魔想魔造

橘一灯彩窓月

辺境の科学者

第1話 転移、覚醒、探索

かれこれ3日は森の中を歩き続けている。

幸いにも「能力」のおかげで脱水症状や餓死することはないが、どこにいるのかわからないのは不安を駆り立てる。

早々に河川を見つけたので河畔を下流に向けて歩いているが、なかなか川幅が広がらない。

ある程度広くなれば船で下ることもできるのだが、すぐに座礁しそうな深さしかない。

「やれやれ、この森深すぎだろ」

主に精神的な疲れのため、独り言が多くなってしまうのはだいぶ参っている証だろう。

「今日はこの辺で野営するか」

少し開けた場所で野営することにした俺は、そこに石造りの小さな小屋を建てた。

ある程度硬い建物を作らないと、就寝中に夜行性の野獣に襲われるのだ。

毎晩あまりに野獣が襲ってくるので、自衛のためかなり殺してしまっている。

今はツルツルで硬い壁の小屋を建てることで対応している。

毎晩野獣の気配を感じるが、これでとりあえずは何とかなっている。


「さて、まずは夕食だな」

釣具を用意して川へ向かう。

川へ向かう途中で、草むらにいる虫を適当に捕まえる。

釣り餌にするためだ。

草食性で、可食部の多そうな虫を5匹捕まえ、木箱に入れた。

川岸に着いたら、虫の羽と足をもいで針に刺し、魚のいそうな場所に仕掛けを流す。

スレていないせいか、一投一尾のペースで魚を釣り上げ、魚籠に入れる。

「見たこともない虫で見たこともない魚を釣ると、自分の状況を受け入れざるを得ないな」

これでも俺は生物学者だった。

目レベルですら同定できない虫や魚「しかいない」のだ。

そもそも「虫」と「魚」なのかすらはっきりとはしない。

「草」も植物と言っていいのか・・・。

生息場所と形状からそのように呼んでいるに過ぎない。

「あー、俺異世界に来たんだな・・・」

そう、異世界だ。

別にトラックに轢かれたわけではない。

森の散策をしていたら、妙な「空間の裂け目」があり、近付いたら吸い込まれて、気付いたらもうこの世界だった。

空間の裂け目って何だと思うかもしれないが、そう表現するしかない。

俺が起き上がって振り返ったときには、もうなくなっていた。

そして、こちらに来てすぐに野獣に襲われ、俺はその「能力」に気付いた。

「銃が要る」、そう思ったときには、俺の手には「それ」があった。

それを野獣に発砲して、なんとか窮地を脱した。

その野獣は、哺乳類っぽかったが、よくわからん生物だった。

生物学者の血が騒ぎ、解体してみたが、体の構造はほぼ哺乳類だったが、色々と違う部分も多かった。

だが、肉食獣の肉がうまいとは思えなかったので埋めて供養しておいた。

それから色々試してみたが、どうやらこの能力を使えば、俺が知っている地球の物を作り出すことができるようだ。

対価は精神的な疲労である。

MPを消費しているとでも言おうか。

MPの必要量は作成するものによって異なり、質量に比例するようだ。

作成するものの文明レベルは関係ないらしい。

これは助かる。

さきほどの小屋と釣具も同様にして作り出したものだ。

食物も作れるのだが、釣りで確保すれば少ない消費MPで多くの食物を得られるのでこうしている。

異世界の生き物など食えるのかと思うかもしれないが、来てしまった以上は早く慣れるしかないと思って初日の晩から食べている。

今のところ特に問題はなさそうである。

というか、めちゃくちゃうまいのだ、ここの魚(っぽい生物)は。

調味料は「能力」で作っているので、味はなんとでもなると思って食べ始めたが、ここの魚の身は何も味を付けなくても十分にうまい。

このとき、実は俺の体は徐々にこの世界に馴染んでいっていたのだが、それを知ったのは街に着いてからのことである。

なお、生きた生物を作ることはできなかった。

もしかしたらMPが足りないのかもしれないが、「消費MPに応じた質量の、地球の非生物または生物の遺体を作り出す」のが俺の能力のようだった。

俺はこの能力を、「魔想魔造」と名付けた。

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