第12話 煙草

「陽太!待ったか!!」

「待ってない!!!!」


雪翔と最悪な再会をしてから1週間位が経っただろうか。

あれから、毎日と言っていい程雪翔が人の家に顔を出すようになってきた。


俺が住んでいるのはUGNの管理下にある借家だ。

オーヴァードはいついかなる時に死ぬかわからないからな。

一般的な家に住むよりも、いつ死んでもその場で処理しやすい管理下に居る方が楽だ。


しかしだ。

この借家はUGNの管理下にあるはずなのに

簡単にFHの侵入を許してしまう。


管理は欠陥だらけだ。


と言うか、UGNは俺を監視しているはずなのに侵入を許すとはどういうことだ。

むしろ俺の素性がバレてしまうとはどういうことだ。


「…なんで毎度毎度居場所がわかるんだ?流石にFH抜きにしても気持ち悪い」

「俺はお前の双子の兄だからな!!」

「いや理由になってないんだよなそれ」


ある時は俺がUGNの支部から出た直後

ある時は俺が依頼を終えた直後

ある時はバイトの帰り道


といった具合にピンポイントで俺の行く先々に居る。


流石にここまで来るとストーカーである。


「んで、今日は何しに来たんだ。さっさと用件を済ませろ」


「あぁ、この間言っていた試作品が完成した。」

「試作品?一体何のこ―――」


そう言いかけると、雪翔は俺に一つの真っ白な箱を差し出した。


白い箱にはロゴや文字など何も描かれていない。

まるで真っ白なキャンパスの様に白い。


その形は煙草のケースと一致している。


「…煙草を俺に吸わせようとしている上に試作品ってFHの実験台にでもする気か!??嫌だ!!!」

「この箱を一目見ただけでそこまでわかるなんて陽太も成長したな!」

「成長じゃねえ!!断る!!!!俺は煙草は好かねえ!!!」


まぁまぁ、と言いながら箱を押し付けてくる。

渋々箱を開けるとそれも真っ白な煙草が出てくる。


俺は酒は好きだが煙草は吸わない。

持っているエフェクトの影響か、臭いが強い物はあまり好かないからだ。


それに煙草を吸えば寿命が短くなるというし、お酒もまた然り

それならば、臭いがキツイ煙草よりも大好きなお酒を取ろうと酒を好んで飲んでいる。


(…いや酒も体によくは無いけどさ)


用意周到なこの男は

一本吸ってみろと言わんばかりにちゃっかりライターまで用意してある。

俺があからさまに嫌な顔をしている+押しのけているのに

負けじと煙草を押し付けてくる。


とんでもない執念だ。


「帰れ」

「おっとそれはもう少し待ってくれ!」

「此処は俺の家ですーお引き取り願いま――――」


と、雪翔の背中を押そうとした途端、意識が朦朧とする。


「は?」


俺はガクン、と脚に力が入らなくなりその場に崩れてしまう。


「こんなこともあろうかと得て来た。お前、自分で言っただろ?俺はFHなんだから…今はお前の敵なんだ。敵は相手を陥れてくる奴ばかりだぞ?」

「クソ……やっぱり嫌いだ…………」


恐らく何かのエフェクトを使われたのだろう。

完全に不意を突かれた。


1週間通い詰めてきたこいつは人にエフェクトを放つことは無く

俺にはそういうことをしてこないんだろう、と油断をしていた。


「取りあえず1本だけでいい」

「………………………ハァ…………………吸ったら帰れよ」

「流石俺の片割れ!!話が分かるな!!!」

「強引にそう言う流れに持って行った奴が言うんじゃねえ!!?」


こんなに頭がおかしい奴だったか?

やはりFHは人の兄を狂わせた悪い機関だ、とより憎悪が増す。


煙草は一度だけ吸ったことがあるが、良い物では無かった。

初めて吸った時は咽たものだ。

多分こうだろう、と煙草に火を点け煙草を吸う。


その煙に咽ることなく、すんなりと体の奥へと浸透していく。


「……?」(何だ……?コレ)

「煙草を吸ったことが無い奴でも煙草を吸えるようになる代物だ!凄いだろう!」

「いや…なんでそんな無駄な商品を…………?」


確かに以前は咽ていたはずの煙草は、すんなり受け入れられる。

しかし妙な違和感を感じる。


――煙草の煙と共に何かが暗んでいくような――


「雪翔、この煙草は…何だ…?」

「簡単に言えば、初心者煙草キットだな!」

「馬鹿にしてんのか」

「ハハハ、さっき言ったことがわからなかったようだからな!良し!1カートン置いて行くぞ!!」

「え、いらな―」


「遠慮するな、心地よくなれるぞ。お前の心を静めてくれるよ。」


雪翔は人が静止する暇もなく

鞄から1カートンをテーブルの上に置き立ち上がり

俺の家から出て行った。


「何だったんだ…あの嵐の様な奴」


ただ煙草を吸わせたかっただけなのか?

ソレなら態々エフェクトまで使ってくるか?


そもそも

思い出せぬまま時間だけが過ぎた。


気付けば俺は無意識にその煙草に手を伸ばすようになっていた。










陽太の住むアパートから離れた場所まで歩いてきた雪翔

路地裏を歩く辺りで後ろに気配を感じる。


「あの様子だとうまく働いているようだな」

「おっと、居たのか」

「言っただろう?友人の望みは叶えてやると」

「あぁ。俺は陽太が苦しむ姿を見たくないからな。アイツは暗示にかかりやすい。その証拠にFHに対する憎しみが今もまだ実験の所為で根付いている


あの煙草の暗示が上手くいくなら…」


――陽太はあの煙草無しじゃ生きられなくなるだろう――


「あの煙草を作れるのは俺達だけ。そしてFHに対する感情をしてしまえば――陽太は俺の元に自ら帰ってくるようになる」

「実の弟だと言うのに、弟を騙す気分はどうだ?」


「俺は騙しているんじゃあないよ。陽太を正常に戻すだけだ。なぁんにも、悪いことじゃないだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る