六話 神々の邂逅
「こちらです」
案内されたのは教会内の一室、かなり高いところにある扉の前だった。外から塔みたいに見えていた部分の、多分天辺にある部屋だろう。
「ここは?」
「託宣室です。本来であれば最高司祭である私のみが立ち入りを許される部屋で、私共天空神教会の信奉するソル・トゥールからのお言葉を賜る場所です」
あぁ、僕を探しに来たシスターはお告げがどうとか言っていたな。それをここで聞いている訳か。
「入れということで?」
確認すると最高司祭さんは頷いてから恭しく一歩下がる。この人以外入ってはいけないというこの部屋に入れという以上は、それがこの人の受けたお告げの内容だったのか。軽く俯いて目線も伏せている最高司祭さんは、これ以上何かを言うつもりはないようだ。危なそうな雰囲気も別にないし、素直に入ろう。
錠の付いていない扉を引くと、全く軋み音も無くすっと開く。よほど丁寧に手入れされている様子だった。そのまま壁に窓がある以外は本当に何もない小さな部屋へと入る。
扉を閉めてから改めて見回すけど、大股で二歩歩けば反対の壁に辿り着く程の狭い部屋内には何も無いし誰も居ない。祭壇の様なものも無いこの部屋は、神の言葉を賜る場というよりは、修行場といった風情だ。
「あ……」
ふと見ると、入ってきた扉の反対側、部屋奥側の壁にある窓の下、そこに何かきらきらとした光が舞っている。サイケデリックなその燐光は徐々に集まって、人型へと収束していく。
「これって、そういうことか?」
さすがにこれから何が起こるのか予想がついてきた。この場所に“神託”で呼ばれて、そしてここにいる“何か”が顕現しようとしている。それが何かはもう確定的だろう。
「――ぁ!」
「ん?」
何か聞こえた。……声、か? 燐光から響いてきたような……?
そして収束しきった燐光は人の形を成す。
「マスッタァァァー!」
「なぁっ!?」
なんか絶叫が聞こえる!?
光沢のある赤の短髪に、こちらも光を強く反射する赤い瞳。今の僕から見ると見下ろすくらいだけど女性としては平均よりやや高い身長、そして手足の長いスレンダーな体型。健康的な浅黒い肌色も相まっていかにもスポーツ少女といった雰囲気。
そんな見た目の少女が、叫声の尾をひきながら僕の胸へと飛び込んできた。
「っと」
かなりの勢いで突っ込んできたけど、バランスを崩さずにしっかりと受け止める。ゲーム『オルタナティブ』制作で苦楽を共にした仲間なんだ、全力で受け止める以外の選択肢なんてない。
……仲間、そう、僕にとっては道具ではなく仲間として認識していた。この子は――
「ソル・ツール、だよな?」
ゲーム内の天候や気候に関する生成と制御を担当したツールの名前を口にした。
すると、弾かれたように赤髪の頭部が上を向き、潤む赤瞳と視線が合う。
「そうだよ、マスター! こうして直接触れ合える日がくるだなんて!」
何がどうなってこうなっているのか、この世界そのものの事も含めてさっぱり理解ができない。けど、今この瞬間にうれしい気持ちがある、そのことは迷うことなくこの子――ソル――に同意だった。
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