八話 踏み出す一歩

 「ゴルゴンに向かうとして、まずは旅の準備か……路銀とか」

 

 教会を出てしばらくしてから呟いた僕の言葉に、ソルは振り返って後ろの方、さっき出てきた教会の方角を見る。

 

 「戻って最高司祭の人にお金出してもらう?」

 

 きっと頼めば出してくれるんだろうなぁ……、それもありったけ。

 

 僕の脳裏にはソルを引き連れて託宣室から出た時の様子が浮かぶ。最高司祭さんはそれはもう驚いていた。きっと神託で招かれた僕が何らかのありがたい言葉を賜って出てくる、くらいに想像していたのだろう。いや、ていうか密室に一人で入って二人で出てきたら普通驚くか。

 

 ちなみにソルが“誰か”は説明していない。天空神教会にも“ソル・トゥール”の見た目に関しての詳細なんて伝わっていないし、素直にこの子があなた達の進行する天空神で僕の仲間です、なんて言ったところで信じてもらえる訳もない。

 

 ただ「この子の名前はソルで、仲間です。天空神のお導きで合流しました」と、嘘は無いけど無理と不明点しかない説明だけをした。状況からして最高司祭さんは神から選ばれた存在である僕が、神の遣わした存在を連れて出てきた、と解釈しているようだった。

 

 まぁこの世界では信仰する神の加護を得ようと名前にその神の名前を付けることは珍しくない。名前の後に“トゥール”を付けた場合は明確に神そのものを指すから、逆にいえば“トゥール”をつけなければ全く不敬には当たらない、とされているからだ。僕の作った通りであるならば、ここファストガの街にも“ソルの微笑み”という名前の宿酒場もあるはず。

 

 と、まぁ思考が逸れたけど、神そのものとは思っていないだろうけど、その遣いくらいには認識しているであろう相手にお金をせびるのはちょっと申し訳ない。本当に困ったら頼ることもあるかもしれないけど。

 

 「それは最後の手段にして、まずは自分たちで稼ごうか」

 「うん、じゃあ手っ取り早く依頼センターかな?」

 

 考えをまとめて伝えると、ソルも同じようには考えていたのかすぐに代案が返ってきた。

 

 ゲーム『オルタナティブ』では経験値やお金を稼ぐために各地で無数の依頼を受けられるようになっていた。獣退治や荷物運搬、護衛など多岐に渡るそれらを受ける場所が依頼センターで、センターで依頼を受けながら各地をまわる人は旅人と呼ばれる。ちなみに依頼センターは旅人組合が各地の統治者から承認と支援を受けて運営する半公半民の施設だ。

 

 ゲームと同じなら、手っ取り早く、また後腐れなくお金を稼ぐのなら依頼センター一択だった。

 

 「そうだな、場所は同じかな」

 「街全体としては違う部分も多いけど、センターのある場所はマスターの作った通りだよ」

 

 どこかうきうきとしているソルと並んで、活気のあるファストガの街並みを依頼センターへと向かって歩き出したのだった。

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