだよ、二世代ほど前に魔族領で揉めた温厚な部族で、本格的な争いを避けるためにゴルゴンに亡命してきたんだよ」
「え、受け入れたの? 人族領が」
「そう、ゴルゴンとしては国境を接する統一魔族連邦の情報が少しでも欲しかったし、牛族側はとにかく他の魔族から狙われない環境が欲しかった。さらにいうと温厚で知られる牛族だからゴルゴンとしても都合が良かった」
「へぇー」
この辺は魔族と人族は争っているけど、それぞれに色々と思惑とか事情もあるっていうエピソードとして用意しただけで、あまり突っ込んだイベントとかもない。近い位置にあるのに全く交流のないガーテンとモルモという村が存在して、そこで話を聞くとそういった事情が垣間見える、という制作者の自己満足的フレーバーだ。
「というわけで特にイベントも、用事もないから、黒い獣に関するうわさだけないか確認して素通りかな」
「うん」
というような話をしながらも歩き続け、しばらくしてそのガーテンが遠くに見えてきた。普通の旅人なら丸一日という距離だけど、僕らはちょうど半日ほどかけてきたからそろそろ日が落ちそうな頃合いだ。
「素通りっていうか、一泊していくか」
「そうだね、宿とかあるかな?」
「確かあったはず」
さすがに村内の施設までははっきりと覚えていない。大量にある村や町を流れ作業で一気に作った内の一つだし。それにファストガのことから考えると、ここも“現実的な”改変は多分起こっているだろうから、国境門から首都へと続くこの立地を考えると、宿くらいないとおかしい。
入っても、そこらを通る村人たちは特にこちらを気にしない。むしろ同業の旅人らしき武装した連中や、商人ぽい大荷物の人らがちらちらと見てくる。もしかしたら国境門の噂でも……、いやまだそれはないか。
首都までは弾丸郵便を飛ばしていたけど、それ以外の場所は人が口コミでひろめない限りは噂なんて広まらない。僕らの足でついたばかりのここにはまだのはずだ。
「あ、いろいろ売ってるよ!」
ソルが嬉しそうに見つけたのは、いくつかの露天が並ぶ広場だった。地元の村人らしき人々が、敷物を敷いた上に作物とか細工品を並べている。
売っている側はドワーフばかりだけど、買う側はむしろヒューマンが多くて、買い付けに来た商人がほとんどの様子だった。
「なるほど、通り道にあるなら、こうなるか」
思わぬところで記憶にない光景だった。けれどいわゆる道の駅のようなこういった商売は、この村からするとまさに自然発生的なものだよな。
「あ、おいしいチーズだって」
ソルが駆け寄っていく方へ目を向けると、敷物の上にさらに綺麗な布を敷いて、その上にチーズをいくつも並べている露店だった。立派な二本の角を生やした、大柄だけど優しそうな眼だからか威圧感の無い若者がにこにこと「おいしいよー」と声を掛けている。
……ん?
「牛族っ!」
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