顧客リスト№16 『妖怪たちの肝試しダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

「ひぃぃぃぃ…」


現在、草木も眠る牛三つ時…違う、丑三つ時。午前2時頃のことで、草や木も眠ってしまうほどに夜が深いことを表す言葉らしい。


確かに植物魔物…アルラウネの人達とかは寝ているだろう。太陽出てないし。 え、そういうことじゃない? 勿論わかってる。



ところで、その時間帯に活動を活発化させる者達がいるらしい。それは―。


ヒュゥゥゥ…ドロドロドロ…

「ひぃっ!」


私達の目の前に突如現れたのはぼうっと発光する人魂。そして、引きつった声を出した私の首にくるりと巻き付いてきたのは…。


「いらっしゃぁ~い」


長い女性の首。耳元で囁かれ背中がぞわりとする。



「ひぇぇ…」


恐怖する私をあざ笑うかのように、巻き付いて来た首はするりと解け横の森へと。そこへ急に現れたのは一人の坊主な男の子。


「おねーちゃん達大丈夫? はい、提灯あげる」


「え、あ、ありがとう…」


流れで手渡された灯りを受け取ってしまった。瞬間…!


「ひひひひ…!」


男の子の顔が消えた…!目も鼻も口もない…! ハッと見ると、提灯が割けべろりんと舌を出したではないか!


「きゃああっ!」


思わず尻もちをつき、提灯をぶん投げる。すると提灯は高笑いしつつどこかへとふわふわ飛んでいった。気づけば少年も消えている。


「クククク…美味しそうなのが来た来た…」

「キキキ…もっと怖がってねぇ…」


おどろおどろしい声と共に、風が吹きザワザワと木々が揺れる。その揺れる枝や幹の間に鈍く光るのはこちらを見つめる『何か』の目玉。それも何十、いや何百個も。


更にゲッゲッゲのゲッというどこからか聞こえる謎の笑い声の合唱。あぁ…歌まで聞こえてきた。おばけにゃ会社も仕事もなんにもない♪って…。 


いや私達は仕事で来てるんだけども…!? まあミミックはお化けじゃないが。





もう心に余裕がないので明かすが、私達は今、とある森の中にあるダンジョンに訪れている。深夜2時なのに。何故なら、このダンジョンの本領はこの時間だからなのだ。


ギルド登録名称、『肝試しダンジョン』。主に深夜を営業(?)時間としているここに棲む魔物達の正体は…いや魔物ではない。だって、『妖怪』なんだもの。



「社長ぅ…もう帰りませんか…」


さきほどスッ転んだ時に落とした社長(入りの箱)を拾い上げながら、つい弱音を漏らしてしまう。でも当然却下された。


「駄目に決まってるでしょ。別に取って食われるわけじゃないんだから、もうちょい頑張りなさいな」


そう、社長の言う通り、ここの妖怪たちは私達を食べたりしない。いや私達だけではなく、人間達も食べられることは無い。


じゃあ何をするかというと、さっきみたいにただ脅かすだけなのだ。それ故、ギルドの危険度ランク指定は『安全』。本人の意思確認は要るみたいだが、一般人参加も可能となっている。


だから、そんなに怖くない。そう、怖くない…怖くない…怖くない…。


「…アスト、箱ごと震えてる震えてる」


「うぅ…だってぇ…」


「別に私降ろして構わないわよ?」


そう提案してくる社長。しかし私は箱ごとぎゅっと抱きしめた。


です…!」


「もう…私、お人形代わりね。てか貴方、道中何度か私を盾代わりに使ったでしょう」


「それは…ごめんなさい…。 社長、怖くないんですか…?」


「そりゃ私だって怖…ンンッ、怖くないわよ。仮にも貴方の上司よ?」


「の割にお顔が青…」


「うっさい! ほら、早く奥に進みましょう!」









「やっと着いたわね…」


「もうやだ…会社おうち帰りたい…」



ダンジョン最奥部。古ぼけたお寺のような場所についたころには社長も私も(精神的に)満身創痍。幸い、ここには妖怪が出ないようだが…。



あれ以降も何度驚かされ、叫ばされたことか。変な長い布が飛んできたと思ったら手と目がついていて、私達の顔にぐるぐる纏わりついてきたし、慌てて振り払ったところにどこからか砂が投げかけられた。


その場から急いで逃げると、道の真ん中にあった巨大な壁に通せんぼされてしまった。その隙に私の背中に誰かが乗ってきたのだが、まるで石のように重かった。あやうく社長の箱と挟まれぺちゃんこになるとこだった…。


更に途中にあった沼からは頭に皿を乗せた緑の魔物が出て来て変な勝負挑まれ、逃げようとしたら水をかけられた。丁度近くに立てかけてあった傘でガードすると、その傘の持ち手、人間の足だったし…。投げ捨てると傘が自分でどっかへぴょこぴょこ飛んでった。


その他にも…。ううぇ…もう思い出したくもない。頭に思い浮かべるだけで背筋がゾクッとする。これが妖怪の力…。 今日寝られるかなぁ…社長と一緒に寝ちゃ駄目かなぁ…。




「さて、ここで依頼主の方達と待ち合わせのはずなんだけど…」


流石社長、もういつも通り。私もぼやぼやしていられないと顔を振り、恐怖を払う。と―。


トントン


「―!?」


突然肩を叩かれ、私は反射的に振り向く。が、そこで問題が。私は社長を手にしながら体の向きを変えたのだ。当然社長はぐいっと動き、私の肩を叩いた誰かの真ん前へと…。


「ばあっ!!」


社長の鼻先数センチにあったのは、獣髭が生えた男妖怪の顔。社長はもう脅かされないと高を括っていたのだろう、余りの突然のことに―。


「ぴいっ!!」


小動物の様な悲鳴をあげた。そして瞬間的に手を触手に変え、男妖怪の顔をグルグル巻きにしてしまった。


「ぐえっ!? 嬢ちゃん、いや社長、社長様!タンマタンマ! 窒息死する…!!」


タップをする男妖怪。数秒呆けていた私はハッと意識を取り戻し、慌てて社長を止めた。


「社長、ストップストップ!手を出しちゃ駄目ですって!その方依頼主のお一人『ネズ』さんですから!」





「ゲホゲホ…死ぬかと思った…」


「ご、ごめんなさい…!」


平謝りする社長。私も揃って頭を下げる。しかし、それを止める声が聞こえてきた。


「2人共謝んなくていいわよ。悪いのは脅かしたネズ男なんだから」


「うん。今のはネズ男が悪いね」


どこからともなく現れたのは少女と少年。と、ネズ男さんは少年の方にぶー垂れた。


「なんだよキタロ。酷えじゃねえか!」


「せっかく来てもらったんだ、あんまり怖がられるのもね。それに、ここ最奥での脅かしはルール違反だ」




本日の依頼主は謎の少年『キタロ』さん。そしてその友達だという、さっき社長を驚かせた『ネズ』さんとキタロさんの横につきっきりな『ネコむす』さん。


まあ、全員間違いなく妖怪であろう。それでも人型をしている分多少楽に接せられる。いやほんと、さっきまでの妖怪たちは異形で…私達も人の事言えないんだろうけど。



「そういえば…なんで皆さん脅かすだけなんですか?」


心を落ち着かせるため、私は気になってたことを聞いてみる。するとキタロさんは改まった口調で答えてくれた。


「ここにいる妖怪たちは『恐れ』…要は誰かが恐怖するときに発生するエネルギーを食べて生きています。でも、好き放題させると人と妖怪が殺し合ってしまう可能性がありました。だから、肝試しという形で人を招いているんです」


「『ダンジョン』というシステムを導入したのはオレだけどな! ヒヒッ、上手くギルドと掛け合って、初心者冒険者の度胸試しの場として認めさせたんだ。入場料や、参加者への物販でまあまあ儲けさせてもらってるぜ。キタロがこれ以上許してくれないのは癪だけどよ」


「掛け合ったって…脅しすかしたの間違いでしょ。キタロが止めてなければギルドの人にどれだけ迷惑かけたことか…」


胸を張るネズ男さんにそう突っ込むネコ娘さん。何されたんだろうギルドの人…。






「それで、何故我が社にご依頼を?」


今度は社長が問う。ネズ男さんは髭をビビビッと鳴らした。


「それがよ。最近来た客からマンネリ気味だって聞いてな。こういった意見があった以上、即座に対応していかなきゃダメなんだ。ということで依頼させてもらったんだよ。ちょいと旅行した時人を驚かすならミミックって聞いたもんでな」


「いつもケチでがめついネズ男にしては早い行動よね」


「一言余計だネコ娘。こういうのは『先行投資』っつーんだ。キタロしか見えてないお前にはわからないだろうけど…ひぃっ!止めてくれぇ!」


わっ…ネコ娘さんの可愛かった顔が豹変した…。目がぎょろりと、牙がシャキンと獲物を襲う獰猛な猫みたいに。そして尖った爪でネズ男さんを追いかけ始めた。まるで猫がネズミを襲ってるみたい。



そんなドッタンバッタンな背景劇に苦笑いを送り、社長は言葉を続けた。


「因みにどう使うかは決めておられますか?」


「えぇ、幾つか。ごにょごにょ…」


「うわぁ…流石驚かしのご同胞ですね。その入れ物製造も我が社が引き受けさせていただきます」


キタロさんから何を聞いたのかは知らないが、若干ドン引いた様子の社長。聞くのは明日日が昇ってからにしよう…。想像したら負けだ想像したら負けだ…本当に眠れなくなっちゃう。






「ところで、お代金の方はどういたします?」


「事前に頂いた資料に合わせ、お借りするミミック達の食料等は用意しました。借用代金は、僕達妖怪の使い古した道具や髪の毛とかでどうでしょうか?『妖力』…そちらでいう魔力のようなものが詰まっているので一部では武器や防具に加工されています」


「一応見せて頂いても? これですか…うわっ!これは中々に強力…」


受け取ったサンプルを鑑定してみると、とんでもない力が詰まっていた。上位魔物に匹敵、いや凌ぐほどのレベル。でもこの感じ、呪術とかに使った方が効率良さそうかも。


「あまり放っておき過ぎると、勝手に動いたり伸びたりするので時折様子を見てあげてください。あとよければこちらもどうぞ」


…なんかさらっと不穏なことを言いませんでした? そう突っ込むより先に、キタロさんは寺の前に置いてある箱へと。そこから何かを取り出してきた。


「…? これは何ですか?メダル?」


手渡されたそれを見てみると、きらきらと輝いている金貨みたいなもの。妖怪たちの絵が彫り込んであった。


「えぇ。通称『妖怪メダル』、ここに来てくれた人間達の御褒美です。これにも妖力が込めてあるのでその筋に高値で売れますし、野良妖怪への御守りにもなります。中にはこれを使って妖怪を召喚する人もいるとか」







「はい、確かに! では人を驚かすのが得意な子達を選りすぐって派遣いたしますね!」


契約書を受け取り、帰り際。社長はこそりと私に耳打ちしてきた。


「ところでアスト…。トイレ寄ってくれないかしら…? あと、貴方一応服作れたわよね…?」


「へっ…?」


首を傾げつつ、社長を見てみると…彼女は何故かもじもじしていた。我慢しているというよりかは…。


「あっ…社長もしかして、さっきので漏らし…」


「てないから! 多分…。 ううぅ…妖怪のせいよ!」


パタンと宝箱の中に閉じこもってしまった。やっぱり社長も怖かったようで。…私も帰り道怖いし、空から行こう…。



――――――――――――――――――――――――


バサリと羽を広げ、飛び立っていくアスト。それをキタロ達は止めようとする。


「あっ、お二人とも。空にも妖怪は…」


しかし、その声は怯え気味のアスト達には届かない。彼女達はみるみるうちに闇へと消え、数秒後。


「「きゃああああああっっ!!」」


夜の帳を切り裂くような2人の悲鳴が辺りに響き渡った。

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