人間側 とある冒険者の茸好
「クエスト受注してきたかい?」
「うん、しっかり受けて来たよ。いつもの『キノコ採集クエスト』」
「よし。じゃ、早速行こう。『キノコの山ダンジョン』に!」
パーティメンバー3人を引き連れ、意気揚々と目的地へ。 もうテンション上がってきたよ!ヤッフー!
ボクはとある冒険者なんだ。 因みに赤い帽子をトレードマークにしてるけど…まあどうでもいいね!
いつもはパーティを組んで色々なクエストを楽しんでるんだけど、中でもボクが好きなのは、『ちょっと難易度が高いキノコ採集クエスト』というもの。
普通のキノコ採集クエストは知っての通り、近場の森だったりを探して採集するだけの簡単なお仕事。薬草採集と肩を並べるTHE・初心者向けクエスト。勿論報酬も安い。
でも、今メンバーが受けて来てくれたクエストはちょっと違う。キノコ採集はキノコ採集だけど、報酬金は普通の採集クエストとは文字通り桁違い。
それは、クエストの目的地に理由がある。近場の森ではなく、『キノコの山ダンジョン』というダンジョンなんだ。
そこはその名の通り全てがキノコで出来た山なダンジョンで、その姿は圧巻。遠くから見ても巨大キノコの群生が見えるほど。しかも青白く輝いているため、夜は中々に目立っている。
そんなキノコの山には、そこまで狂暴な魔物はいない。身体からキノコを生やした魔獣達や、『マタンゴ』『マイコニド』と呼ばれるキノコ型魔物がいるぐらい。彼らは足が遅いから、見つかってもさっさと逃げちゃえば戦う必要もない。
それなのに、なんで報酬金が高いか。まあダンジョンに潜るってだけで危険だから高くなるんだけど…最大の理由はそれじゃないんだ。
このダンジョン、あまり長居すると『キノコに蝕まれる』…詳しく言うとキノコに乗っ取られ、菌床にされてしまうんだよ。
まだ1人2人が頭にキノコを生やしたぐらいだったら抜いてあげて撤収すればいいんだけど、全員が同時にかかってしまうともう残念。復活魔法陣送りを待つしかない。
だから、ちゃっと侵入してちゃっと採集して帰る必要があるんだ。
ん?そんな危険な場所なのに、どうしてボクはそんなに嬉しそうなのかって? よくぞ聞いてくれたね!
ボク、キノコ大好きなんだ!毎日最低一回はキノコ食べなきゃ我慢できないぐらい! ちょっとの毒キノコなら、解毒魔法かけてもらって食べたりするほど。
お菓子もキノコ型のチョコとかあったらそれ選んじゃう! 形だけなのに、ついついね。
はぁー…ほんと、なんでキノコってあんなに美味しいんだろ。あの気持ち良い歯ごたえ、芳醇な味、メインにも付け合わせにもなって出汁まで取れる万能さ…。ビバ・キノコ!
だから、キノコの山ダンジョンはボクにとって夢のような場所。行くとわかるだけでテンションアゲアゲ。
さあ、今日も沢山採りに採っちゃおう! イィヤッフー!
さ、ダンジョン入口にとうちゃーく。入る前に準備だけしっかりとして、と。アイテムは極力置いて、バッグを開けとかなくちゃ。
なにせ、キノコまみれなだけあって質も軒並み高いものばかり。あれもこれも欲しくなっちゃうんだ。今からご飯が楽しみ…!
ボクがそんな風ににやけてると、メンバーの1人が何か思い出したらしく教えてくれた。
「あ、そうそう。さっきギルド受付の人から聞いたんだけど…。なんか最近、キノコの山ダンジョンからの冒険者帰還率が凄い低いんだって」
「どういうことだい?」
「なんか、新しい魔物が出るようになったみたい。キノコを採り過ぎたり、荒らし回ったりすると現れるとか…」
「ふーん…?」
変な魔物も出るもんだね。ま、どうせマタンゴ達と同じく足が遅いだろうし、逃げれば良いだけさ! レェッツ・ゴー♪
軍手をつけて、いざキノコ狩り。だけどキノコって何千何万も種類があり、毒持ちも多数。アタリもあればハズレもある。
なら食べて判断すればいい? それじゃあ『
冗談はさておき。ボクはキノコが好きだからね、専門家並みには種類を知ってるんだ。パーティーメンバー達も頼ってくれる。
例えばあそこに生えている赤い炎みたいなのは触っちゃいけない猛毒。あっちの卵から生えているような赤めのキノコは意外にも美味しいのさ。
他にも、変わったキノコっていっぱいあって…。お、丁度仲間達が質問しに来た。
「ね、この青いキノコってなに?」
「それはそのまま『青キノコ』さ! 栄養価が凄い高いんだ。それと薬草で回復薬を作れるよ」
「こっちのも青いから同じか?」
「そっちは使うと、シールドが5回復するよ。シールドポーションが無い時にもってこいだね!」
「ひっ…! な、なんかすっごい小さいマタンゴみたいなキノコがみっちり…! ムキムキなのとか王冠被ってるのとかいるんだけど…!」
「それはちょっと変わった『なめこ』。美味しいんだ。おさわりしてあげると変な声で鳴くね」
メンバー達の質問をそう捌きながら、ボクも採集をする。お、このキノコはわかりやすい。だって引き抜くと―。
ガタンッ
『特産キノコを入手しました』
…って、空中に文字が浮かび上がるんだ。
「…依頼のキノコは全部集まったみたい。結構早く済んだね。どうする?もう帰る? それとも…」
クエスト書を確認しながら、メンバーの1人が問いかけてくる。勿論、答えはNO!
「ここからは宝探しの時間だ! 召喚頼んでいいかい?」
「あいよ。そら、出て来い!」
ボクの頼みに頷き、別のメンバーが何かを召喚する。それは、ブタ。プギプギ言っている。
そう、今からやろうとしているのは『トリュフ探し』。見つかれば普通のトリュフでも良い稼ぎになるし、上手く行けば同量の金よりも高い『黄金トリュフ』もあるかも…!
他にも、『一度だけ復活できる緑キノコ』と『巨大化できる赤キノコ』っていうレアなキノコがあるんだけど、何故かそこらへんを走り回ってるから探そうにも魔物に発見されやすくなってしまう。箱にでも詰まってくれてれば楽なんだけど…。
だから、今日は後ろ髪を引かれる思いでトリュフ一点狙い。それでも宝くじみたいな賭けだけどね。
「プギーフゴフゴ」
「お、早速何か嗅ぎつけたみたいだぞ」
とことこと歩いていくブタを追い、進む。でも…その先には衝撃的な絵が広がっていた。
「「「「「なっ…!?」」」」」
ボクだけではなく、全員が唖然とする。だって、そこには…頭から突き刺さる形で胴体まで埋まった、他の冒険者パーティーがいたのだから。
「あー…こりゃ駄目だな…。全滅だ。今頃復活魔法陣で悔しがってるだろうよ」
「でもついさっきやられたみたいね。武器とか防具とか残ってるし。あれ、でもバッグだけ無い…?」
「あ、なんかここからキノコが転々と落ちていってる。引きずった跡もあるよ」
メンバー達が見つけてくれた情報を元に、そのキノコの後を追ってみる。すると…。
「わ…マタンゴ達じゃないか…」
奥にいたのは、幾体かのマタンゴ。先程埋められていた冒険者達のだろうけど、ぎっちりキノコが詰まったバッグからキノコを取り出し食べていた。
「あいつらがあの冒険者を倒したのかな」
「マタンゴってそんな強くなかったろ? 小さいスライムとかと同じぐらい楽な相手だ」
「じゃあ…さっきの冒険者達シャベルとか持ってたみたいだし、トリュフの取り分とかで喧嘩して仲間割れとか? あ、でもあんな埋め方する意味ないか…」
メンバーが推理してくれている中、ボクはちょっと眉を潜めていた。それは、冒険者達が持っていたであろうキノコ入りバッグについて。
マタンゴ達はスナックを食べるように取り出してはもぐついていたが、それは結構な確率で毒キノコ。しかも中には魔法薬の材料にすらならないものまで。
つまり、あのバッグの中には食べることも売ることもできないキノコがたっぷりだということ。恐らく、種類がわからないから手あたり次第に根こそぎ採ったんだろう。そういう人は結構いる。
ここで思い出すのは、ダンジョンに入る前のメンバーの言葉。『キノコを採り過ぎたり、荒らし回ったりすると、謎の魔物が襲ってくる』って。
もしかして、それに襲われたのかも…! でも、一体なんなんだろう…?
触らぬ神に祟りなし、触らぬ毒キノコに爛れなし。マタンゴ達の元からゆっくり去り、とりあえずトリュフ探しに戻ることに。そんな折だった。
「フゴ! フゴフゴ!!」
「おっ…!? ブタがいつもより強い反応をしてるぞ!」
場所を変えたのが功を奏した! もしかしてもしかして…! 先程の事はパッと忘れ、全員でシャベルとスコップを取り出し穴を掘る。そこには…!
「おぉお…! き、金だ…!」
「輝いてるよ…!」
「ね、ねえこれって…!」
「うん、間違いない…! 『黄金トリュフ』だ!」
見つけた…!見つけてしまった…! これを売れば大金が…!それでキノコを沢山買って…。
いやいやいやいや…このキノコ自体を、食べたい! だって、高嶺の花…高値の茸だから食べたこと無いんだもの!
な、なら…もう一個見つけて売る用と食べる用に…! 近くにもっとないかな…!
メンバー達も同じ考えだったようで、誰とは無しに穴を掘り掘り。掘り掘り掘り掘り掘り…。
気づけば、その場はあっという間に大量の穴だらけに。だけど…残念ながら黄金トリュフは見つからない。
でも、諦めきれない。今度はあっちのほうに…!
トントン
「…? 足が叩かれた? わっ!」
自分の足元を見ると、そこには大きいスコップをもったマタンゴが一匹。それでボクのことを突いたみたいだ。
思わず剣を引き抜きかけるが、マタンゴは逃げない。それどころか、スコップを手渡そうとしてきた。
「え…?」
「なんだこいつ…」
困惑するメンバー達。と、内一人がポンと手を打った。
「あ、もしかして…穴を埋めろって言ってるんじゃない?」
あぁ、なるほど。確かに埋め戻すべきだよね。そう思いスコップを受け取ろうとしたら、メンバーの1人が吐き捨てた。
「急がなきゃ俺達の頭にもキノコ生えるんだぞ。穴埋めてる暇なんてあるか!そいつのことは無視しようぜ!」
しっしっとマタンゴを追い払おうとするメンバー。と、その時だった。
「んふふ…それが答えってことで良いんだねぇ…?」
木陰ならぬ茸陰からのっそりと現れたのは、朱色に斑点模様がついた巨大キノコの傘を被った魔物『マイコニド』。即座にボク達は武器を構える。
でも、そのマイコニドは穴だらけの地面の奥にいるから遠く、そもそもマタンゴと同じくゆっくりにしか動けないはず。だからか、穴埋めを拒否したメンバーはせせら笑った。
「あぁそうだぜ! やってられるかよ!」
「そう…。じゃあ、お願いねミミックちゃん…んふ」
そうマイコニドが笑った瞬間だった。
「はーい!」
ギュルッ
ボク達の背後からは違う魔物の声。そしてなんと…触手が巻き付いてきた!!?
「ぐええ…」
「く、くるしい…」
全身を縛られ悶えるメンバー達。僕が頑張って後ろを見ると…触手はさっきからそこにあった大きいキノコの下から生えてきている…
いや違う! キノコの下に、宝箱みたいなものが!そこからひょっこり顔をだしたのは…もしかしてあれ、上位ミミック!?
「ほーらほら! キノコを根こそぎ採ろうとしてなかったから見逃してあげてたけど、『穴を埋めます』って言わないとアンタたちの身体で穴を塞ぐわよぉ?」
上位ミミックはボク達をそう脅してくる。そうか、さっき頭から埋められていた冒険者達はそういうことだったんだ…! 謎の魔物の正体は、ミミックだった…!
というかその口ぶり、ボク達はずっと見張られていたんだ…! 辺りがキノコまみれだから、キノコに擬態されちゃったらわかるわけない…!
「「「「埋めますから! 許してください!」」」」
ボク達は口を揃えて命乞いをした。
ミミックとマイコニド、マタンゴに見張られながらせっせと穴埋め。だいぶ時間がかかっちゃった…。
「んふ…いいよぉ。もう帰っても」
マイコニドも納得してくれ、急ぎダンジョンを後にすることに。と、その時だった。
「クソォ…魔物のくせによ!」
従わされたのが気に食わないのか、穴埋め拒否したメンバーが去り際にミミックを殴りつけてしまった。すると―。
プシュ――――!
「うおっ…! 煙…!?」
キノコから勢いよく吐き出される何か。マズい、このキノコって確か…!
「あーあー。せっかく逃がしてあげようとしてるのに。この私の箱についてるキノコ、『人を蝕む』胞子持ちのよ? 自業自得ねぇ」
ミミックはそう言い、やれやれと肩を竦める。やっぱり!
「皆、離れ…! oh…マンマミーア…」
急ぎ指示を出そうとしたけど、遅かった。だって、仲間3人の目が…不自然にシイタケのような目に。
「キノコ…サイコウ…」
「イチバン…ハ…キノコ…」
「タケノコ…ホロブベシ…」
変なことを口走りながら、ドサドサと倒れていくメンバー達。頭からはキノコがにょきにょき。身体からもにょきにょきにょき。
もうここまで侵攻しちゃうと駄目…。助からない。多分ボクもすぐ…!
ポンッ!
「…あれ?」
「…あら?」
「…んふ?」
ボクだけじゃなく、ミミックもマイコニドも首を傾げる。 死んで…ない?でもなんか頭が重いような…。
「凄いことになったねぇ…んふふふ」
「手鏡持ってるけど見てみる?」
ミミックから鏡を渡され、自分を見てみる。すると―。
「あ、頭がでかキノコに…!?」
普通サイズの茸のようにポツンとじゃなく、頭全体が覆われる形で白地に大きい赤水玉のキノコが生えている…!! これじゃあボクもマイコニド…! ちょっと嬉しかったり…。
「どうしましょスポアさん。私、このパターン初めてみました!」
ケラケラ笑うミミック。よく見るとそのミミックも目がシイタケだし、頭から数本キノコ生えている。でも元気いっぱいだし、魔物には効果ないんだ。
…そんなこと考えている場合じゃないや! どうしようどうしよう…!
「んふ…ミミックちゃん、あれをあげて」
「あれ? あー! アレの事ですね! ごそごそっと…はいどーぞ!」
マイコニドに頼まれ、何かを取り出しボクに手渡してくれるミミック。それは…。
「ハテナマークのブロック…?」
正確には、片手に乗るぐらいの小さな箱。そこの横面に大きなハテナマークが書いてある。
「叩いてみて!」
促され、ポコンと。すると―。
♪デュデュデュデュ♪
変な音と共に、キノコが二つ出てきた。緑に白い水玉の…!
「これって…! 食べたら『死んでも一度だけ復活できる』というあの…!」
思わぬレアものに興奮してしまう。すると、マイコニドはクスクス笑った。
「んふ…やっぱり知ってた。君、いつもキノコを採りに来てるでしょ…?キノコ、好きなんだねぇ…。 それ、食べていいよ…。最悪死んだら、身体のキノコは絶対抜けるから…」
どうやら見逃してくれるということらしい。ほっ…キノコ大好きで良かったよ…。
「じゃあ私がダンジョンの入り口まで送ってあげる!」
と、ミミックがシイタケ目を輝かしながら手を挙げた。ボク仲間のバッグや装備を全部自分の箱に詰め、代わりに取り出したるはまたもやハテナマークの箱。
「よいしょ!」
ポコンッ
♪デュデュデュデュ♪
今度は赤くて白水玉のキノコが。ミミックはそれをパクリ。すると―。
♪ピロンピロンピロン⤴♪
ミミックは巨大化。彼女が入っていた箱もソファみたいなサイズに。あれもレアな巨大化バフキノコだ…!
「うーん、やっぱ社長だけ特異体質だったのね。普通に巨大化しちゃった。 さ、乗って乗って!この専用箱で上のキノコは制御してるから、叩かなければ胞子が勝手に出ることないわよ」
そう言われ、恐る恐るキノコ付き箱の上に腰かける。まるでキノコの傘が本物の傘のよう。
「しゅっぱーつ!」
ミミックはすいいっと動き出す。そういえばこの緑キノコや巨大化バフ赤キノコも、すいいっと地面を移動するらしい。両方ともどうなってるんだろうか。
あ、そうだ。ボクも貰ったこの緑キノコ食べなきゃ。これも食べたことないんだよね…!わくわく…!
パクッ
♪ピロリロリリ⤴♪
おぉ、赤キノコのと音が違う。 そして、超美味しい!
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