顧客リスト№1 『ゴブリンの洞窟ダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

転移魔法により到着したのはとあるダンジョンの地下。社長(入りの箱)を抱えた私を迎えてくれたのは沢山のゴブリン達だった。


「コッチ!」


案内してくれるのは有難いのだが、無造作に服を引っ張ってくるせいで思わず転びそうになる。社長の箱、結構重いのに。いや社長自体は軽いのだけど。…なんで私、日誌で予防線を張っているんだろう。




連れてこられた部屋にいたのは、よぼよぼのゴブリン。上位的存在なのだろう、流暢に言葉を喋り始めた。


「初めまして、ミミン社長。お忙しい中わざわざ足を運んでくださりありがとうございます」


頭を深々下げる彼に、パカンと蓋を開きひょっこり顔を出した社長は笑顔で返した。


「いえいえ、ダンジョンあるところに私達あり。ですから!」





岩を削り出し作られた武骨な椅子に腰かけ、同じく武骨なテーブルの上に社長を置く。すると社長は早速商談に入った。


「それで、確かご依頼というのは…」


「はい。ここは辺境にある我らの棲み処。集めた道具や食料を保管してあるのですが、つい先日人間どものギルドに『攻略対象』と定められたようで…」


丁度その時、部屋の端にある復活魔法陣が輝く。現れたのは数体のゴブリン達だった。


「ヤラレタ…!」


どうやら冒険者に倒されてしまったのだろう。ギャッギャと鳴きながら手近な武器を拾い、またもダンジョンの中に走っていった。


「…あのように、敗走が多くなってしまったのです。既に幾度も最深部まで到達され、宝箱の中身を盗られてしまいました。場所を変えたり警備を増やしたりと色々やっておるのですがどうにも…」


しょぼくれる老ゴブリン。それを見た社長は小さな胸をドンと叩いた。


「なるほど、それで我が社にご連絡を。お任せください!宝箱に入り冒険者達を不意打ちするのは我らミミックの最も得意とするところ。まずはこちらのカタログをどうぞ!」




自らが入っている箱の底を探り、よいしょとカタログを取り出す社長。それを老ゴブリンに手渡しながら、ミミックについての簡単な説明を行った。


「ご存知かもしれませんが、ミミックには大別して二種類となります。スライムや魔獣のような魔物と同程度の知能かつ、触手や箱そのものといった様々な形を持つ『下位ミミック』。私のように知能も人並みで姿も人型。加えて身体の一部をある程度変化させられる『上位ミミック』です」


ペラペラとカタログをめくりつつ、ほうほうと相槌を打つ老ゴブリン。と、社長は声を少し落とし質問をした。


「ちなみにご予算はどれぐらいに…?」


「そうですね…これぐらいです」


老ゴブリンが合図すると、端で待機していたゴブリンが袋を持ってくる。どちゃりと置かれたその中身は、冒険者が落としたであろう金品や掘り出した鉱物宝石が入っていた。


「じゃあアスト、お願い」


「わかりました」

社長の指示に返事し、私は電卓を取り出す。こういった計算は『鑑識眼』を持つ私の仕事である。


「えーと、この装飾具合だと…この鉱物の取引価格は…」


弾き出した金額を社長達に見せる。すると社長は口元に指を当て考える仕草。


「そうですね―。このご予算とダンジョンの広さを鑑みますと、上位ミミックの派遣はちょっと難しいですね…。下位ミミックならば間に合うかと思いますよ」


社長は箱から身を乗り出すと、老ゴブリンの持つカタログを勝手に捲る。


「この子達は如何でしょうか。タイプとしては下位ミミックの大口型。箱そのものがミミックという一番スタンダードな子です。冒険者が近づいたり開けたりしたら即座にバクーッと食べちゃいます」


「おぉ…!それで充分です。早速お願いします」


「商談成立ですね! ではこちらが契約書と倒された際の復活魔法式です。彼らへの報酬と我が社への手数料はここに記載されています。ご確認が終わりましたらここにサインを!」


またも自身の入った箱から出した書類一式を手渡し、書き終わった写しを預かる社長。最後に満面の営業スマイルを浮かべた。


「では戻り次第ミミック達を派遣いたします。どうか存分にお活かしくださいね!」

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