ビギナーズラック
定食亭定吉
1
目が疲れた。都心からこの多摩川競艇場前駅へ来た直樹。中央線で武蔵境駅まで、そこから西武多摩川線に乗り換える。なぜか、衛生的に、西武鉄道が乗り入れている。仲間外れにされているのだろうか?と野暮な事を思う直樹。
電車内で暇つぶしでやる事もなく、読書をしていた直樹。それ故だろう。
待ち合わせの改札で待つ。見知らぬ男女四人で、某コミュニティーサイト媒介で、多摩川競艇へ行こうという事になったのだ。
「あれっ、直樹さん?」
移動中、連絡を取り合って、自分の特徴を告げたので、すぐ発見された。相手は主催者の女性エミ。五十才前後ぐらいの大柄で巨乳。ファッションがどこか昭和らしい。その他、可能以外に参加者の三十才前後ぐらいの黒縁メガネの男性が来た。
「こんにちは」
「どうも」
直樹と彼は挨拶を交わす。
「一人キャンセルになったから」
「そうですか」
存在未確認の人物の事を言われピンとしなかった直樹。
「では行きましょう!」
改札を出て、多摩川競艇場と直結している長い通路を渡るようにして入門する。
「じゃあ、百円払って」
エミ以外は競艇未経験だったので、それすら知らずに孫ついていた。
一同、自動入門機に百円を投入し、無料予想紙をもらい、席を陣取る。
「じゃあかけましょう!」
エミが音頭を取る。
「ここ難しいのよ」
多摩川競艇は、インコースの一、ニコースが一着となる可能性が、他競艇場より低い。
「わかりました。では、ここは単勝で三で」
黒縁メガネ男子は目を閉じて結論を出す。
「じゃあ、僕も」
何となく、彼に真似る直樹。マーク用紙に記入し、自動券売機で舟券を購入する一同。陣取っていた席に戻る。
アナウンスと共に各選手の紹介はされ、リハーサルでスタートダッシュをする選手。
その様子を遠目に何かを感じるエミ。
「良かったら、これどうぞ!」
黒ブチ眼鏡の男性が売店で買った唐揚げを二人に差し入れる。
「ありがとうございます!」
名前も知らぬが人間の出来た人と感じる直樹。
いよいよ、出走の時。スタート合図と共に出走する各艇。決めてとなるスタートは三艇が二、三着。しかし、第一コーナーでマクリ、二着。更に、一番人気の一艇が落水。そのまま、他艇を引き離し、余裕の一着。
「おー!」
黒ブチ眼鏡男子とハイタッチする直樹。互いに高配当勝ち。
「では、僕はここで」
「はい、お疲れ様です!」
黒ブチ眼鏡男子は帰った。エミと二人きり。手を握る。
「そういうの求めてないから」
大穴でイケると勘違いした直樹。その後、当然、エミからは連絡ブロックされた。
しかし、その程度なら安い損失と思った彼。何とか。部屋は追い出されずに住んだぐらいの四万円をゲットした。
ビギナーズラック 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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