閑話①
秘書の特別業務:ミミック紹介ムービー作成
…写ってるかなぁ。…多分大丈夫だよね。コホン…。
皆さん、初めまして!そうでない方はお久しぶりです! 私の名はアスト。『ミミック派遣会社』の社長秘書を務めています。
本日はこれをご覧の皆様…ダンジョンにお住まいの魔物の皆様に、我が社についてご説明させていただきます。
単刀直入に申し上げましょう。皆様、冒険者に困っておりませんか?ねぐらを荒らし、宝物を盗み、魔物である我々を倒していく…。彼らの蛮行は留まるところを知りません。皆様の中にはその対処で夜も眠れずに過ごしている方もいるでしょう。 …夜に行動される方はお昼、と変換ください。
そんな問題も、我らが派遣するミミックが解決してくれるでしょう!
よく冒険者が通る通路に置いておけばあら不思議、欲を出した冒険者が宝箱を開いた瞬間バクリと。休憩するため腰かけたところをガブリと。曲がり角で食パン咥えた冒険者と…! …あれ?
…とにかく、冒険者の隙を突くのがミミックの基本戦法。我が社の優秀なミミック達は、イキった冒険者達をたちどころに恐怖のどん底に陥れるでしょう!
それではミミックの紹介です。厳密に言うとミミックの種類はかなりの種に分かれますが、大別して二つ。下位ミミックと上位ミミックです。
そして下位ミミックの内、大きい括りを持つ3種を…。都合4種、今回は解説させていただきます。
では実際に見てもいただきましょう。おいでー!
さあ、当社特製『魔法の動く床』に乗ってきたのは3つの宝箱。 …ちなみにこの魔法の動く床、我が社の至る所に張り巡らされております。皆、基本的に箱に入っている子達ですから移動用ですね。荷物みたいだとかは言わないでください。
失礼、話が逸れました。ではこの子達をご覧ください。まずは下位ミミック『大口型』のご紹介です。はい皆口を開けてー。
どうでしょう?蓋を開いた中が丸々口となっています。獰猛な牙、毒々しいほど赤い舌、そして闇を湛える口の奥。ミミックと言えばこの子達のイメージが一般的ですよね。
この子達は宝箱に潜むタイプではなく、宝箱自体が魔物となっている子達なのです。故に外殻…宝箱外枠の体色や体格によって見た目の差異が激しく、従来は結構な確率で冒険者に見破られてしまっていました。
しかし我が社ならばその問題も解決!こちらに並ぶ3匹は、元々全て左端の子の様な赤と金のメジャータイプでした。
ですが、見てください!真ん中の子は茶色を基調にした配色、右端の子は緑をベースに花模様をあしらってあります。そう、私達は彼らの模様を変えることに成功したのです。
これにより宝物狙いの欲張り冒険者だけでなく、警戒心の強い冒険者までもが彼らの爪牙にかかることになりました。冒険者達、意外と『あの色の宝箱じゃないならミミックの心配がない』と警戒を解く人多いんです。
勿論お望みとあらばこの通り!元の配色に戻ることも可能です。カメレオンみたいですね。ただし、一度変化するともう一方への変化にはかなりの時間を要するのでご注意を…!! ひあっ!? こら!なんで私のお尻を舐めたの!?あ、お腹空いてるの!?
コホン、では仕切り直して。続いて運ばれてきたのは…。小さめの木箱や石箱、花瓶ですね。この子達はというと…手をパンパンと。
はい、出てきましたのは蜂やコウモリ、蛇達でございます。この子達は下位ミミック『群体型』。俗に『宝箱バチ』や『宝箱コウモリ』と言われる子達の棲み処となっています。彼らは既存の箱に巣を作り、そこを拠点として活動する種なのです。
そんな彼らの特徴は、ヒーラーでも回復できない特別な麻痺毒を持っていること。他のミミックと比べて殺傷能力こそ低い彼らですが、その毒を冒険者達が食らうとどうなると思いますか? なんと、丸一日はその場から動けなくなってしまうのです!
その隙に煮るなり焼くなり、外に追い出すなり。なんでもしたい放題!複数匹棲んでいるため、テリトリー内ならば多人数パーティー相手でも楽勝です!
もし自分達が噛まれたらどうするか?ご心配なく!この麻痺毒は魔物相手だとものの十分程度で解毒されま…痛ッ! 違う、噛めって意味じゃないから! あ…身体が…痺れれれれ…
お恥ずかしいところをお見せしました…。十分間、私の倒れた姿を晒しておりましたね…。後でカット編集をしなきゃ…。なんで噛まれたんだろう…。
またまた仕切り直しましょう。 次に運ばれてきたのは…群体型と同じような色々な箱。しかし大きさは宝箱型と同じですね。この子達は何かといいますと…。蓋をパカリ。
にゅるんと飛び出したるは幾本もの触手!この子達は下位ミミック『触手型』の子達となります。冒険者を縛り上げて絞め殺すこの子達ですが、急ぎ逃げようとした冒険者をもしっかりとらえて仕留めます。リーチがある触手ならではですね。
更に、この触手型と先に紹介した群体型。他人の手助けが必要となりますが、入っている箱を変えることができます。
そうすることで、たとえ火の中水の中草の中森の中、土の中やあの子のスカートの中、どこでも状況にあわせた意匠になることができるのです!
……すみません、やっぱり火の中や水の中などの過酷な環境への長時間の配置は、対策をしていない限り、どのミミックでも出来るだけお止めください。流石に参ってしまうので…。
コホン、そしてこの触手にも様々な種類があります。スタンダードな触手、木の蔦のような触手、粘液をべとりと出す触手…。ご要望にあったものをお申しつけくださ― ひゃんっ!尻尾に巻き付かないで…!待って!粘液が服に…!
…またもお恥ずかしい姿を…着替えてまいりました。今日は厄日です…。いつもはこんなこと無いのに…!皆良い子なのに…ほんとなんで…?
さて、仕切り直し…何度直してるんだろ私…。ゴホン、失礼。それでは本日紹介する最後の種、『上位ミミック』のご紹介です!どうぞー!
「はーい!よろしくね!」
「私達が上位ミミックよ」
「下位の子達とは一味違うぞ!」
ご覧の通り、彼女達の見た目は箱に入った人型魔物。強くなさそう?侮るなかれ!ここに西瓜が3玉あります。皆さんお願いします。
「えい!」ズバッ!
「よいしょ!」ボゴッ!
「そら!」グシャァ!
あの皮が固い西瓜が両断され、風穴を開けられ、粉々に粉砕されてしまいました!これが上位ミミックの実力。手足を刃や槍、触手などに変え、力自慢の冒険者も瞬殺してしまいます。
しかも下位ミミックと違い、理論立てて移動や攻撃をしますのでどんな熟達した冒険者も手玉に!箱の移り変わりも自分で行うため、宝箱や武器箱、掃除箱や花瓶の中。スペースさえあればありとあらゆる場所に入ります。
本当に入るのか? ええ、入っちゃいます。特にこの真ん中の方、明らかに宝箱に収まるプロポーションじゃありません。羨ましいほどにボンキュッボンです。
ですが蓋をパタリと閉じると…。見事収まってしまいました。よいしょっと…勿論、下に穴は開いておりませんよ。人間の手品師びっくりの能力です。
強い、堅い、戦略的!三拍子揃った彼女達は少々お値段は張りますが…ひぃぅん!♡ なんで…皆さんも私に触手を絡ませてるんですかぁ…!?
「ごめん、我慢できなくて…」
「なんか今日のアストちゃん、凄く美味しそうな甘い匂いするの。ちょっと嗅がせて頂戴?」
「撮影はまた今度手伝うから、な?」
甘い匂い…!? そうか!今日蜂の巣ダンジョンに…! 社長洗うついでに私も全身洗ったのに…。
あ、待ってください、3人がかりで連れて行こうとしないで…!
さ、最後に一言だけ! 今回紹介したのはミミックの一部。それに、皆様のご要望にお応えして様々なオプションも用意してあります!
ダンジョンの防衛、私達にお手伝いさせてください!ぜひご一考をぉぉぉぉ…。
「…これがこの間撮影したムービーです…。どうでしょう社長…?」
ゲラゲラ笑う社長に、私は苦々しい顔で問う。すると、彼女は目に溜まった涙を拭いながら一言。
「頑張ってたけど、残念ながらボツね」
「ですよねー…。まあok出されても全力で拒否しますけど」
「でも、これ面白いわね!忘年会とかで流しましょう」
「嫌です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます