人間側 ある諦めないパーティリーダーの挑戦

「えぇ…またあそこに行くのかよ…もういい加減諦めようぜ」


「そうですよ!復活代金や失った装備の揃え直しで今月カッツカツなんです、大人しく薬草摘みや商人護衛に行きましょうよ」


仲間達が無理に止めようとしてくる。でも、僕は諦められない。だからこう返してやった。


「今度こそだよ!今度こそ『迷宮ダンジョン』の攻略法を思いついたんだ! …多分だけど!」






僕はとある冒険者パーティーのリーダーをしている。幾つかダンジョンもこなし、まあまあ中堅どこの強さだと自負してもいる。


そんな僕だが、今一つのダンジョンにハマっている。それがあの『迷宮ダンジョン』。巨大なミノタウロスと眷属のガーゴイルから逃げつつ迷宮を解けば山ほどのお宝が手に入るという夢のようなダンジョンである。


しかしその迷宮はとてつもなく難しく、最近は挑戦者が減ってきている。しかしそれは、競争相手が減っているということ。お宝を独り占めできるチャンスなのだ。


バッグ一杯の金銀財宝を手に入れたらどうしよう。僕は妄想しうへへと涎を垂らす。すると、パーティーメンバーの残りの1人が服をぐいっと引っ張って止めてきた。


「きっと宝物が無くなったから挑戦者が減ったんだ。だからやめよう?ね?」


「この前もインデェーのおっさんが大量の宝物を持って帰ってきたじゃん。あそこの宝部屋は際限なく宝が湧くって言ってから大丈夫大丈夫!」


「あの人は確かな経験と豪運の持ち主なんだから…。そもそも考古学の研究という理由で迷宮を攻略している変人さんじゃんか」


「てかなんでお前はそんな自信たっぷりなんだよ、俺達一度たりともクリアした試しないだろ!毎度死んで終わりじゃねえか!」


痛いところを突かれた。そう、実は一度たりともゴールにたどり着いたことが無いのである。でも、この間なんかは後少し(多分)のところまで行けたんだ。インデェーさんから聞いた話で攻略の策も思いついた。だから今度こそ…!





嫌がるメンバーを引きずり、着いたのは迷宮ダンジョンの入り口。いつ見ても牛の顔をあしらった巨大な門の圧が凄い。だがそんなのでへこたれる僕ではない。


「よっし、皆行こう!」


武器とランプを手に、意気揚々と足を踏み入れる。と、後ろからメンバーの苦々しい声が。


「なんでうちのリーダー、懲りないんですかねぇ…」


「…あいつ、この間カジノでも全額溶かしてたよな。次は当たる次は当たるって言いながら」


「ギャンブル依存症なのかもしれないね…」


なんか人聞きの悪い事を言われているが、気にしない。たった一回潜るだけで暫く遊んで暮らせるほどの宝を手に入れられる(かも)のだ、何度だって挑んでやる。そしてそれを元手にカジノで…!





ズシィン…!ズシィン……!ズシィン……


「ハァ…ハァ…もう行ったかな?」


「はい…ミノタウロスは通り過ぎて行きました…」


角に隠れ、僕達はミノタウロスをやり過ごしていた。足音が聞こえなくなったのを確認し、メンバーの1人が大きく溜息をついた。


「で?お前がさっき言っていた策ってあれで終わりか?」


足元にコロリと転がる毛糸球を指さすメンバー。僕が提案した策とは、『迷宮入口から紐を張り、目印とする』というもの。この迷宮は結界によって目印とかが書き残せないようになっている。だから無理やり目印を残そうとしたのだけど…。


「数十個程度あっても足りるわけないだろ!バカ!」


叱られた通り、途中で無くなってしまった。しかもダンジョン内を徘徊するミノタウロス達に千切られ、挙句の果てに逆手に取られていつも以上に追いかけられてしまっていたのだ。


「もう魔力無いです…」


「回復薬も底を尽きそうだよ」


バッグを漁り在庫確認をするメンバー達。その言葉に僕は眉を潜めた。いつもより消費が激しい気がしたからだ。そのことを指摘すると―。


「もうお金無いから買えなかったんですよ!」


「そもそも毛糸球のせいでバッグが圧迫されてたしね」


「このままだと下手したらガーゴイルにですら負けて殺されるぞ」


とうとう全員から睨まれてしまった。慌てた僕はもう一つの策を急ぎ提案した。




「どちらかの壁にずっと沿っていけば必ずゴールにつくだぁ?」


「本当だって!時間は掛かるけど確実にたどり着くらしいんだ!」


怪訝な顔をするメンバー達に僕は必死に説明する。張ってきた毛糸が千切られまくってしまった今、辿って帰ることもできない。仕方なしに皆は渋々乗ってきてくれた。


「途中まで来たから、きっとすぐにゴールにつくはず!」


そう皆を励まし、僕は先を歩く。すると早速―。


「「「行き止まりじゃんか!!!」」」




まあ当たり前といえば当たり前。着いた先は数多ある行き止まりの一つである。そして僕の身にはまたも痛い視線が降りかかった。


「どうすんだよ…」


「こ、こんな時も変わらず壁に沿っていくんだ!…確か…」


追い詰められる僕。と、メンバーの一人が行き止まりにランプを向けた。


「? あれ宝箱ですよね…?」




真っ暗で気づかなかったが、確かにちょこんと鎮座しているのは宝箱。となると冒険者として行う事はただ一つである。


「開けるぞ…?せーのっ!」


パカンと勢いよく蓋を開ける。すると中に入っていたのは…。


「これ高級回復薬だぞ!?」


「魔力回復蜜も入ってます!」


「こっち身代わりブレスレットと光の矢じゃねえか!」


残念ながらお宝ではなかったが、冒険のお供として重宝しているアイテム類が幾つか入っていた。しかも中々に良いお値段するものばかり。金欠でアイテム不足な僕達としては嬉しい限りである。思わず僕はえっへんと胸を張った。


「な?僕の策に乗って良かっただろ?」


「いやそれとこれとは違くないか…?」





「前までこんな宝箱なかったはずだけどなぁ」


「まあ有難く使わせて貰おうよ」


「数としては全然心もとないんですけどね…」


とりあえずの補給ができ、少し安心して探索を続ける僕達。願わくばもう一つ二つは宝箱を見つけられないかと探しながら進んでいた。そんな時だった。


「―! 隠れて!」


メンバーの1人が何かを察知し指示する。僕達は急ぎランプを消し、近場の曲がり角に身を潜めた。


「何かがこっちに近づいてくる。多分魔物ね」


「地響きしないし、ガーゴイルか?」


メンバーの言葉に僕はそう推測した。迷宮の主であるミノタウロスならば、地響きを伴う歩行音で否応なくわかる。だが今、周囲は静か。少なくともミノタウロスではない。


「ううん、それも違う。ガーゴイル特有の石同士がぶつかる音じゃないし、人の歩いている音でもない。なんだろ…床を何かが滑ってくる…?」


「でもこのダンジョンでミノタウロスとガーゴイル以外の魔物なんて出たことないぞ?」


極力声を潜め、話し合う僕達。そんな間に謎の移動音は僕にも聞こえるほど迫っていた。


シャアアア…


確かに、何かが床の上を滑っている音だ。意外と速そうである。とはいえこっちに気づいた様子はない。このまま通り過ぎるのを待っていようと思ったが…。


ピタッ! シャアア…


「えっ!こっちに来ている!?」


突然止まり、向きを変えた何かは明らかにこちらへと近づいてきている。僕達は急ぎ武器を構え、奇襲をかけることに。もうちょっと…後少し…!


「今!」


先手必勝、スッと現れた何かに僕達は一斉攻撃をしかける。しかし―。


ギィン!


「堅…!」


全ての攻撃が弾かれ、全員で尻もちをつく。僕は反射的にランプに火を灯し相手を確認した。


「えっ…?宝箱…?」


そこにいた、もといあったのは先程見たような宝箱。一体なぜ…!?混乱する僕達を余所に、その宝箱の蓋は自動でギィイと開いた。


「耳痛いんだけど…何?アンタら冒険者?」


現れたのは人型の魔物。箱に入っている魔物なぞ、一種類しかいない。


「もしかしてミミックか!?」


「しかも上位種…!」


思わず後ずさる僕達。本来宝箱に擬態し冒険者を狩る種族だが、上位ミミックは隠れてなくとも充分に強い。以前何度か全滅させられたこともある。


「冒険者なら容赦しないよ」


上位ミミックは手を何本もの触手へと変え、僕達をいっぺんにとっ捕まえようとにじり寄ってくる。マズい…!運の悪いことに転んだ拍子に剣が折れてしまった。安物だったからだろう。またも全滅か…!?そう思った時だった。


「あっ…社長からの命令忘れてた」


何かを思い出したかのようなミミック。触手に変えていた手を普通に戻し、宝箱の中をごそごそと漁り始めた。そして―。


「きゃー冒険者だー逃げろー」


子供でもわかるほど棒読みな驚き方をし、何かを大量にバラまいた。そして床を滑り別の道へと消えていってしまった。


「えぇ…?」


「助かったの…?」


こわごわ立ち上がる僕達。あのミミックが落としていった何かを拾い上げてみると…


「これ…!さっきと同じ回復アイテムだぞ!」


「こっちには古ぼけてるけど剣もありますよ!」


先程の宝箱以上の物資がそこかしこに。どうやらあのミミックが箱に仕舞っていてくれていたらしい。でも一体なぜ?


「まあなんだっていいか!これで探索を続けよう!」


細かい事を考えてもしょうがない。僕は新しい剣を手に、先へと進んだ。




ズシィン!ズシィン!!


「待てぇ冒険者達ぃ!逃がさないんだでぇ!」


「またミノタウロスだぁ!」


結局見つかり、全速力で逃げる僕達。いつもならば捕まってしまい復活魔法陣送りだが、今回は違った。


「足止めの魔法は使えるか?」


「はい!さっき見つけた魔力回復蜜のおかげで使えます!」


「光の矢も入っていたから目潰しもできる!」


「身代わりブレスレットがあるから一度だけなら捕まっても大丈夫だ!」


拾ったアイテム大活躍。それらを総動員しひたすら逃げて逃げて逃げまくる。幾度か捕まりかけた(というか捕まったけどブレスレットでなんとかなった)が、気づくとミノタウロスの足音は消えていた。どうやら撒けたみたいだ。


「あー…死ぬかと思った…」


僕達は胸を撫でおろす。アイテムに助けられなければとうの昔に殺されていただろう。と、メンバーの一人が溜息をついた。


「でもよぉ、大人しく殺されていたほうがよかったんじゃねえのか?」


「確かに。闇雲に走ったせいでどこだかわからないね。まあ元からわからないけど」


「ゴールが見つけられなかったらこないだのように餓死しちゃうかもしれません…」


他2人のメンバーも賛同し、諦めムードが漂い始める。そこで僕は再度皆を勇気づけた。


「きっとゴールはもうすぐだ!もしかしたらこの角を曲がった先に…あっ…」


「え? …あっ」

「どうかしたんですか? …あっ」

「皆して何? …あっ」


曲がり角の先を見て固まった僕。それに続き覗き込んだ仲間達も揃って固まる。だってそこにあったのは…巨大な扉。つまり―。


「「「「宝物部屋だ!!!!」」」」




「わぁ!すげえ量!」


「目がちかちかします…!」


「本当にあったのね…」


「な!今度こそたどり着けるって言ったじゃん!」


部屋に勢いよく飛び込んだ僕達は山の様な財宝をみて狂喜乱舞する。思わずダイブし埋もれてもみた。宝の山に埋もれるのは冒険者の一生の夢だもの。


「よし、持ち帰るだけ持ち帰るぞ!」


「「「おー!」」」



装備していた安物鎧や武器、さっき拾ったアイテム、そして余った毛糸球。バッグに入っていたものを全て捨て、宝物をこれでもかと詰め込む。とうとう夢が叶ってしまった!これだからこのダンジョンは止められない!






…後日談になるが、ダンジョン各所に置かれていたお助けアイテムの存在は速攻に知れ渡り、迷宮へ挑む冒険者は一気に増えた。


最も、そのほとんどは変わらずミノタウロスによって返り討ちになっている。それでも挑戦者は減らない。もしもの時のお助けアイテムがあるというのは大きいのだろう。困ったときはどこかを走っているミミックを探すというのが定番となっていた。


あ、そういえばインデェーのおっさんがまた攻略して宝物をとってきたんだけど…その中に金で出来た毛糸球があった。変な宝物もあるもんだ。


もう挑まないのか?勿論、あの後幾度も挑んだ。だが一回たりともゴールにたどり着けずじまい。あの時が超幸運だっただけらしい。でも、諦めないぞ!

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