第4話 生き延びるための手段

洞窟の中で、サラマンダー五兄弟は餌を取り合う。俺の取り分はほぼ無い。

常に腹の虫が鳴いている状態で何とか兄弟の餌を確保していく。空いた時間で、俺は修行を続ける。飛行能力を上げる為にひたすら飛ぶ。羽を、全身を使って飛び方をマスターすると意気込んでいた。

後ろ足で地面を蹴り、その勢いのまま羽を動かして飛ぶ。だが、身体に対して羽が小さい。飛んで数秒、すぐに地面に激突する。身体全体に激痛が走る。

「ぶべっ!?」

口の中の砂利を吐き出し、また挑戦する。背中の羽に力が入るので背筋が痛くなるが、それでも飛ぶ。


それでも、空は飛べなかった。身体の成長に必要な栄養が行き届いていないことも原因の一つだろう。

一番強いデカマンダは、いつも大飯をかっ食らうので、力が強く空を飛べるまであまり時間がかからなかった。アカマンダはそんなデカマンダに対抗して飯を食っており、デカマンダとは一二を争う実力だ。 モモマンダは炎の威力が高く、辺りを焦土にするのもそう遠くは無いだろう。ネムマンダは炎、飛行能力、肉体的にも万能型でそつなくこなす。

俺は、魚や木の実だけでなく虫型モンスターにも目を付けた。兄弟はあまり狙っていないものだから、狙い目だ。昆虫食には抵抗があった。だが、そんな我が儘は言ってられない。

ライター並の火力で虫を焼くには、風や油が必要だ。後、たまに弟や妹の火を噴く練習に誘き寄せて丸焼きにした。今回はぽってりと太った白く艶々とした巨大蛾ビッグモスの幼虫体。女子中学生ほどの大きさで、黒くつぶらな瞳をしているこいつの丸焼きは美味いだろう。

エビのようにプリプリとした食感、クリーミーな味わい、ほのかな甘味と蟹のような旨味が口のなかで広がる。


そうなるはずだった。だが、弟妹の火力も絶賛成長中。獲物の幼虫は真っ黒な炭の固まりになってしまった。硬くて苦い。

「げほっ、げほっ、っにが

喉の奥で水分を奪われむせてしまう。

だが、不思議と力が湧いてくる。獲物の栄養価が高いのか、サラマンダーと炭の相性が良いのかは分からないが、とりあえずステータス表をチェックする。

ステータスやレベルに変化は無い。ただ、炎技のレベルが上がったらしい。

何か練習台が欲しい。そう思っていると、成人男性ほどの大きさのビッグモスの幼虫体が現れた。さっきのよりも一回り大きい。息を大きく吸い、口を大きく開いて相手を燃やす。さっきまでの炎より大きい。

ビッグモスの幼虫体が赤い炎に包まれた。時間にして数分で身体全体に燃え広がり、あっという間に消えた。じわじわと焼かれたそれは、飴色の焦げ目が付いて香ばしい匂いを放っている。

ごくりと喉を鳴らし、それを食べてみる。

エビのようなプリプリした食感。白子のようなクリーミーな風味とエビやカニの旨味が口いっぱいに広がる。それでいてフルーティーな甘い後味。

敬遠していた昆虫食は、俺の中で至高の存在になった。


弟妹達の炎は、加減しないと周辺が火事になってしまう。一方俺は、全力の火力でビッグモスの幼虫体を美味しく焼ける程度の火力。はっきり言って戦えない。戦いに不向きのこの弱さで、どう生き残ろうか。俺は空を仰ぎ、そっと目を閉じた。



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