未来編・七話 世界の輪郭

 第七資材倉庫室の中にはかつて『DEUS』開発者と同じチームに所属したベテラン社員の出雲いずも、秘密裏に研究・調査が進められていた『DEUS』の現在の責任者である技術開発部長のやなぎ、そして画面越しに謎の多いクラッカーのゴーストがいた。

 

 現在問題となっており、なおかつレボテック社が手を出しあぐねている“生成物”――『DEUS』が突如暴走して生まれた仮想世界――へのアクセスについてゴーストが言及してから、かれこれ優に五分ほどが無言のまま経過していた。

 

 「それで、どうだった……?」

 

 ゴーストの手管については考えても予想もつかないと先に割り切ったのは出雲のほうだった。そして肝心の情報について問いかける。

 

 「ふふふ~、聞きたい?」

 「…………」

 

 多分に嘲りが含まれたわざとらしい物言いに、出雲は押し黙って返答とする。しかしむっつりと黙り込むその様子は、十分にゴーストの嗜虐心と傲慢さを満足させたようだった。

 

 「先に言っておくけど、まだ“中”へは入ったばっかりで、ジブンもまだ核心はつかめてないからねー?」

 「……」

 

 続けて出雲も技術開発部長も黙っている。しかし二人の、特に出雲の沈黙は色合いが変わった様子を見せていた。今の言葉だけでも入れるだけの中身が存在し、時間をかけて掴む必要がある程の核心があるということが示されており、早くも出雲の中では色々な思考が回り始めていた。

 

 「……つまり?」

 

 そこでようやく、焦れたようにポツリと口にされた出雲からの先を促す言葉に、見えないながらも画面の向こうでゴーストがにやりと口角を上げた気配がする。

 

 「あったよぉ……“世界”が。間違いなく、しっかりと、彼の意図通りに『DEUS』は稼働した!」

 

 急に熱のこもったゴーストの言葉に、出雲は違和を感じて眉をぴくりと動かした。

 

 「彼……? お前は秋吉あきよしさんを知っているのか?」

 

 『DEUS』開発者の名前自体は秘密という訳ではない。しかしゴーストの言葉にはただ名前を知っているというよりも一歩踏み込んだニュアンスが感じられた。

 

 「まあ、まぁまぁ、それはいいじゃない。それより新しい“世界”の話をしよう」

 

 露骨に話題を逸らして誤魔化したゴーストの態度だったが、それでも出雲の中では実際に現状への興味の方が勝る。あるいはこの変人の一挙毎にいちいち反応するのが疲れてきたという部分もある。

 

 「それで……どうだった? どこからの操作で、どういう経路で“種”が持ち込まれた」

 「誰が、あるいは何が操作をした犯人なのかはまだ検討もつかないね」

 

 あっけらかんと答えたゴーストだったが、さすがにこの時点でそこまでの真実が得られるとは出雲も技術開発部長も考えてはいなかった。

 

 しかし続く返答は予想していたものとは違う内容だった。

 

 「“種”……基データは持ち込まれたものじゃない、始めから内部にあったものだ。逆に聞きたいけど、心当たりはないの?」

 「は? 内部だと?」

 「っ!?」

 

 社員がログを探っても詳細不明だった謎のデータの来歴が、自分たちの懐の中だったという指摘に、出雲は口を開いて間抜けな顔を晒し、技術開発部長は声も出ないほど驚愕していた。

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