第56話 一瞬だけ止んだ雨の音


改札を出たら外は土砂降りの雨。

そしてコンビニ傘は、、、

ちらっと横のコンビニを見るとビニール傘は売り切れ。

土砂降りの雨を見ながら万里陽心は悩んでいた。


「待ってもいいけど少し待っただけでは止みそうにないしなあ。」


スマホの天気アプリを見ると雨100%の文字がでていた。

どうして予報を見てこなかったのか自分でも疑問に思うほどの数値だ。


「まあでも走ればなんとか、」


「なんとかいかない雨の量だよ。」


後ろから被せてそう言っていたのはさっき別れた水野くんだった。


「え!水野くん。」


「はあ、やっぱり走ってバス停に行けばいいとか思ってたか。」


この土砂降りの雨の中に飛び込もうと走るポーズをしていた万里さんの後ろから俺はため息を漏らしながらそう言った。


「何で水野くんがここにいるの?」


「万里さんがもしかして走って無理矢理バス停まで行くんじゃないかと思って来てみたんだよ。そしたら本当にそうだった。」


「だってそれは傘が、、、」


万里さんがコンビニの方へ目を向けているので見てみると、ビニール傘が完売していた。


「なるほど。、、、まあ送るよ。」


「え!いいの?」


「うん。」


土砂降りの雨の中に向けて傘を開く。


「ほら、入りなよ。」


「うん、ありがと!」


さした傘に万里さんが入り先ほどより距離が近くなる。

それに少しだけ、ドキりとした。


「今日も、前みたいに雨降るから傘持って行った方がいいよって教えてくれればよかったのになあ笑」


「あれは、、、。ちゃんと天気予報見なよ。」


「はーい。」


万里さんが言ってる前というのは俺が感情的に思いを伝えようと動いた時のことを言っているのだろう。

何度も自分の中で感情的に行動するのはやめろと言い聞かせていたのに、万里さんが傘を持って来ていないと聞いただけでこの有り様だ。


「もしかして柚子に聞いたのかな、私が傘持って来てないこと。」


「まあ、そうだね。」


「そっか〜、こっちまで来てくれてありがとね。なんか水野くんには色々と助けて貰ってるね。勉強とかも。」


「助けてるというか、俺がやりたくてやってるだけだから。」


「おお?かっこいいですなあ〜このこの〜!」


からかいながら肘で突かれ、右手で持っていた傘が揺れる。


「あんまり暴れないで、濡れるよ。」


傘が揺れて溜まっていた雨粒が落ちて、万里さんの頬を弾いた。


「わあ!冷てっ。へへ。」


「、、、ほら、言ったでしょ。」


隣で笑う万里さんを見て、つい自分も頬を緩めてしまう。



夏が終われば俺たち三年は部活を引退して、こんなふうに万里さんとクラス以外での接点はほとんど無くなるのだろう。

ましてや一つの傘に二人で入ることは多分今日で最後。

同じクラス、同じ部活だった、友達、それだけの関係だ。


、、、俺が何も行動しなければ。



「あ、このバス停で大丈夫だよ!」


万里さんが指さしたバス停には屋根があり、そこに傘を閉じて入った。


「送ってくれてありがとね。いやあ、助かった〜」


「家の近くのバス停からは大丈夫?」


「うん大丈夫、そこからは弟に傘持って来てもらう!笑」


「そっか、じゃあ帰り気をつけて。」


「うん、水野くんも気をつけて帰ってね。」


「、、、万里さん。」


「どうしたの水野くん?」


俺は不思議そうに見ている万里さんの顔をじっと見つめた。




「俺、万里さんのこと、好きだよ。」




「、、、え。」



「すごいポカンとしてる笑 あ、もしかして勘違いしてるかな。友達としてだよ。」


「え、あ、びっくりした。」


万里さんは少し戸惑った顔をしたあと、そう言ってやわらかく笑った。


「なんか、からかってみたくなってさ。まあでも今日、思い出振り返ったりして、友達として万里さんのこと好きだなと思ったから、言ってみた。」


「なんだよ改まって〜笑 照れるな〜。」


「んじゃ、またね。」


「あ、、うん、じゃ、また!」


手を振りながら万里さんは到着したバスに乗りこんだ。

窓際の席に座ったのを見てから、俺は傘を差しバス停を出て駅の方へと向かった。






俺の顔、アッツ.....!


雨の中平然と歩いているところから、徐々に歩くスピードが速くなる。

自分の顔を触るととんでもなく熱くなっていることが分かる。

言ってしまった後、何とか誤魔化そうと頭をフル回転させてでて来た言葉があれだった。

多分万里さんは友達としてという言葉を信じただろう。

そういう人だ。何も勘繰ることはないだろう。


「はあ、、、、。」


俺は何がしたいんだと頭を抱えたくなる。


気づいて欲しいのか、気づいて欲しくないのか。

本当に好きだと言った後が怖いのか、自信がないのか。


心にしまっておくには大きすぎる問題だということに今更ながら実感させられる。


今後の展開に何の変化も起こすことができなかった自分に少し苛立ち、少しホッとしている。

もう心の中はぐちゃぐちゃだ。


「、、、、よし、映画でも見て帰るか。」


このままだとずっと考えてしまいそうなので、気を晴らすために駅前の映画館の上映スケジュールをスマホで調べ始めた。




* * *



『俺、万里さんのこと、好きだよ。』



バスの窓際に座っている万里陽心は考えていた。


ふと何か思うことがあったのか、雨の中を歩く彼の後ろ姿を窓から見ていた。

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眩しくて、溶けそう。 もちこ @monbran

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