第3話 客室、食事、大事な場所

朝目が覚めると、知らない天井だった。

異世界で客室に泊まる初体験である。

これから朝食だが、その前にこの世界の客室がどんなものなのか書いておこう。

床は木の板でできており、フローリングに近い。

だがフローリングのようなまっ平らな板ではなく、木目の凹凸がある。

そう、こちらの木材にも木目がある。

この木目が、地球の木材の木目とは明らかに異なる。

何と表現すればいいのかよくわからない模様をしている。

ベッドは期待通りあった。

あったが、布団はなかった。

そもそも何も被るものがない。

しかし、横になるとベッドの上は快適な温度になるよう保たれていた。

これは服を脱いで乗っても、それに合わせて温度が調整されている。

素っ裸でも問題ない(試した)。

何か高度な技術が使われているようだ。

だが地球人としては、温度が快適でも何か被って寝たいのだが、部屋に被れる布もない。

仕方なくそのまま寝たが、何の問題もなくあっさり寝入ることができた。

何だこの快適性。

ベッドの出来も素晴らしい。

低反発枕というのがあるが、ベッド全体がアレのようになっている。

枕はない。

ないが何も問題はない。

快適だった。

風呂が見当たらなかったのでそのまま寝てしまったが、どうもこのベッドには就寝時の清浄化効果もあるようで、目が覚めるとさっぱりしていた。

ベッド上に脱ぎ散らかした衣服も、数日間着っぱなしだったにもかかわらず、まるで洗濯したようにきれいになっている。

4日間ずっと着ていた肌着から臭いが消えていた。

口腔内もスッキリしており、歯磨きすら必要なさそうなのには驚いた。


テーブルと椅子もあるが、これは普通に見える。

座ったり書き物をしたりしてみたが、特筆すべきものはなかった。

そう言えば、昨晩は現地人の料理を食べたわけだが、これも普通だった。

普通というのは、地球の料理と大差ないということだ。

特色のある調味料などは使われていなかったが、この世界の魚の味から考えれば、料理に使われるようなものは大抵のものがうまいはずである。

料理には植物も含まれていた。

ちゃんと食べられる植物はあるようだ。

食べている最中、現地人には毒でなくとも地球人には毒になる可能性が頭を過ったが、覚悟を決めて食べてみた。

原型をとどめている食材を分別してじっくり観察してから食べたので、かなり時間がかかってしまった。

一応きのこの毒味と同様にメモを書き、症状が出たらすぐに書けるようにそばに紙とペンを置いておいたが、今のところ問題はない。

朝食も楽しみだ。


さて問題はトイレである。

口腔内と違って腸内までは清浄化できないらしい。

物理法則からすれば当然だろう。

衣服や体表、口腔内の清浄化は、付着した汚れを分解して別の物質にしているが、完全に除去はしていないはずだ。

とは言え、清浄化効果があるとわかっても、さすがにベッド上でウ○コをする気にはならない。

トイレあるんだろうか・・・。

いや、食事を摂る以上、排泄は絶対に必要なはずだ。

だが、もしかしたら現地人は摂取したものを気体にして排出していたらないかもしれない。

地球人の人体を構成する主要な元素は、水素、炭素、酸素、窒素、カルシウム、リンである。

水の惑星である以上、現地人も劇的な違いはないだろうと考えている。

このうち、カルシウムとリンは、気体として排出するのは容易でないはずだ。

やはりトイレはあるだろう。

そんなことを考えながら組合長の部屋へと向かう。

その途中、「ジャアァーーッ」という水の流れる音がした後、現地人が出てきた部屋があった。

「もしかして、トイレ!?」

大急ぎで駆け込む。

「それ」は、確かにそこにあった。

あったのである。

「トイレあったぁあああああああああ!」

思わずガッツポーズとともに叫ぶ。

その形状は、「タンクとフタのない洋式トイレ」である。

「底に穴の空いた、縁が幅広の楕円形のボウル」と表現してもいい。

明らかにそれとわかる形状である。

ズボンとパンツを下ろして座ってみる。

少し柔らかい素材でできている。

「うーむ、異世界と地球のトイレの違い、面白いぞ」

うんうん唸りながらウ○コをした。

スッキリである。

立ち上がると、自動的に水が流れた。

よくできている。

トイレレベルは日本と変わらないようだ。

感心していると、ドアがノックされる。

『ゲンジさま、さきほどの叫びは何でしょうか。何かございましたか』

確か心話とか言っていたが、ドア越しにも伝わるようだ。

ドアを開けると心配そうにしている少女がいたが、晴れやかな笑顔でサムズアップしておいた。

この日、この世界での懸念が一つ、解消された。

いやベッドも含めれば二つだな。

ともあれ、世界は平和に近付いたのだ。

記念すべき日だ(俺にとって)。

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