第10話 お団子
「さあ、お団子でも食べよう」
住職が、絵を見終わった二人を奥の母屋に案内した。
「さあ、お食べ。うちのばあさん特性のお団子だ」
「・・・」
二人は目の前に出されたお団子を驚きの目で見つめる。
それはとてつもなく一粒が大きい団子だった。団子の丸一つが饅頭よりも大きい。
「これをもはや団子と呼んでいいのか・・」
館長も持ち上げたお団子をしげしげと見つめ呟く。一粒のあまりの大きさに串を持つ手が重かった。
「はははっ、うちのばあさんは、加減を知らんからなぁ。でも味は絶品じゃ」
和尚さんは大らかに笑う。
「おいしい」
大人二人の隣りで、いち早く大口を開けて、おもいっきり団子の一つにかぶりついた少女が、その口をもぐもぐと大きく丸く膨らませながら言った。
「おお、これはこれは」
少女に続き、団子を一口かじった館長も顔をほころばせる。外はみたらしがかかっていたが、中にはあんこが入っていた。
二人はしばらく夢中で団子を頬張った。
「お茶も飲みなされ」
住職が熱い緑茶を淹れてくれる。団子は熱い緑茶とよくあった。
「おいしいね」
少女が館長を見る。
「うん」
館長がうなずく。
「さあさあ、もっとお食べ」
そこへ、さらに住職の奥さんが、にこにこと団子の乗った大皿を持ってくる。ただでさえデカい団子がさらに山盛りに盛られている。本当に加減を知らない人だった。
「絵はどうだったかい?」
館長が二本目の団子を平らげ、三本目に手を伸ばそうとする少女を見た。
「すごい絵だったわ」
少女は率直に言った。
「怖くなかったかい」
「うん、最初怖かったけど、でも、おもしろかった」
「そうか、色んな場面が描かれていたからね」
「うん、色んな人がいた。鬼もたくさんいたわ。あれは誰が描いた絵なの?」
今度は少女が館長に訊く。
「あれは江戸時代の絵師、加納文左衛門という人の描いた絵なんだ。もともと商人で、絵とはまったく関係のない人だったんだけど、火事でお店と奥さんと幼い子どもすべてを失ってから、突然絵を描き始めた人なんだ」
「へぇ~」
「しかも、ここに描かれているような地獄の絵ばかりをね」
「なんで?」
少女は首をかしげ館長を見る。
「う~ん、それは謎なんだ」
館長も首をかしげる。
「もしかしたら、人間の業を描きたかったのかもしれないね」
少し、考えてから館長が言った。
「ごう?」
「人間が背負ってしまった苦しみかな」
「ふ~ん」
「彼は、大切なものすべてを失って、この世に地獄を見たのかもしれないね」
「ふ~ん」
少女は小首をかしげ、しかし、よく分からないながら、なんとなく納得した。
「地獄って本当にあるの?」
すると、そこで、唐突に少女が館長と住職二人に訊いた。住職と館長は顔を見合わせる。そして、笑った。
「さあ、どうだろうね。それは死んでみなければ分からないね」
住職が笑いながら言った。
「ふ~ん」
「でも、悪いことをしていると、本当に地獄に落ちるかもしれないよ」
館長が冗談めかし、試すように少女を見る。
「私、いい子だよ」
少女が、真剣な顔で訴えるように言った。
「はははっ、そうか」
その様子に、館長と住職二人はまた笑った。
「そうだね。君はいい子だ」
館長が、そんな純真な目をして訴える少女を見ながらしみじみと言った。
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