第6話 心話、魔法、魔想魔造に関する考察
3ヶ月=75日が経った。
先週、ようやく心話を覚えることに成功した。
それまでは、毎日初等学校の生徒に混じって統一語と魔導学の授業を受けていた。
この世界で生きていくのなら、統一語は必須のスキルである。
心話ができれば魔法が使えない人・種族相手でも話しかけることはできるが、相手が心話を使えないため返事は統一語になる。
したがって、相手の発する統一語を聞いて理解できる必要があるのだ。
正直に言って、この年になって小さい子たちに混じって国語=統一語の授業を受けるのは精神的に辛いものがあった。
だが、フィヨン先生がわざわざ授業を心話でもやってくれているので文句も言えない。
子どもたちはまだ思考言語が確定しておらず心話が完全には通じないため、本来は国語の授業は統一語で行われる。
フィヨン先生は、そこをわざわざ統一語で話しながら、同時に心話でも同じ内容を話してくれていたのだ。
また、魔導学は魔法に関する学問のことである。
心話は一種の魔法であるため、魔法の理解も当然重要になってくる。
心話は単なるテレパシーではなく、送信相手を厳密に設定できるセキュアな通信手段であり、しかも相手の思考言語に依存しない、自動翻訳機能付きのテレパシーなのだ。
地球の科学に基づけば、全く理解の範疇を超えている。
魔法の授業によると、この世界には目に見えない魔素と呼ばれるものが満ちており、それは生物の意志に反応するらしい。
そして、心話は魔素を回線として用いる通信であるという。
実際、そのようなイメージを持つことで心話を習得できたのだから、おそらく正しいのだろう。
魔法使いは魔素を自分の意志に反応させることで魔法を起こすが、心話はその一つである。
しかし、この世界の魔法は、地球人が想像するような便利なものではない(心話は十分便利だが)。
以前、ヘナの火炎放射を見たが、あれはMPを消費することで魔素を介して急激な酸化反応を起こさせるものなので、絶対に酸素が必要である。
また、化学反応を起こしたり阻害したりすることはできるが、無から何かを生み出すことはできないので、空気中の水蒸気を凝結させることは可能だが、空気中に含まれている以上の水を出すことはできない。
威力を上げたり射程を伸ばすには、膨大なMPを消費するので、遠距離攻撃もできない。
なお、MPは体内に蓄積している魔素そのものである。
枯渇しても、空気中から、もしくは食事によって体内に取り込むことは可能である。
魔法の一番の難点は、「固体の操作は困難」ということである。
一旦温度を上げて液体や気体にすれば操作可能だが、これまた消費MPが膨れ上がるので実用的ではない。
したがって、ファンタジーによくあるような地水火風の属性魔法のうち、地属性魔法みたいなものは難しい。
泥であれば操作できるが、土は固体なので操作できない。
水蒸気や水は操作できるが、氷は固体なので操作できない。
固体の操作が難しいので、魔法に基づくエンジンのようなものは実現していない。
石油もなく、内燃機関も発明されていない。
船にはエンジンがあると思ったのだが、実は、魔法で船に接している水を動かす魔導具を使用している。
魔導具は、魔素を凝結させた魔石から魔素を少しずつ消費して、魔法適性のない人でも使えるように作られた道具である。
魔石は、この世界の生物が食事をすることで体内に作る、魔素貯蔵庫器官だそうだ。
大抵の生物は体内に魔石を持っているため、討伐して解体すれば魔石が得られる。
ただし、討伐に手こずると、どんどん消費されてしまうため、小さくなっていく。
俺もこの世界のものを食べ続けているため、体内に魔石ができているかもしれない。
さて、魔法の一種である心話が覚えられたのであれば、他の魔法も使えるのではないか?と考えるのは自然なことだろう。
だが、心話に比べて消費MPが多いらしく、この世界に来て3ヶ月の俺にはまだ無理だろうとのこと。
心話は地球人の俺からすればとんでもない超絶便利魔法だが、消費MPはゼロに近いそうだ。
今俺が抱いている疑問は、「では、魔想魔造は一体何なのか」ということである。
MPは消費しているはずなのだから、魔法の一種とも考えられる。
だが、今の俺にも使用可能なMP消費量で、無から地球の物を作り出すことなどできるはずがない。
というか、無から物を作り出す魔法は実現不可能なはずなのだ。
地球の物しか作り出せない、というのも気になる。
今のところ、魔想魔造に関してはこの世界の誰にも明かしていない。
船に乗った状態でこの世界に来た、積載物も元々船に載せてあったということにしてある。
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