第14話 帰り道

 その日の帰り道、夕方になり徐々に日が沈み辺りが暗くなって来ると、助手席に座る、いつも元気で陽気な少女が、急に元気がなくなってきた。

「どうしたんだい?なんだか元気がないね」

 運転をしながら、運転席から館長がそんな少女に声をかける。

「うん・・」

 やはり、声に元気がない。

「どうしたんだい。何かあったのかい」

「・・・」

 館長がやさしく語りかけるが、少女はうつむいて黙っている。

「大丈夫かい?」

 やはり、少女はいつもと違う。館長は心配になって来た。

「どこか具合でも悪いのかい?」

「夜がこわいの」

 少女がぼそりと言った。

「夜が?」

 館長が少女を見る。

「うん」

 少女は力なく答える。

「夜がこわいの」

 少女はもう一度言った。そして、とうとう、少女は泣き出してしまった。

「どうしたんだい」

 館長は慌てる。

「どうして、夜がこわいんだい?」

「こわいの。夜眠るのがこわいの。目をつぶるのがこわいの」

 少女は泣きながら言った。

「目をつむって、朝目が覚めたら、目が見えなくなってるんじゃないかって・・」

 そこで、館長はハッとした。

「夜眠る前、目を閉じるでしょ。朝、目を開けたらもう見えなくなってるんじゃないかって・・」

「・・・」

 館長は、やっと少女の気持ちが分かり、少女がなぜ落ち込んでいるのか理解した。しかし、かける言葉すらが見つからなかった。

「こわいの」

 少女は泣きながら館長を見上げた。

「私とても怖いの。だんだん目が見えにくくなっているの。とてもこわい」

「・・・」

 館長は言葉がなかった。館長は年を取ってあちこち体にがたはきているものの、健康だけが取り柄で、今まで大した病気をしたこともなかった。

「・・・」

 泣きじゃくる少女を見ても館長には、何もしてやれなかった。館長を必死に見上げる少女のその目に、館長は身を引き裂かれるような思いがした。


「なんであんな小さな子に、あんな過酷な・・」

 その日、少女が帰った後、館長は一人、暗い部屋でうなだれた。

「神さまは残酷だ・・、あんな小さな子に、なんて厳しい試練を与えるんだ」

 何もできない自分に、館長は堪らない悔しさを感じた。

「代われるものなら代わってあげたい・・」

 辛くて辛くて館長は、一人頭を抱えた。

「私の目をあげてもいい」

 館長は心の底からそう思った。

「私はもう十分に色んなものを見た。だから・・、だから・・」

 館長は、祈るよう思いでうなだれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る