2章 過去編

第9話 選択

この話では公式NPC、霧谷雄吾が登場しています。

人によっては性格や行動の不一致があると思います、ご了承ください。

モブとかも出てきます。


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「……今日も空は綺麗だなぁ」


あれから幾日か経った今、俺は廃墟でぼんやりと空を眺めていた。

研究所だった廃墟を漁れば幾日分か食料があったのでそれを食べて暫くを過ごしていた。

しかしこれからもそうと言う訳にはいかないだろう。


今はまだ肌寒い春だ。時期で言えば3月か4月位だろう。

正直寒いのは苦手なのでこんな山奥に居ては凍えてしまいそうになる。


辺りを探索してみた所

この研究所があった場所は随分と深い山奥の様で

一般の人が簡単に立ち入れないようになっていた。


鳥のさえずりは聞こえるが、それ以外の動物の気配は無く

とても静かな山だった。



ある日そんな静かな山奥に気配が増えた。

鋭敏感覚と言う力があるらしく、猫の様に聴覚は鋭く、犬の様に嗅覚を強め

対象のある方へと目を向けた。


その気配は真っすぐと此方の廃墟へ足を運んでいた。



黒い髪に前髪を真ん中で分けたスーツの男

もう1人はチャラいという表現が似合うだろう、ゴーグルに迷彩服を着た背が小さめの男

二人が姿を現した。


「あちゃー…随分と破壊されちゃってますね~。すいませんね、多忙なのにこんなところまで足を運んでいただいちゃって。霧谷支部長」

「いえ、これも私の仕事の一つです。――ここの施設は私の目の届かない所で行われていたようでして……せめてここで犠牲になった方々を弔ってあげなければいけません。」

「それは支部長として?」

「勿論、それもありますが――一人の人として当たり前の事です」


どうやら気配の数は2人………ではない気がするが

支部長と呼ばれている男を監視するかのように幾人か森に張っている。


恐らく監視と言うよりは護衛に近いだろう。



「…で、今回の目的はアレ」

「彼が…」

「!!」


その二人が不意に視線を此方へ向けた。

二人が来る前に隠れたつもりだったが気配を読み取られていたようだ。


「初めまして~No.2954887クン…っと…施設は無くなったから~本名は~……神崎 陽太クンだね?」

「……」


目的が自分だという言葉を耳にした。

ここの唯一の生き残りだからだろうか?

それとも俺自身が忘れている記憶に何かヤバイ前科でもあったのだろうか?

前者だといいのだが


抵抗は無駄だと察し、二人の前にゆっくり姿を現す。

距離は保ちながら。


「ご存じの通り、神崎 陽太です」


至って冷静に


「おー本当に居たんだね~~~」

「取って食べようと言う訳ではありません。貴方にお話しがあってきました。多忙な身なもので簡潔にはなってしまいますが…と、申し遅れました。私はUGN支部長の霧谷 雄吾と申します」

「霧谷…支部長…」


「簡潔に言います。報告にある限りだと…現段階で貴方は処分に値する状況にあります」

「!」


残念ながら後者だったようだ。

やはり、俺は何かを仕出かしてしまったらしい。

UGNの支部長…と言うのは今一わからないが

先程の2人の会話から察するに多忙の身で恐らく身分は高いだろう。

UGNのトップに値する人間なのだろうと察した。


俺はこの研究所の跡地からするとここで暴れた、と言うのが無難だろうか。

所々に爪痕がある。俺の持つキュマイラの爪と酷似している気はしていた。


危険人物は抹消…と言うのは仕方がないと目線を下に落とした。


「そう……ですか」

「まーまー話は最後まで聞いて~」

「?」


俺が視線を下げたのを見たチャラい男は馴れ馴れしく俺の肩を抱く。

かと思いきや、そう落ち込むなってー!とバンバンと背中をたたく。

痛くは無いが鬱陶しいことこの上ない


「とは言え――これはあくまでです。私は現状を見ていません。貴方の施設とココの因果関係は詳しくはわかっていませんが…この施設を見逃した私にも責任はあります」

「つまり…どういうことが言いたいんだ」


霧谷支部長は手に持っていた資料らしき冊子を鞄にしまい、こちらへ向き直った。


「貴方をUGNで雇おう、と誘いに来ました」

「……俺を…?まさか…UGNで?」

「そうです」

「……」

「選択肢は無いと思うぞー?坊や。何せほぼジャームみたいなことを仕出かしたんだ。むしろジャームになってないのが奇跡って感じ?」


ジャームみたいなことをしでかした

と、なれば


やはり俺はこの施設を壊したのだろう。

妄想に取り憑かれて――



ここは大人しくUGNの言いなりとして償うべきだと

頭ではわかっていた


だが


「……俺はUGNが……いや、他人を信用できない」

「! おいおい、お前――」

「ましてや、FHはもっと信用できない。あれは滅ぼさなければいけない」


記憶が消えても

実験で刻み込まれた”常識”は残ったままだ。

俺の身体は、脳は恐らくUGNに命じられたら逆らえないだろう。


しかし、かと言ってまた縛られるわけにもいかなかった。

雪翔を見つけるまでは――


「UGNには協力する。だが、UGNには入らない。俺は、もう裏切られたくない。」

「選択肢はないって言ったろ坊や?そう言うお前が裏切る可能性は――」

「UGNに脳を弄られ、壊された俺をUGNに入れようだなんて安易な発想…よくできたな?それではい、そうですかと入ると思うのか。今まで不自由な間に合ってきたんだ。」


チャラ男は何を言っているんだこいつは?

と言う顔をしたが、ふと近くにあった機械を弄りだす。

壊れているはずの機械からデータを抽出したらしく

俺に関する資料を探し出したようだ。


彼の行動は的中したらしく、チャラ男はため息をついて資料を支部長へ見せた。


「霧谷支部長、コレですね」

「……成程……わかりました、その条件飲みましょう」

「!! 霧谷支部長!!いくら資料でこうあるとはいえ――」

「いえ、構いません。彼にはUGNイリーガルとして働いてもらいましょう。勿論貴方が裏切らないという確証はありません。なので貴方を監視は怠りませんが、大丈夫ですね?」


監視

と言う単語を聞きいい気はしなかったが

普段は普通の生活を送り

UGNからUGNの仕事をする。


途方にくれた野鳥に仕事をくれたのだ。贅沢は言えない。

―入りたくないという時点で贅沢な選択だが―


「大丈夫。UGNの命には従います。そう――刻まれてますから」

「ふぅん?入りたく無いという意思はあるのにな?じゃー契約完了ってことで!」



俺の知るUGNは人を、子供を、オーヴァードを実験体にする奴らだと思い込んでいた。

しかし、その施設も壊れた今

別のUGNの人間を見ることによって本質を見極めるべきだと悟った。


もしかしたら俺の居た場所が異常だったのかもしれない

もしかしたら本質そのモノなのかもしれない。


どちらにせよ、UGNを信用するには時間が必要だった。




それにUGNには、俺の兄を連れ去った男と繋がりがある者もいるかもしれない。

そう、密かな思いを胸に


俺は何でも屋として活動していくことを決めた。

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