第10話 何でも屋

「こんな所に居たのか。探したよ、陽太」

「ん?鳴海か」


何でも屋として仕事を始めた俺は定期的にUGNからの依頼を受けていた。


あれから数年、兄の行方どころか痕跡すら見つからない。

生きているのかどうかすらわからない。

そこらのUGNエージェントから情報を集めているが

これと言った情報は掴めないでいた。


この鳴海という男は生まれつきオーヴァードの素質があったらしく

10も離れた弟がいるらしいのだが――


「お兄ちゃんは弟君に会えてまちゅかー?」

「陽太、馬鹿にしてるね?!?」

「ははは。で、どうなんだ」

「会えてないよ。会うつもりも無いし、できるならこちらの世界に引き込むつもりもないよ」


この男は昔、オーヴァードに目覚めた時生まれたばかりの弟に噛み付いてしまったらしい。

致命傷は避けられたものの、そのご家族の事情により離れ離れになってしまった。

と聞いているが俺は詳しいことはわからない。


★時間軸はパラレルの様なものですが

楽園卓のGMの別卓、通称ファミチキ卓のクランブルデイズにて覚醒したPC1の兄ポジションのキャラです。

卓の関係上本来はパラレルですが、同じキャラってことで書いています★


とは言え、俺と境遇が似ていると思った。

向こうもそう感じていたらしく、話すことが増えたからか

最近では鳴海が俺に依頼を持ってくることが多い。


―この男を信用しているわけでは無いが―


「陽太の方は、まだ音沙汰無し?」

「無いね。お前みたいに境遇が重なった男と繋がりがあると思ってたけど案外無いもんだな」

「そっか…ってそうだ。忘れるところだった。今日の依頼だよ」


鳴海は俺に鞄から取り出した封筒を手渡してきた。

いつもは依頼書一枚で、報酬は袋に入っているのだが――


「…まだ、やるとも言ってないんだけど…これ金か?」

「うん、先払いらしいよ。」

「あ、あやし〜〜〜」


今までいろんな依頼を受けてきたが、先払いと言うものは決して良いものでもない。

お金を踏み倒されない、と言う意味では良いのかもしれないが

先払いの依頼は意外と割に合わないものも多いものだ。


「やめる?でも結構な額入ってるよ、これ」


しかし、鳴海の言葉で封筒をよく見ると確かに厚みがある。

いつもの依頼何回分かの金額であることがわかる。


「うわ、まじじゃん。つかそんな巨額な金…なんで俺に?」


先払いというのは珍しいことでも無いが

そういう依頼であればまずはUGNの人間に渡されるはずだ。


こんな額を支払われるのは初めてだ。

ますます怪しさが増す。


「…陽太を指定してるんだよ、この依頼」

「俺を…?」


とりあえず依頼書だけでも見ようか、と文章を眺める。



UGNイリーガル 神崎 陽太 殿

指定場所:3丁目廃校

指定日時:○月○×日 時間:20時


FHの企みを阻止したくお願いしました。

目的はとあるセルの破壊。

詳しくは直接話します。


当日1人でお越しください。

こちらのお金は前金です。

依頼を完遂した暁には追加報酬も手渡します。



この文だけが書かれていた。

「…怪しい…怪しすぎる……UGNは何故こんな依頼者を信用したんだ?!」

「いや…俺のいる事務所のポストに入ってて」

「ポストに金入れるか普通?!ていうか何で鳴海の事務所!?」


とんだ依頼者もいたものだ。

怪しいことこの上無いのだが、間抜けなのかとも思ってしまう。

依頼主の意図が全く理解できなかった。


(けど…この内容であれば俺である必要は無いんだけどな…)

俺が極度のFH嫌いだと知っているのは一部の人だけだ。

元々、UGNはFHと敵対しているのだ。

やはりこの依頼の相手が俺自身である必要は依頼書からは微塵も感じなかった。


オマケに先払いではなく前金らしい。

どれだけ羽振りの良い依頼主何だと頭を抱える。

しかし――目の前の金は欲しい。


「気をつけた方が良いことは確かだ。君が俺を介して依頼を受けていることを知る人物による行動だ。用心するに越したことはない」

「…そうだな。いいよ受けるよ。誰もいなければ金を持ち逃げするだけだ」


「裏切りを嫌う君が依頼人を裏切るのかい??気を付けて行きなよ!?」



金と依頼書を受け取り、その日は鳴海と別れた。




依頼の日はその日の夜だった。




20時、指定された廃校へと足を運んだ。

冷える冬場の時期

冬の20時に外に出るなど、地獄でしかなかった。

「さっむ…10分待っても来なかったら帰ろ」

本来ならエフェクトで体温調整ができるのだが、あまりの寒さに力をうまく使えない。


もうそろそろ時間か、と辺りを見回すと

校門から人が歩いてくるのが見えた。

暗くて見えづらく、目を凝らした。



「待ったか?陽太」



その人物は、目視で確認し終わる前に俺の名を呼んだ。


聞き慣れたはずの声

懐かしい声



ずっと探していた声だった



「雪翔…?」




そこには、神崎 雪翔が居た。

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