第3話 覚醒②
<渇望>
渇望とは、心から願望し、待ち焦がれることだそうだ。
雪翔がオーヴァードと言うモノに目覚めて早数か月
俺と雪翔はとある施設で育てられることになった。
雪翔は定期的に「検査がある」と、誰かに呼ばれて居なくなってしまう。
俺は雪翔と一緒に居られたらそれだけでよかった。
それだけで満足だった。
親に捨てられてからと言うものの
次第に雪翔に嫉妬をしていることに気づいた。
正直な話、俺はただの人間だ。
雪翔はどういう訳かオーヴァードとして覚醒したのが俺が噛まれたあの日
俺はと言うと、特に何があるわけでもない。
数か月経ったが、体の内側から力が溢れてくるわけでも無ければ
雪翔の様に血が飲みたくなるわけでは無い。
―二卵性双生児とは言え、双子だというのに―
もしかしたら、あの時の人間が言っていたように
雪翔は俺が物心ついた頃から既にすり替わっていたのではないか
とまで思う様になった。
オーヴァードと言うモノは表世界では隠匿されているモノらしく
このUGNの施設でも、最初は俺からそのことに関する記憶を消そうとしていた。
だが、雪翔や俺が余りにも一緒にいる上
噛まれてしまった、尚且つ双子ならば同じ様に目覚めるのではないか
と言うことで様子見観察をされている状態だ。
現状では何もないわけだが。
雪翔が覚醒してから1年位経っただろうか。
俺は未だに覚醒をしない。
雪翔が帰ってこない日が増えた。
幾日ぶりかに帰ってきた雪翔は、いつもの様にただいまと俺に微笑みかけてくれる。
―だが、たまに俺の知らない顔をした そこに少し恐怖を感じた―
「陽太、体調は大丈夫か?」
「大丈夫」
「…目覚めないな?力、俺と同じだと良いな!ソレならお前に使い方を教えてあげられるぞ!」
「・・・・・・」
「…? どうした?陽太…」
「俺、もしかしたら記憶、消されちゃうかも」
「!? どうしてだ!?」
「今まで1年間ここでお世話になっていたけれど オーヴァードに目覚める波長が無いんだって。そしたら…雪翔とお別れになっちゃうな」
「嫌だ!!誰だ!!そんなことを言ったのは!!俺が問い詰めて―」
「いいんだ、もう」
「陽太…?」
「雪翔は、もう…居場所を見つけたんだろ?」
そう、雪翔は居場所を見つけることができた。
幾日か帰ってこなかったのは実験台にされていると聞いたが
話によると任務に足を運ぶことがあったとか
幾人か知り合いもできたのだとか
そんな噂も聞いていた。
「俺は…ただの、人間だったんだよ……俺は、雪翔にはなれないんだよ…」
「・・・」
「俺、お前と一緒に居られるなら、何処だってよかった。唯一の、家族だもん。でも、俺は雪翔みたいに頭も良くないし…力も無い……」
「大丈夫だ、力が無くたって俺が護って」
「俺が、嫌なんだよ!!!」
「っ!!」
「これ以上雪翔と一緒に居たら―――お前に、嫉妬してしまうよ 俺」
「嫉妬…?何を言って…」
羨ましいんだ
居場所を見つけられた双子の兄が
親しい人ができた双子の兄が
力を持つ、双子の兄が
可能性を見つけた、双子の兄が
羨ましくて
仕方がなかったんだ。
「俺だって!!!力が欲しいんだよ!!!雪翔みたいに!!!!!!!!!」
途端
胸がざわついた気がした
今までになかった感覚だ。
身体の内側から燃やされてしまう様な、意識が塗りつぶされてしまう様な
自分が自分で無くなってしまう様な、感覚だ。
「ぅぐ……ぁ………………」
あまりの身体の熱さに俺は起き上がっていることができなかった。
意識が朦朧としている。
"目の前の男"は俺に何をしようとしているのか
"目の前の男"が誰かがわからない
俺が誰かがわからない
身体の内側が熱い
「陽太!!陽太!!しっかりしろ!!!」
「触る………な……………」
今でこそわかるが
この時目の前にいたのは紛れもない双子の兄だ。
だがその時の俺はそれを認識できず
あろうことか別のナニカに見えた
あの時俺を見捨てたナニカに
「神崎 陽太、覚醒しましたね」
「覚醒…?」
「陽太!!!目が覚めたのか!!」
「この事を上司に報告してきます。ではごゆっくり」
目が覚めたら病室だった。
雪翔は今にも泣きそうな…いやずっと泣いていたのだろう
涙で顔をぐしゃぐしゃにして此方を見ている。
「陽太…陽太…陽太…目が覚めなかったら、どうしようかと……!!!」
「……俺は一体何が…?」
「よかったな陽太!!!俺と同じオーヴァードに覚醒したんだぞ!!」
「…俺が…?」
「残念なのは俺とは全く違うシンドロームみたいだ…でも大丈夫だ!これで記憶を消されずに済むしこれからも陽太を護ってやれるな!!」
オーヴァードに、目覚めた?
寝起きの脳だからか、ピンとは来ていなかった
まだ少し頭の痛みを感じ、思わず頭を抱えた。
その時、頭に触れた手に違和感を覚えた
「……毛皮……」
「陽太は、キュマイラって言うシンドロームらしい。獣に変身できたりするらしいぞ!」
「…獣…」
剛毛の生えた腕を見る。
手のカタチは何処となく、鳥に見える、気がする。
―いつしか恋い焦がれた鳥の様な―
「……はは」
これでいつしかの人間が言っていた、バケモノになったわけだ。
しかも姿形も正真正銘、バケモノと言う奴だ。
思わず渇いた笑いが出たが――これこそ俺が求めていた力
そんな気がした。
渇望による覚醒
周りの人を信じられなくなった故か
俺は暴走する時に周りの全てが敵に見えてしまうそうだ。
妄想と言う衝動
ただこの時はそんなことどうでも良く
密かに喜びを感じていた。
これで雪翔に護られずに肩を並べられる、と
この時はそう信じていた。
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