ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~

月ノ輪

プロローグ

廊下を小走りに、先にある部屋をノックする。返事を待たず、扉を開く。


「社長、依頼のお手紙が来ましたよ」


先程届いたばかりの手紙を手に、室内へ。だが…。


「あれ?社長?」


暖かな木漏れ日が差し込む社長室には誰もいない。しかし先程社長をこの部屋に連れてきたのは私である。トイレにでも行ったのかな……?


「あれ、でも箱はある…?」


ふと、社長椅子の上にポツンと開いて置かれたに気づく。中に居る様子はないし、触れてみても案外冷たい。どうやら私がいなくなった直後にどこかへ移動したらしい。


「でも社長寝ぼけてたし…遠くに行くはずはないんだけど…」


思わず首を傾げる。――その時、どこからともなく耳に小さく入ってくる音が。これは……寝息。となると……。


「また時間稼ぎに隠れたんですね……」


はあ、と溜息をつき、改めて社長室内を見回す。鉄箱に木箱、樽に布袋、宝箱にトラップ箱。知らない人が見たらちょっと散らかり気味の倉庫と間違えそうなこの部屋を。



きっと社長、このどれかの箱に隠れているのだろう。なにせ、社長はだから。






「ここかな…いない」


「ここ…!違うか…」


ギイバタンギイバタンと箱を手当たり次第に開け閉めし、捜索を。けど、どれを開けてもハズレ。なのにそれをあざ笑うかのように寝息は静かに聞こえ続ける。というかこの音、一体どこから…。


「……上!!」


耳を澄まし、ようやく発生源を突き止めた! 書類が仕舞われている戸棚、その上に置かれた雑品入れの箱からである。全く…妙な位置から聞こえていたから混乱してしまった。


「もう…! また取りにくい位置に…よいしょっと!」


悪魔族の特徴である羽を軽く羽ばたかせ、少しだけ浮き上がる。角が天井に刺さらないように注意しつつ、その雑品入れの箱を引きずりだし、社長机の上へと降ろす。そしてちょっと呆れるように尾を揺らしながらも、箱の蓋をパカリ。


「起きてください、社長。かくれんぼは終わりですよ」


「んにゅぅ…? アストぉ…?」


箱の中、雑品の上に丸まって寝ていたのは白いワンピース纏ったピンク髪の少女姿な魔物。彼女こそが我が『ミミック派遣会社』の社長、ミミック族の『ミミン』なのだ。


そして私は『アスト』。そのミミン社長の秘書を務めている悪魔族女性である。こうしてスーツを纏い、社長の身の回りのお世話もしていたり。




「ほら、もう時間ですから」


むにゃむにゃ言っている彼女の体を優しく揺すると、ようやくむっくり体を起こしてくれた。そしてとろんとした目を擦りながら、欠伸を。


「ふぁふうっ…。 もう戻って来ちゃったの…? 寝足りないのにぃ…」


「今日は朝礼がありますからね。今の内から目を覚ましておいてください。とりあえず朝ごはん食べに行きましょうか」


「そうしましょ……ん、くぅうう…!」


「さ、早く宝箱に移ってください。……大体、どうやってあんな場所に入ったんですか全く…」


「んー? こうやってにゅるんって」


まるでスライムのように身体を滑らかに動かし、雑品箱から宝箱へと移動する社長。その姿に思わず苦笑いをしてしまう。見た目は人型だというのに、軟体生物みたいな挙動。相変わらずミミック族は特殊な身体をしている。


…まあ社長から言わせれば羽と角、細い尻尾が生えている私の様な悪魔族のほうが特殊らしいが。箱の中で寝られないじゃない、と笑われたこともある。無理ですし、ベッドの方が良いです……。


「じゃあ運びますよ。食堂に着くまでの間にこの手紙読んでおいてくださいね。とりあえず視察に来て欲しいらしいです」


「はいはーい。じゃあ運ぶの頼んだわね~」


手紙を引きずり込み、宝箱の蓋がパタンと閉じられる。そんな社長入りの箱をよいしょと抱え上げ、ようやく社長室から出る。



では今日も一日、仕事を頑張るとしよう! 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る