第4話

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!


引き戸を明けた父と母の間から見えたのは・・・テレビや、


動物園で見かけるゴリラだった。割烹着を着こなし三角頭


巾で頭を覆ったその姿は、フォトジェニックレベルな神々


しさを放っている


「いらっしゃ〜い」ゴリラ婆ちゃんが笑顔で出迎えた。何


か色々ツッコミたいんだけど・・そんな顔をしたまま座敷


へ上がる。その時、父母は!、早速にこやかにくつろいで


る!?。思わずじっくりゴリラ婆ちゃんの顔を見入ってし


まう。着ぐるみでも無く、コスチュームでも無く紛れも無


く本物のゴリラ・・・つい問いたくなる


「あの、ゴリラですよね?」と。でもそれは、私が誰かに


人間ですよね?と聞かれる事と同じでこの上なく失礼な気


がして気が引けた


「沢山食べてね」いつの間にかお膳には、婆ちゃんもとい


ゴリラ婆ちゃんお手製の料理が所狭しと並んでいた。どれ


も毎年盆に出される決まったメニュー、何も変わらない


変わったのは作った本人だけ


「やっぱ美味いわ〜この煮付け!」私の困惑を余所に父は


久し振りの実母の味を堪能している。本当ねぇ〜と母の箸


も進んでいる。私は、チュルチュルとそうめんを啜り喉越


しを楽しみながらおかずをつまんだ



初日の衝撃が強過ぎて、その後共にした時間は意外にも普


通に流れたのである。買い物するゴリラ婆ちゃん、小さい


爺ちゃん婆ちゃんに混じってゲートボールを楽しむゴリラ


婆ちゃん、畑仕事に精を出すゴリラ婆ちゃん。完璧に社会


に馴染んでいた。誰もが受け入れ、笑顔と笑いが絶えない


模範的な老後ライフをゴリラ婆ちゃんは生きていた。その


笑顔を見た時、私はうれしくて思わず大好きなゴリラ婆ち


ゃん(祖母)を抱きしめていた



「また来年もおいで。」瞬く間に盆休みは過ぎ田舎を後に


する日、少し寂しげな表情で見送ってくれたゴリラ婆ちゃ


ん。来る前は不安や恐れしか無かったのにいざ帰る時は、


そんな表情(かお)を見せたゴリラ婆ちゃんの姿が小さく


なってゆく光景に涙がこみ上げてきた



明日からまた、忙しい日常が戻ってくる。田舎で沢山撮


ったゴリラ婆ちゃんとの写真を見返しながら頑張ろう!


そんな思いを噛み締めながら私は、心地良く揺れる車内


で、どっと出た休み中の疲れに襲われ家までの束の間の


時間眠りに付いたのであった。


つづく

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