第55話 2人目の園芸部員


「今日は来てくれてありがとうね〜!」


「こちらこそありがとうございました!楽しかったです。」


「ありがとうございました。」


「うん!いつでも歓迎してるからね〜!」


一通り園芸部の活動を聞いたあと先輩たちと少し雑談をして俺と万里さんは部屋を出た。


「園芸部の先輩たちみんな優しかったね。おしゃべりも楽しかったし。」


万里さんは楽しそうにそう言った。


「部員が入ってくれないと困るから優しくして楽しませようとするんですよ。部活自体が本当に楽しいかどうかは分からない。」


園芸部の部長が、人手が足りないから新入生が部に入ってくれると嬉しいと言っていた。

だからいつもより楽しそうに見せてもてなしているだけ。


「え〜居心地良くて良いと思ったけどな〜。」


「それもそう見せてるだけですよ。」


「え〜水野くんてひねく」


「、、、。」


万里さんは俺の顔を見てこれは言っちゃいけないやつだと思ったのかその言葉を言うのを抑えた。

言えばいいだろ。ああ、そうだよ、俺はひねくれてる。


「あ、いやーえっと、水野くんは園芸部あんまりよくなかった?」


「いかにも入って欲しそうにしてグイグイくるのが好きじゃなかったです。」


まだ何も知らないのに距離を詰めてきて、何の部活に入りたいのかとか色々聞いてきたり話してきたりするのがあまり得意ではない。そう、この人みたいに。


「そっかあ。私はそういうのちょっと嬉しかったけどなあ。」


「そうですか。」


「、、、。ごめんね、無理矢理一緒に部屋入らせちゃって、、。」


「、、、いえ。」


明らかに楽しそうにしていたさっきより落ち込んでしまっていた。

何だよ、俺の言葉なんか気にしなければいいだけだろ。

いきなり遠慮がちになって、いつもは遠慮なく馴れ馴れしくしてくるくせに。


「じゃあ、俺は他の部活も見てみますので。」


「あ、うん。私も見てみる。じゃあね。」


俺は図書室の方へ、万里さんは3階に上がっていった。

何とも言えない罪悪感が残ったが別にもう関係のないことだ。

あの人とは同じクラスなだけだし、多分同じ部活には入らないだろうしこれからそこまで関わることはないだろう。


万里さんと別れた後俺は時間がある限り部活を見学して回った。


* * *


「これでもう見終わったか。」


あのあといくつか見回って文化部の見学は網羅し終わった。運動部は、、、論外なので見ていない。


「「あ。」」


自分の教室に戻ろうとした時、曲がり角で先ほど微妙な感じで別れた相手にまた出くわしてしまった。


「水野くんまた会ったね。」


「、、、どうも。」


「もしかして教室帰るとこ?」


「はい。」


「私もなんだ〜。」


気まずい。どうしてこう今日はタイミングが悪いのか。

そう思いながらも万里さんと教室までの廊下を一緒に歩いていく。


「良い部活あった?」


「、、、今のところそこまで惹かれる部活はなかったですね。」


「そっか〜。」


「万里さんは良いとこありました?」


「私はやっぱり園芸部かなぁ」


「そんなによかったですか?園芸部」


あ、余計なことを聞いてしまった。

言ってしまった瞬間またあのよく分からない罪悪感が込み上げてくる。


「私、最初から園芸部が第一候補だったんだ〜。」


いひひと笑いながら万里さんはそう言った。


「第一候補になるくらいの魅力があるんですか?」


「え、うーん。私はいいなあって思ったところあったな〜。聞きたい?」


「いや、別に。」


「そっかそっか気になるかあ〜。」


この人耳大丈夫か。


「合格発表の後に高校の案内の書類とか貰ったじゃん?その時に園芸部の人たちが合格した人たちに小さい花束配ってたの知ってる?」


「あれ園芸部の人たちが配ってたんですか。」


「そうなんだよ〜。しかもそれ園芸部の人たちが育ててた花で花束も手作りだったんだよ!」


「ヘ〜そうだったんですね。」


その時配っていた小さい花束は俺ももらっていた。

先輩たちは笑顔で合格した人たち一人一人におめでとうと言って渡していて、俺も言われて貰って少しだけ嬉しかったことを覚えている。


「おめでとうって先輩たちから言われたのも嬉しかったし、花束を新入生のために作ったりとか、なんかそういうことする部活っていいなあと思って。」


花壇に水やるだけかと思ってたけどそんな手の込んだこともやるのか、園芸部。


それを聞くとなんか


「良い部活かもしれないですね。」


「でしょ!」


ぐいっといきなり顔が近づいてくる。


「ま、まあ、そうですね。」


いきなりのことで驚き、たじろいでしまった。


「じゃあ一緒に入ろうよ!園芸部!」


「え」


いきなり何を言い出すのだろうこの人は。


「園芸部に一緒に入ろうよ!」


万里さんは口元に手をやってさっきより少し大きな声で同じことを言ってきた。


「いや、聞こえましたよ。何で一緒に入るんですか、俺が。」


「だって良い部活だって言ったし。」


「それはまあ、そう思いましたけど。入りたいなら一人で入ればいいでしょう。」


「え〜だって一人は心細いし。誰か一緒だったらいいなと思って!」


「それなら友達とか誘ったらどうですか。」


「仲良くなった子は違う部活に入ること決めてるらしくて、園芸部に入りたい子見かけないんだよ〜。水野くんは一緒のクラスだし、一緒のクラスの友達が入ってくれたら嬉しいから!」


「友達って、、俺は。」


俺はこの人のことを友達だと思ってないし、本当に何なんだ。この馴れ馴れしさは。


「他に惹かれる部活なかったんでしょ?」


「、、、そうですけど。」


「じゃあ入ろうよ!園芸部!」


キラキラした笑顔を俺に向けてくる。


「、、、。」


「ね!」


「、、、、、。」



ああ、なんかもう面倒くさくなってきた、、、。



「、、、、、わかりましたよ。、、、入ります。園芸部。」


「え!ほんと!やった〜〜!」


何でそんなに嬉しそうなのか謎だ。

喜んで小躍りしていた万里さんは振り向いて俺にこう言った。


「じゃあ改めて水野くん、三年間よろしくね。」


「、、、よろしくお願いします。」


この学校は最初に部活に所属すればいいだけですぐ辞めてもいい。

三年間どころか一年も持つかどうか分からないが、まあ今は園芸部に入っておいてもいいだろう。


ほとんど関わることがないだろうと思っていた万里さんとこんなふうに関わることになるなんて思わなかった。

こんな強引で馴れ馴れしくて、馬鹿みたいに、、、

キラキラした人と関わるなんて。


* * *


「ふっ、懐かしい。」


少し昔のことを思い出して笑ってしまった。


「最初強引に進めすぎたから少し無理してないかちょっとだけ不安だったなぁ」


「あれで不安だったの?」


「あはは、うん。」


「大丈夫だよ。俺人に合わせるようなやつじゃないでしょ。」


「んーー、確かに!」


笑ってこっちを向いた。


「あの後ゆずも入って友達になれて嬉しかったけど、水野くんが一緒に入ってくれたの心強かったし、ものすごく嬉しかった!ありがとう。」


「、、、いえ。」



「万里先輩、水野先輩〜!こっちいってますよ〜!」


「陽心ー!早く行こうよ!」


「あ!はーい!ゆず今行くから〜!ほら水野くん!」


俺は万里さんと一緒にみんなが集まっている方へと向かった。



俺の高校生活が変な方向へ行ってしまったのも、すぐに辞めてもいいと思っていたのに続けてしまったのも全部、君がいたからだ。


嬉しかったのは君だけじゃない。

君と一緒に活動できたこと、思い出を作れたこと俺も最高に嬉しかったよ。




* * *




夏花イベントが終わり部員たちはそれぞれの帰宅路へ向かうことになった。

夏花イベントが行われる最寄駅が学校に行く時とは違う駅なので、電車で来た人たちは駅を出て乗り換えの方へ行く。

ほとんどは電車だが、万里さんは少し離れたバス停でバスを待つらしい。


「陽心はこっちか〜。」


「うん。バスだからね。ほらゆず電車でしょ?みんな待ってるよ。」


「あ!ほんとだ、んじゃね!陽心また!」


「ん!じゃあね!」


森谷さんは万里さんに手を振って待っていた電車組と合流した。


「万里せんぱ〜い!また部活で!」


「うん!みんなまたね〜!」


万里さんに挨拶を済ませ俺も同じ方向の電車で来た部員たちと一緒に乗り換えの方へと向かった。



* * *



乗り換えをするために一度駅を出ると、外は雨が降っていた。


「げ!雨じゃん!やっぱ降っちゃったかあ。」


森谷さんが隣でぼやいている。


「何ですか、予報出てたのに傘持ってきてないんですか。」


「は?持ってきてます〜。陽心が今日忘れたって言ってたから。」


「え?」


「大丈夫かな、まあ駅にコンビニ入ってるしそこで傘買ってるかな。」


「、、、。」


雨は結構降っていてすぐには止みそうにない。

コンビニで傘を買っていればいいが、大雑把な万里さんのことだからもしかしたら走ってバス停に行けば大丈夫とか思っているかもしれない。


、、、。


「、、、俺ちょっとあっちに用事あるので。ここで。」


「え、水野?」


俺は乗り換えの駅とは反対側の出口へと向かった。

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