第7巻「ワニとサメと台風とその他」
ここは、無人資料館。
無人ゆえに誰にも読まれることのない資料が溢れているところです。
長い間、誰にも読まれることがなかったため、自らに書かれた内容すらとっくに忘れてしまった資料たちがここに棲んでいます。
おや?
どうやら、誰もいないはずの無人資料館に誰か迷い混んだようですね?
あの人はどんな資料を手にして、そこにはどんな内容が書かれているのか、観察してみましょう。
【ワニについて書かれた資料】
ワニとは、天使の心臓である。
悠久の昔、天使は地上を支配していた。
支配者として我が儘の限りを尽くした天使は、地を裂き、海を枯らせ、天を堕とした。
それは支配を嫌う強者も支配を求める弱者にとってもマキシマムであった。
しかし、ある日、支配していた天使は一陣の風によって四散した。
その四散した内の心臓がワニとなった。
ワニとなった天使の心臓は、いつの日かまた地上を支配するチャンスが来るのを虎視眈々と狙って待っている。
ワニとは、天使の心臓である。
【サメについて書かれた資料】
サメとは、悪夢を払う風である。
悠久の昔、地上はある者達に支配されていた。
支配されていた地上は、大地が怒り、海が嘆き、天が泣いていた。
そして、生物の心は悲しみと怒りとブラックユーモアで包まれていた。
しかしある日、地中と宇宙の隙間から放たれた一陣の風が支配者をマキシマムし、その支配を終わらせた。
支配を終わらせた風はその役目を終えてサメへと姿を変えた。
しかし、サメは決して役目を忘れたわけではない。
再び支配者が現れたとき、サメはまた風となる。
サメはその日が来ることがない様に願いながらただひたすら生きている。
サメとは、悪夢を払う風である。
【台風について書かれた資料】
台風とは、時速百二十キロ以上で後ろ向きに走る行為である。
時速百二十キロという基準は、かつて台風養成塾でハリケーン塾長が眠りながらブリッジをして疾走した時のスピードであり、それ以来、これが台風か否かの基準となった。
だが、ほとんどの塾生が台風となることが出来ないため、新たにマキシマムを許可するという案もあるが、ハリケーン塾長はマキシマムには断固反対らしい。
台風とは、時速百二十キロで後ろ向きに走る行為である。
【初日の出について書かれた資料】
初日の出とは、コットンミサイルである。
コットンミサイルというモノが物なのか者なのかは定かではないが、この様な言葉が遺されている。
コットンミサイル、それ
この言葉は、西暦千九百九十九年七の月にパプアニューギニアにある原宿駅で通行人の背中に突如マキシマムされたと云われているが、それもまた定かではない。
初日の出とは、コットンミサイルである。
【バス停について書かれた資料】
バス停とは、雨降る夜に巨大な怪物が姿を表す場所である。
その怪物は、体長三メートルから八メートル程度、体重四グラムから三十二トン程度、個体差はあるが爪が鋭く長くて、幼体時には団栗を好んで食べて育つために、成体は歯並びが非常に良いという特徴を持つ。
基本的に山奥の森や時の狭間に暮らしているが、時としてバス停に現れる。
もし、バス停を持ち歩いているときにその怪物と出会ったならば決して騒いではならない。
騒ぐと怪物がマキシマムしてしまい、非常に危険だからだ。
バス停とは、雨降る夜に巨大な怪物が姿を表す場所である。
「これひょっとして、ワニとサメの資料は繋がってる?考えすぎかなあ…」
おや?
読んでいる途中で帰ってしまいましたね。
無事に帰れるといいのですが…
もし、皆さんが無人資料館に迷い混んだときは、皆さんの手で正しい内容に直してあげてください。
私?
私は人ではありませんので資料を開くことはできません。
久しぶりの人のお客さんが来て、書かれた内容を読んでもらえたので資料達も喜んでいます。
では、次のお客さんが来るのをお待ちしています。
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