十三話 出発の日
鍛冶を自分でして作ったロングソードの刀身に、鍔の取り付けと握りの拵えはソロンさんにやってもらうことになった。
二日後の今日がその完成品の受取日であり、ファストガからの出発日にもなっている。
「丁寧で見事な完成度です、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそこれほどの業物の制作に関われて光栄でした」
鍛冶技能が高いおかげか、一目見ただけで受け取った完成品の質の高さがわかった。それにソロンさんがとても丁寧に心を込めて作業をしてくれたのであろうことも。
ちなみにこの作業費用については請求されなかった。というかソロンさんから「やらせてもらえるなら、むしろお金を払いたい」とまで言われてしまったくらいだ。デバッグアバターのスキルとして深くは考えていなかったけど、このテストさんが扱える“高度”な技能というのは、一人前の職人にそこまで言わしめるほどのものだったらしい。
「付与は本当に良かったのですか? 推測ですが、テストさんなら付与も相当な技術レベルでこなせるのではないですか?」
付与は武器や防具へ魔法効果を後付けする作業。これもゲーム『オルタナティブ』でプレイヤーが習得可能な技能の一つだった。
ただ切れ味が良いだけの剣や、頑丈なだけの防具ではゲーム終盤の強敵には敵わない。炎による追加ダメージや、着用者の生命力を回復する鎧など、そういった装備が必要となる。そしてそれがプレイヤーに習得可能な技能である以上は、当然スキル『デバッガー』の範囲には含まれている。
が、こと付与に関しては他の技能のように簡単にはいかない。付与をするには対象の装備品と、素材となる魔石、そして付与効果のレシピが必要だった。レシピといっても本を読めばいいというものではなく、ゲーム的には既に魔法効果が付与されているものを“消費”して覚えることになっていた。
この辺り実際にこの世界オルタナティブでどうなっているのか、それとなく何人かのセンター職員に聞いてみたところ、魔法装備を復元不能なくらいに分解して解析することで覚えるのだ、という話だった。当然そんな勉強を僕はしていない。だから付与の技能はあっても付与できる効果が無い、という状態なのだった。
そこまでやりだすといつまでも準備が終わらないし、これから向かう鍛冶国家ゴルゴンには優秀な鍛冶師だけでなく、付与師も大勢いるはず。だから当面は今受け取ったばかりのただのロングソードで十分だろう。
ということで当たっているけど当たっていないソロンさんの推測には曖昧に微笑みを返しつつ、改めてもう出発することを告げて依頼センターを離れたのだった。
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