第2話 おはようございます異世界
目の前の巨大トカゲ、否炎のドラゴンが、大口を開けてじりじりとこちらに近づいてくる。
「(く、食われる!)」
本能的に危機を察知して逃げようとしたが、ドラゴンの大口にあっという間に吸い込まれてしまった。もう終わりだ。この身を噛み裂かれるのを待つだけだ。
しかし、牙が当たる感覚は無かった。代わりに、暖かくてヌメヌメした柔らかいものに包まれていた。舌で獲物の味を堪能しているのだろうか。口の中で揺られながら戦々恐々としていた。
揺れが止まった。ここで丸呑みにするのだろうか。すると突然、口が開いた。舌に包まれた体は、ゆっくりと地面に下ろされた。
俺はキョトンとして目の前の朱色のドラゴンを見上げていると、なんと喋った。
「いきなり逃げ出すからびっくりしたわよ。生まれたての状態でこんなに速く動けるなんてね」
ああ、これは夢なんだ。いきなりこんなでかいドラゴンが目の前にいるだなんて非現実的極まりない。こんな事になるなら、昔やっていたダンジョン系ゲーム『サバイバルクエスト』のリメイク版を中古待ちするんじゃなかった。
昔のドットイラストとは全然違う、3D技術を駆使した美麗なグラフィック。色々なキャラクターやモンスターがどうなるのかが楽しみだった。
「早速ご飯にしましょう。オニクの実があるからそれを焼いときましょう」
今このドラゴン、オニクの実と言ってなかったか?オニクの実は、『サバイバルクエスト』に登場する肉みたいな味と食感のする木の実で、体力回復アイテムではないか。
血のように赤く、形は洋梨のように丸っこい。俺の頭ほどの大きさだ。その実をドラゴンは背中の炎で炙った。
炙られた果実からは、肉の焼けた匂いがした。香ばしく焼いた、鶏肉のような匂い。
それをドラゴンは鋭い爪で切り裂いて細切れにした。俺も切り裂かれるんだと目を瞑ったが、その爪は俺に降りかかることは無かった。
「お食べ」
「えっ」
ドラゴンの爪に乗せられた肉のようなものに、俺はごくりと喉を鳴らす。美味そうな匂いを放っているが、訳のわからないものを食らうことに警戒していた。
じ、とドラゴンは翡翠色の瞳でこちらを見つめる。巨大な瞳に映るのは、蜜柑色の、頭のでかいトカゲ。目の前のドラゴンを小さくしたような、あるいは幼体を思わせる姿だ。
「え"え"え"え"え"え"!?!!!?」
「めっちゃ元気ねこの子。熱いうちにお食べ」
俺はどうやら、ドラゴンになったらしい。ぽかんとして俺は口を開けたままにしていると、ドラゴンは口にオニクの実らしきものを突っ込んできた。
鶏肉を焼いたような旨味と熱が口いっぱいに広がる。ほんのり甘酸っぱさを感じるのは木の実だからだろうか。臭みの無いウサギ肉のような味が舌に広がる。肉の繊維を裂くような食感は柔らかい肉を食べているように錯覚させる。美味い。欲を言えば塩コショウなどの味が欲しい。
「サラマンダー。これが我々の種族名で、私達の名よ。私もあなたもこれから生まれる兄弟もみんなサラマンダー。我々サラマンダーは弱く、人間や他のモンスターに目をつけられやすい。そのせいで、我々種族は数が少なくなっていて、このままでは絶滅してしまう。だから、誰にも見つからないように生き延びて種族を繁栄させて……なんて、まだ分からないわよね」
俺はどうやらサラマンダーになったらしい。サバイバルクエストでは、サラマンダーは経験値とアイテム稼ぎのモンスターとしてよく倒していた。てかわかんねぇよ、朱色しか合っとらんわ。
火事に遭って死んでからの転生先が炎のドラゴン。それも経験値稼ぎモンスターのサラマンダー。これが夢じゃないのならばどんな皮肉だろうか。
サラマンダー母(仮)は喋れるが、俺は喋れない。叫び声は出るものの、言語を話せるほど
器官はまだ発達していないようだった。
サラマンダー母(仮)の腹の下の卵の動きが大きくなり、次々に孵化していった。
「ギエピー!!」
「ギエー!」
「ギピー」
「ピギー!!」
サラママダーと5兄弟の騒がしそうな日々が、始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます