十四話 去り際に逸話を残すタイプの神々

 街門へ向かって歩きながら、圧縮鞄の中をみて旅の準備を再確認していたソルが顔を上げてこっちを見る。

 

 「大丈夫そうだね」

 

 そういってにかっと笑うソルの腰には、先ほど受け取ったばかりのロングソードが差してある。作った時には自分で使うつもりだったけど、昨日時間があるときにソルの武器を買いにいこうと提案したら剣がいいと言われて、そこで気が変わった。

 

 僕、というかこのテストさんが作る武器は質がいい。おそらくこのファストガで買えるどの武器よりも。

 

 ということで明確に得意武器が剣であるなら、それはソルが使った方がいいと思ったのだった。僕の方はせっかくだからスキル『デバッガー』の効果を色々と試したい気持ちがある。だから武器についても手に入ったものを適当に試してみるつもりで、元々この作ったロングソードを長く使い続ける気も無かった。

 

 何より、僕の手製のロングソードを、今もおそらくは無意識に鞘の上から撫でているソルの嬉しそうな表情を見ると、これで良かったと確信できる。

 

 「ところでソルの戦闘関係の技能とかどうなってるんだ?」

 「ん? 剣術が得意なのと……、あとは天候操作が限定的にできそうかな」

 「それってツールとしての能力ってことだよな、限定的なのか?」

 

 本来のソル・ツールはゲーム『オルタナティブ』を制作したツールの一つだ。操作も何も天候についてはすべからく担っていた。けど、この世界にいるソルという女の子としては、そういったツールの機能は使えないと思い込んでいた。要するにゲームキャラクターとしての能力に準じていると。

 

 けどこの言いようからすると、限定されるものの使えるってことか?

 

 「たぶんね。天候とか気候っていうほど大規模なものじゃないけど、それを利用した魔法みたいなものは使えそう」

 「へぇ……」

 

 今一つピンとは来ないけど、要するに本来ゲームには存在しなかった種類の魔法技能とかスキルが使えそうって解釈でいいのかな?

 

 「試してみないと何ともいえないけどね」

 「そうだな」

 

 ソル本人すらもピンと来てはいないようだった。確かにこの本来の自分にはできないことが技能として出来る確信はある、っていう感覚は何とも表現が難しい。調薬や鍛冶の時にそれは体験したからよくわかる。

 

 「ならゴルゴンへ行く道中で試してみようか。僕もだけど剣術とか体術がどの程度扱えるかも試しておかないといけないし」

 「うん!」

 

 そう言いながら、ちょうど街門が見えてくる。

 

 「あっ……」

 「どうしたの?」

 

 こちらを見つけた髭の門番――ヒーゲン――が口をもごもごと微妙な表情でこちらを向いているのを見て思い出した。

 

 「天空神教会での用事が済んだら会いに来てくれって言われてたんだった」

 「あぁ……」

 

 その話はソルは知らないだろうけど、ソルに呼ばれたことで中断された用事だとは察したようだった。ちょっとだけ気まずそうにしている。

 

 けどこれは完全に僕の落ち度だなぁ。

 

 「街を出るのか? ……結局探しに来てくれんかったなあ」

 「……申し訳ない」

 

 色々と言い訳が頭を過ぎったものの、結局は素直に謝った。けど頭を下げた僕をみて、むしろヒーゲンは慌てたようだった。

 

 「あ、いや責めるつもりは無いさ。噂は聞いている。教会からあんな風に呼ばれたからにはただ者じゃないとは思ったが……、依頼センターでの騒ぎのことを知った時には驚いたよ。この街の人間として礼を言わせて欲しい」

 

 今度は逆にヒーゲンが頭を下げてくる。どうしようかと思ったけど、少しして顔を上げた彼のいたずらに成功したような目つきを見て肩の力が抜けた。気にして謝る僕に気を使ってわざと大仰に話題を逸らしつつ街の人々からの感謝を伝えてくれたようだった。……要するにすっぽかしたくらいは別に気にするなってことか。

 

 「目的地はあるのか?」

 「ええ、ゴルゴンへ……」

 

 門をくぐりながら道の先を見る。この先には僕が目覚めたフスラ丘陵の草原地帯があって――

 

 「マスターっ!?」

 

 動きを止めていた僕とヒーゲンは、ソルの慌てた声で我に返った。

 

 「でかいっ! まさかワイバーンか!?」

 

 丘陵地帯上空からこちらへ向かって大きな空飛ぶトカゲ、ワイバーンが飛んできている。あれはゲーム後半に訪れるような場所に生息する獣で、こんな初心者向けのスタート地点近くに……、いやそれは“ゲーム”の話だ。いい加減に僕も切り替えよう。“現実”ならこういった不慮の事態だってありえる。問題はその事態にどう対処するか、だ。

 

 「この詰め所に弓矢は……」

 「マスター、ここはアタシに任せて」

 

 遠距離武器さえあればと確認をしつつ、触媒無しでも行使できる魔法技能を頭で思い浮かべていると、落ち着いた様子のソルから提案があった。

 

 単純に勝てるかどうかでいうと、始めから高レベル高汎用性に仕上がっているこの身体でなら問題なく圧勝できる。ただ準備・装備が整っていない現状だと遠距離攻撃手段が限られるから、街へ入られずに撃退できるかというと自信がない。そうなるともう選択肢はないな。

 

 「任せた!」

 「うん、大丈夫だよ!」

 

 僕が力を込めて言うと、大きく頷いたソルが門からさらに数歩外へ出て、ぐんぐんと街の方へと高度は落とさずに近づくワイバーンを睨みつける。僕はもう腹をくくって任せたけど、ヒーゲンは状況がよく分からず慌てている。けど説明する暇も無いから今は悪いけど一旦放置だ。

 

 剣で空を飛ぶワイバーンは落とせないから、ここはついさっき話していた“あれ”をやるってことだろう。

 

 「太陽よ応えて! ソーラーレイっ!」

 

 ソルが口にしたのは、ゲーム『オルタナティブ』のスキルとして作った覚えのない技名。そしてその効果はすぐに目の当たりにすることとなった。

 

 「ビィギィヤァァ!」

 

 音も無く上空から降り注いだ一筋の閃光に貫かれたワイバーンが、悲鳴の尾を引きながら墜落する。今上空に燦々と輝いている太陽の光を収束してレーザーとして撃ち降ろしたようだった。

 

 「へへんっ! どうだった、マスターっ」

 「さすがソルだ、頼りになるよ」

 

 嬉しくなった僕が思わずソルに近寄って頭を撫でると、ソルの方も目を細めて満足そうにしているのだった。

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