第2話 発見、救出、宿泊
次の日、能力で作り出した食パンを食べつつ、考えた。
実は、こちらの世界のものはまだ魚しか食べていない。
植物はどれが食べられるものなのかわからない上、致死的な毒がある可能性を考慮したからだ。
きのこらしきものも沢山見かけたが、同様の理由で食べていない。
もちろん魚にもその可能性はあるのだが、魚の身を魚に食わせて観察し、おそらくいけるだろうと踏んで食ってから、やみつきになって食いまくっている。
イノシシのような獣もいたのだが、解体が面倒だし、解体中に他の野獣に襲われる可能性もあったため狩っていない。
「そういや、異世界に行ったら定番の合言葉があったな」
というわけで、言ってみた。
「ステータス」
何も起きない。
恥ずかしい・・・。
どうやら異世界ではあるが、RPG風の設定はないようだ。
まぁ、そりゃそうだよな。
などとしょうもないことを考えながら歩いていくと、右手の川がついに船で下れそうな大河に合流した。
「この先に瀬があったら目も当てられないが、これだけ広ければ・・・」
使い捨てになるのも覚悟の上で、船を能力で作り出す。
車の上にも載せられるサイズのアルミボートだ。
畳んだ状態のゴムボートやカヤックも考えたのだが、これだけの大河だ、何か凶暴な生物が潜んでいて、穴でも空けられてはかなわない。
大型船は消費MPが恐ろしいことになりそうだし、この辺りが妥協点だと判断した。
一応、ヤ○ハの船外機を付けて高速移動できるようにしてある。
「これでダメならどうにもならんな」
というわけで、浅瀬にアルミボートを浮かべて乗り込んだ。
「水面下になんかいる感じはするが、とりあえずは襲ってこないようだな。これなら何とかなるか」
水深のあるところまで手漕ぎで進み、エンジンをかける。
水が濁っているので水中の様子はよくわからないが、エンジン音を轟かせても襲ってくる生物はいない。
俺はすぐに速度を上げて川を下り始めた。
何箇所か川幅が狭くなって流れの早くなっているところはあったが、概ね問題なく数十kmは下ったところで、桟橋を見つけた。
「おおっ、ついに現地人とご対面か?」
だが、桟橋のそばに建っている小屋には誰もいなかった。
「ホコリも積もっているし、こりゃ長い間使われてないな」
だが、小屋を作る程度の文明を持つ生物はいるということは確信が得られた。
「友好的だといいが、問答無用で襲いかかってくるような連中だったら即座に逃げられるように考えておかないとな。盾くらいは持っとくか」
弓矢を想定して、ポリカーボネートシールドを用意した。
さらに川を下る。
そろそろ上陸しようかというところで、ついに現地人を見つけた。
「おいおい、なんか襲われてるじゃないか」
現地人は、5mほどのイカ(のような生物)に襲われていた。
エンジンを止めて遠目から観察する。
「うーん、見た目は地球人と大差ないな。船もかなり高度な技術が使われているな。エンジンも付いてるように見えるぞ。おっ、なんか今魔法っぽいものを放ったぞ!」
現地人が何もないところから火炎放射をイカに向けて放った。
魔法らしきもののの存在に胸が躍る。
「ありゃ襲われていると言うより、戦ってると言うべきか。救助は必要ないか?」
だが、どうも徐々にイカに押されているように見える。
「火炎放射は水に潜られ回避されてるな。早めに助けるか」
エンジンをかけ、急速接近する。
現地人もイカもこちらに気付いたようだが、それどころではないようだ。
イカを挟んだ反対側から、現地人に当てないよう注意しつつイカの眉間に向けて発砲すると、一瞬にしてイカの色が変わる。
「急所や死んだときの反応まで地球のイカとそっくりだな・・・」
ともあれ、何とか救助したのだから現地人と話がしたい。
「××××××、×××××××××××」
「全く何言ってるかわからん・・・」
くそ、自動翻訳能力はないのか。
話が違うじゃないか。
「××、××××」
「うーむ、どうするか。いきなり襲ってくるわけじゃないようだが・・・」
相手も言葉が通じてないことに気付いたようで、ボディランゲージに切り替えてきた。
なんかクネクネしだした。
「うん、全くわからん」
ボディランゲージも通じなかった。
互いに首を傾げる。
この仕草は同じなのか。
だが、突然心の声が聞こえた。
『これならどうでしょうか。私の言っていることがおわかりになられますか』
音ではない。
脳に直接語りかけられた。
『どうやら通じているようですね。父がクラーケンを引き上げますので、その間に少し話をしましょう』
船に乗っているのは槍を携えた大男?と火炎放射を放っていた少女?である。
どうやら少女の方は魔法らしきもので意思疎通が図れるようだ。
大男がイカを引き上げている間、少女から話を聞いたが、このイカを捕まえる漁をしていたらしい。
だが、少女からの一方通行で、こちらからの意志伝達手段がない。
『同意なら右手を上げ、不同意なら左手を上げて下さい。いいですか?』
俺は右手を上げた。
『ではそろそろ移動しますけど付いてきていただけますか』
再度右手を上げる。
互いにエンジンをかけて、下流へと進み始めた。
夕方近くまで進み続けると、徐々に周囲にも船が増え、同じ方向に向かっていた。
おそらく港があるのだろう。
しばらくすると、進行方向に巨大な城壁と、その手前の街が見え始めた。
「城壁の外側に街?奇妙な作りだな」
『前方に見えている港町がエランデル。城壁の中の街はエランと言います。正確にはエランデルもエランの一部なのですが、城壁があるので、外側をエランデル、内側をエランと呼び分けています。エランの人口が増えすぎて、溢れた住人のために領主さまが元々あった港を拡張して作られたのがエランデルです』
少女が解説してくれているので相槌を打つ。
そうこうしているうちに港内に入り、桟橋に船を付ける。
「××××××、××××」
相変わらず親父の方の言っていることはわからない。
首をひねっていると、親父はロープを渡してくれたので、ボートを結んで降りた。
船外機は念のため跳ね上げておく。
現地人の船には船外機は付いていないので、跳ね上げておくと遠目でもひと目で区別がつくからだ。
周囲でも何人か船から降りて会話をしているが、やはり何を言っているのかわからない。
『まずは組合長のところに向かいますので付いてきていただけますか』
右手を上げて、付いていく。
「文明レベルはあまり低くなさそうだな。だが自動車はなさそうだ」
これは街の作りを見ればわかる。
『こちらがエランデルの組合長がおられる建物です。組合長の部屋まで少し経路が複雑ですので、離れずに付いてきて下さい』
また右手を上げると、二人で中に入り、進んでいく。
親父の方はイカの水揚げのために港の方に残っている。
『ここが組合長の部屋です。組合長も心話ができますから、これまでと同様に左右の手を上げて意志をお伝え下さい』
返事を待たずに彼女が部屋に入っていったので付いていく。
「×××、××××××××××××、×××××××××」
「×××××、××××」
「×××××××××××、×××××××××」
組合長らしき人物と彼女が現地語で会話している。
『こんばんは、ここエランデルの港湾組合の組合長をしているヒダルと申します。そちらのお名前をお聞かせ願えますか』
組合長から脳内に直接響く声が届く。
何度聞いても不思議だ。
「ゲンジだ」
『ゲンジダさんですか。ちょっとメモを取りますので少々お待ちを』
「違う!ゲンジ!ゲンジ!」
左手を上げながら伝える。
『ああ、ゲンジダじゃなくてゲンジですか』
右手を上げる。
面倒くさいが、意思疎通できるだけマシだと考えよう。
ヒダルさんが紙とペンを引き出しから出してメモを取り始める。
『名前はゲンジ、と』
『では、出身地名をお願いします』
「ニッポン」
都市名より国名の方がいいだろうと判断して答えた。
『出身地はニッポンですか。聞いたことないですね』
『ヒダルさま、統一語が通じませんし、船も見たことがない作りでした』
『うーん、これは「落ち物」かもしれませんね』
『やはりそう思われますか』
『ゲンジさん、あなたはこことは異なる世界から来た、で合ってますか』
早々にその結論に到ることに驚きつつ右手を上げる。
『やはりそうですか。実は最近この国で他にも何人かあなたのように異世界から来られた方がいるという情報があり、見つけた場合は国に報告するよう通達があったのです。この国はイグニスと言いますが、あなたのような「落ち物」の方々は有能な方が多く、国から何らかの協力を求められるかもしれません』
『ですが、この国は種族間の平等と自由を謳う国ですので、無理矢理に協力させられるようなことはないと思いますのでご安心下さい』
『まずはこの世界で使用されている統一語を覚えていただくことになろうかと思いますが、本日は日も暮れておりますので、ここにお泊まり願えますか』
右手を上げると、疑問が湧く。
果たしてこちらの世界でも「ベッドで寝る」という点は同じなのだろうか。
だが、「日が暮れたので続きは明日」ということは、おそらく同じなのだろう、と見当を付けて少女に付いていく。
そう言えばこの少女の名をまだ聞いていないな。
そう考えていると、少女がドアの前で立ち止まって振り向いた。
『ゲンジさま、こちらが客室となっていますのでご自由にお使い下さい。夕食は係の者が盆に乗せて持ってきますので、食べ終わったら廊下に出しておいて下さい。明日、起きたらさきほどの組合長の部屋にお越し下さい。そこで朝食を摂りながら今日の続きのお話をしましょう』
果たしてドアの中には、ちょっと豪華なホテルのシングルルームのような部屋があった。
少女が去ってしばらくすると、二足歩行する猫のような配膳係が夕食を置いていった。
獣人!獣人がいるのか!!
とちょっと興奮した。
配膳係に引かれてしまった。
なお、猫耳と尾の付いた人型ではなく、二足歩行する猫型の獣人である。
猫耳より半ケモ、半ケモより全ケモ属性の源治が興奮するのも無理はなかった。
こうして現地人と出会った初日が終わった。
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