二十四話 情報交換して依頼を受ける

 「あんた何か知っているのか!?」

 

 それまで隊長さんの方を見て話していたベッドの上の衛兵は、今こちらを食い入るように見ている。そしてその状況は周囲の他の衛兵たちの注目もこちらへと集めることとなっていた。

 

 要するに、すごく見られている。それはもう「こいつは何者だ!?」と目から声が聞こえてきそうな程の視線だ。

 

 「いえ、その、実は僕らも黒い獣と遭遇したことがありまして」

 

 とはいえ、実際あれが何かを知りたいのはこちらだって同じ。言えることだってほとんど何もない。

 

 「毛色だけでなく爪や牙まで黒い、異様な姿のオオカミでした」

 

 続けてそう告げると、衛兵は何度も頷いている。

 

 「オオカミだって!? 我々が見たのはウサギだった……、同じように何から何までが黒い異様な雰囲気の……。それが見ただけでも五体はいた」

 

 先入観だけどウサギならオオカミよりは弱そうだ。けど、数が多いのか……、厄介さということではむしろ脅威は大きくなっているかもしれないな。

 

 「ウサギの獣ならホーンラビットやトビハネラビットがこの辺りにはよく出るが、あんな黒いのは初めて見た……。それに全くといっていい程に敵わなかった」

 

 彼らが「敵わなかった」といったところで、聞いていた衛兵たちがどよめいた。隊長さんも渋面を作っている。

 

 怪我をした三人が特別に弱いなんていうことはなく、彼らが手も足も出なかったなら、ここにいる誰にとっても脅威だということか。

 

 そこで言い出しづらそうに、しかし確かな声で隊長さんはこちらへ話しかけてくる。

 

 「その黒いオオカミは、いったいどうやって対処したんだ? 君が今無事だということは少なくとも追い払うことはできたのだろう?」

 「ええ、ソルと二人で倒しました。しかし一瞬目を離した隙に死体は消えてしまいまして、結局何も詳しいことはわからずじまいだったのですよ」

 

 聞かれたことに答えると、その場には言葉にならない動揺がどよめきとして流れる。先ほどまでこちらに釘づけられていた彼らの視線は、今は僕とソルの間を行ったり来たりしていた。

 

 「たお、せたのか……?」

 「それは間違いなく」

 

 再度確認される言葉に、はっきりと頷く。確かにあの時黒オオカミから目を離してはいたけど、実は生きていて逃げられたとは考えられない。間違いなく仕留めてはいたはずだ。

 

 衛兵たちが呻いたり互いにぼそぼそと相談したりする中で、隊長さんは手を口元にあてて熟考している。

 

 そもそもの情報が少なすぎるから、何を考えているにせよ難しい判断なんだろう。

 

 と、どこか他人事として構えていた。

 

 「見る限りでは君たちは旅人だな。黒ウサギの捜索と……できれば討伐を依頼したい」

 

 唐突にそんなことを頼まれた。

 

 いや、考えてみれば当然の流れか。衛兵たちの手に負えない獣がいて、それを倒したことがあると言う旅人がここにいる。向こうからすれば渡りに船だ。

 

 こっちからしても、国境門を開けてもらわないと困る。絶対にゴルゴンへ行かなければ! っていう訳でもないのだけど、やはり現状では魔族領――というかデータムがいるかもしれない場所へと向かうのが、どう考えても妥当だ。

 

 そもそもの話、黒い獣の存在は僕の方でも気にはなるし。

 

 「受けましょう。ただし、期限は切ってその間に見つかれば討伐するということでいいですか?」

 「ああ、国境門もいつまでも封鎖し続けるという訳にはいかないからな。それで構わないからお願いしたい」

 

 こうして、僕とソルはショキノ王国を出るまでに一仕事することとなった。

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