十六話 異変不穏不安
「くぅ~っ。 ようやく、フスラ丘陵は抜けたか」
身体を伸ばしながら思わずそんな声が出る。
「大きく作り過ぎた?」
「そうかもしれない。自分の足で歩くと流石にだるかったよ」
ゲーム中の移動に旅感を出したい、という思惑で大きな街と街は割りと間隔が大きくとってある。特にこのフスラ丘陵は広大で、丘陵といいつつそこには草原や林も含まれる広大な土地となっていた。
高スペック故に疲れもほぼ感じず、移動速度も抜群に速い僕とソルの二人旅でもここまで一週間を要していたほどだ。馬車定期便は楽だろうけど遅いし、馬を買ってしまうとそれはそれで扱いに困るし、結局はこうやって歩くのが一番良さそうだから歩き旅をしているけど。
「そういえばジオはいるのかな……?」
ソルが唐突に呟いたのは、地形担当ツールの名前だ。ゲーム制作では文字通りに地面の起伏や、あと大雑把に植生もパラメータを入れれば自動生成してくれる。そしてその名称は、ゲーム内の鍛冶国家ゴルゴンでは大地神として信仰されるものでもあった。ファストガを含むショキノ王国で天空神ソル・トゥールが祀られているように、ジオ・トゥールとして祀られている。
「素直に考えるなら、大地神教会にいるはず……かな」
「そうだね、アタシも気が付いたらあの教会の託宣室に意識があって、いつでも実体化できるっていう感覚だけがあったんだよね。だけど訳わからなくて不安だから隠れていたんだ」
照れた様子で苦笑いをするソル。なるほど、僕が部屋に入った時の出来事はそういった経緯の上でだったのか。
「そうなると、ゴルゴンに入った後は向こうが気付いて呼んでくれるのを待つか、それかとにかく大地神教会に入ってみるか、っていうのは試してみた方が良さそうだね」
「うんっ」
ソルが嬉しそうににかっと笑って頷く。僕としても他のツールとも“会える”というならすごく楽しみだ。
「お、あの農家……」
ちょうど見えてきたのは風車小屋が目印の農家だった。フスラ丘陵を抜けて、ショキノ王国北端であるガラガラ平原へ入る前のちょうど境界上に位置する場所だ。
「あそこでは確かイベントが……」
「あったんだっけ?」
曖昧な記憶を手繰り寄せようとする僕に、ソルは疑問形で相槌を打つ。正直細かいところまでは覚えてないし、前にソルとも話したけど細かいデータはデータム・ツールがいないと自信が無いな。
「ちょっと確信は無いけど、前を通ると農家の人に助けを求められる……はず」
「何があるの?」
「うーん……、ちょっと普通より大きくて強めのファングウルフが近くにいるとか、そんなのだったかな」
思い出しながら速度を落として歩いていると、僕らに気付いたのか麦わら帽をかぶった四十代くらいのおじさんが駆けてくる。
「お、合ってたみたいだ」
「受ける?」
「うん、せっかくだからちょっと建物の中で休憩させてもらいたいし、ファングウルフの一匹くらいは請け負おうか」
すぐに方針は決まった。まあ苦戦するような話でもないしね。
「ちょ、ちょっと待ってください、旅人さん!」
やや甲高い声で、息を切らせながら話しかけられる。よく日焼けした顔は、いかにも困っているという風に眉尻が下がっている。
「どうしました?」
ここでいきなり「ファングウルフなら倒しますよ」なんていったら危ない人だから、とりあえずは普通に返事をする。
「助けて欲しいのです! 黒い毛並みの巨大なオオカミがっ……、このままでは私たち家族は皆喰われてしまいます!」
黒い毛並み? ファングウルフはグレーだし、他を考えてもそんな見た目の獣は作った記憶がないんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます