二十話 真っ黒な色をした不安

 ゲーム『オルタナティブ』であれば、倒した獣は素材アイテムなんかを剥ぎ取ったらそのまま消滅する。ゲーム的には死体を際限なく残したり、リアルな腐敗システムをいれたりなんかしたら際限なく負荷がかかるから、それを避けるためだ。

 

 しかし“ここ”へ来てからは違う。……違った。

 

 倒した、つまり殺した獣は死体となって残る。有用な部位をとった後も当然消滅したりはしない。それが大地に還って植物なんかの栄養になって……という循環を考えると、自然というのはそうあって然るべきなんだけど。

 

 そういった現象が自分の創造した“世界”の如何にもゲーム的な不自然さを見せつけられるようでもどかしく、一方で期せずして完成した『オルタナティブ』を見ているようでわくわくする気持ちも抑えられないのが正直なところだった。

 

 まあ個人的な感傷は置いておいて、今はこっちの問題か。

 

 「消えてる、よな?」

 

 僕の呟きを背に聞きながら、ソルは慎重に一歩二歩と問題の場所へと近づく。時間はかからずに黒オオカミが倒れたはずの場所に辿り着いたソルは、しゃがみ込んで地面を調べ始める。

 

 「うん、完全にね。毛の一本も、血の跡すらないよ」

 

 あの少年盗賊の仲間か何かが潜んでいて、それがお金になりそうなあの黒オオカミを持ち去った可能性を疑ってはいた。けどソルの言葉を聞いてその可能性を内心で否定する。

 

 つまり黒オオカミの死体を何者かが持ち去ったとかいう可能性はほぼなくて、あの獣を構成していた物質がきれいさっぱりと無くなっているということなのか。

 

 「マスターはあんなの作ってないんだよね?」

 

 改めて確認してくるソルの言葉に、僕はしっかりと頷き返した。

 

 「間違いなく、ね。全身が黒一色なんて特徴的な外見、もし設定するとしたら何かの意図がある場合だから、忘れているってことも無いと思う」

 「そっかぁ」

 

 それを確認したところで何がわかる訳でもないけど、ただ不安だな。

 

 この世界には僕の知らない人や物がわりとたくさん存在している。でもこれまでのそれらは、「確かに“本当の”世界だったらそうじゃないとむしろ不自然だよね」と納得できるような部分ばかりだった。

 

 そうすると、やはりあの黒オオカミはおかしい。あんな攻撃的な獣は明らかに不自然というか反自然的だし、それこそゲームみたいに死体が消え失せるなんてまるでそもそもがこの世のものではないみたいだ。

 

 「うぅ……ん。考えて答えがわかるとは思えないから保留するけど……。頭の片隅に置いて警戒だけはしておこうか」

 「うん、他にもいたら危ないもんね」

 

 素直にソルは同意してくれたけど、僕としてはそんな単純な危惧ではなく、この世界そのものの足元を崩しかねない、そんな大きな不安が消しきれなかった。

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