四話 チュートリアルへの導入

 「テスト……で、馬鹿? いやテスト・デ・バッガって言ったのか? なんだ、いやなんですかその……お貴族様みたいな名前ですが」

 

 髭の門番は言いながら段々丁寧な口調になっていく。そうだった、『オルタナティブ』の人間社会だと一般庶民は名字がない。あるのは貴族で、しかもミドルネームまであるのはその代で勲章を受けたような傑物だけだ。まあ設定上、デというミドルネームがつく勲章も、バッガという貴族家もないことを僕は把握しているけど、この人は知らないよな。

 

 「いやいや、なんていうか、僕の地元だと庶民でもこういう名前が普通なので」

 「ん? 何か思い出したのか? ……あ、いやさっきも何か妙な言い回しをしていたな。ここにいる経緯だけが思い出せないと言っていたか」

 「ええ、まあそのようで。名前は……テスト・デ・バッガといいまして、まあしがない旅人……というか冒険家のようなことをしていたのですが、なぜか気付けばそこの草原で寝ていまして」

 「オオカミ草原でか? よく無事だったな……」

 

 デバッガ―として色々まわっていたアバターだから、このテストの自己紹介はこんな感じでいいよな? まぁ出身地とかの設定を作り込んでいた訳でもないからそこらへんは適当にいったけど。

 

 いや! ていうか! 僕の今の体、テスト・デ・バッガになってるし!?

 

 なんとなく目覚めてから違和感があるとは思っていたけど、その正体はこれか。テストはかなりの長身だから、元々小柄な僕からすれば不思議な感覚になって当然だ。

 

 といっても今さら驚きもそれほどか。自作ゲームである『オルタナティブ』そっくり、というかそのままにしか思えない異世界にいつの間にか放り込まれている衝撃に比べれば、まだ納得できることにも思えた。というのもゲームとしての『オルタナティブ』内を自分で歩き回った唯一の姿はこのテストさんだったしな。

 

 「揉め事ですか? 引き継ぎますか?」

 「もうそんな時間か……、いや大丈夫だ。この人はちょっと連れていきたい場所があるからちょうどいい」

 

 そこに髭の門番と同じ格好をした若い男が近づいて声を掛けてきた。もしかして交代か?

 

 僕が作ったファストガの門番はこの髭だけで、交代なんかしない。二十四時間いついかなるときもこの人が立っている。

 

 ……けど考えると交代制なのは当たり前だよな、NPCじゃない人間が永遠に門番をし続けるなんてできる訳が無い。なんか意外なところでここがゲーム内じゃなくてゲームによく似た異世界だと実感させられてしまったな。

 

 だからこそ、自分が一人で自分のためだけに作っていたゲームと同じ世界がここに存在しているということが、ものすごく不気味にも感じられるけど。僕はどこかから謎電波でも受信して作っているつもりで作らされていたのだろうか。……いややめておこう、何か怖くなってきた。

 

 「あんたも、それでいいよな? 何も覚えていない訳ではないにしても途方にはくれていたんだろう?」

 「あ、はい。じゃあちょっとお言葉に甘えて――」

 

 ゲームの『オルタナティブ』の方なら戦い方からお金の稼ぎ方、人脈や権力の手に入れ方まで把握している。ファストガで受けられるチュートリアルについても最初に作ったという印象深さもあって事細かに覚えている。

 

 しかしどうやらここは『オルタナティブ』にそっくりなだけで、『オルタナティブ』ではないらしい。となると、さっきの髭の門番とのやりとりみたいに、色々と体験してみないと何が違うかもわからない。そういう意味ではこのお誘いはちょうどいい、というかかなり助かる。

 

 しかし申し出を受けようとしていたところで、横やりは予想外のところから入った。

 

 「待ってください! そのお方には用があります!」

 

 僕の全く把握していない横やり、それは修道服を着たシスターの姿をしていた。

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