第54話 思い出


「うわ〜〜!本当に花だらけだね、ここのミュージアム。」


そう言いながらはしゃぐ万里さん、そしてその他の園芸部の女子たちも万里さんと一緒にはしゃぎ始めた。


今俺たち園芸部は夏に開催されるイベントの一つ、夏に咲く花が集められたミュージアムやカフェなどがある夏花イベントに来ている。


「お前がいきなりみんなで夏花イベントにでも行かないかなんて言い出すからびっくりしたわ。この中に誰か狙ってるやつでもいんのか?」


そんなふうに茶化してきたのは同じ園芸部に所属している同級生や後輩の男子たちだった。


「いや、違うから。普通に3年はもう引退近いから、最後にみんなでどこか行ければいいなと思っただけだよ。」


「ほんとすか先輩〜?」


「そんな人情あふれるやつだったか〜?」


「だから、そうだよ、、思い出作りなだけだから。」


図星だからこそ冷静に対応したかったのだが、あまりにもニヤニヤされるので何ともぎこちない態度になってしまった。


「ねえ写真撮ろ!」


「撮りましょ撮りましょ!」


店内には壁や天井にたくさんの花たちが敷き詰められていて、店内は花の良い香りで溢れていた。

女子たちはそれをバックにみんなで写真を撮っている。


「俺らも入る〜!」


「えー、ちょっと狭いんだけど。」


俺を茶化していた奴らは自分たちも写真に入ろうと写真を撮っている女子たちのところに向かった。


「水野くん、最後の夏休みに園芸部の子達と良い思い出作れそうだね。」


隣で俺にそう言ったのは万里さんだった。


「そうだね。」


「園芸部は大会とか何かしらのイベントで忙しくなるとかはあまりなかったけど、のんびりいろんなことみんなで出来てよかったなぁ。」


「うん。思ったより楽しかった。」


「そういえば私入部する時水野くんのこと強引に誘っちゃったよね笑。」


「ほんとだよ。、、、まあでも、入ってよかったと思ってる。」


あの時偶然あそこを通りかかっていなかったら、万里さんに見つかっていなかったら、俺は園芸部には入っていなかっただろう。



* * *



高校一年の春、新しい学校、新しい人たち、みんなそんな新しい世界に浮き足立っているのが分かる。

自分はというと、そういう周りの浮き足だった雰囲気に呑まれているせいか何だかあまり活動的にはなれないでいる。


「はあ、、部活何にするかな。」


この学校は入学と同時に部活にも入らないといけないという面倒な決まりになっている。

途中で辞めてもいいということにはなっているので、まあ何となく気楽な部活にでも入ろうかと思い室内の部活を見回っていた。


「ん、、ここは園芸部?」


小さめの教室のドアには園芸部と書かれた紙が貼ってあった。


「花の水やりとかかな、、そんなに忙しそうな部活じゃなさそうだな。」  


少し見学してみようとドアに近づいていくと


「あ!」


廊下側から誰かの声が聞こえたのでそちらの方を見てみる。


「水野くんだよね?同じクラスの。」


「げ。」


そこにいたのは同じクラスで前の席の万里陽心という女子生徒だった。


「水野くんも園芸部気になってるの?」


この人は誰彼構わず楽しそうに喋りかけていって、俺にもただ後ろの席になっただけなのに馴れ馴れしく入学早々話しかけてきた人だった。

こういうズカズカと距離を詰めてくる感じが俺は苦手だった。


「いや、、俺は別に。」


「え、でも今ドア開けようとしてなかった?」


「や、それは、、。」


ガラララ


「え!もしかして君たち部活見学に来てくれたの?」


俺たちがドアの前で話していると勢い良くドアが開き、部員の先輩らしき人がキラキラした笑顔でそう言った。


「あ、、いや、その」


「はい、気になって来てみました!」


「ほんと?嬉しい!さあ入って入って!」


「え、俺は、」


「ほら、入ってみようよ!」


そう言って万里さんは俺の背中を押してきた。


「ちょっ」


押されるがまま園芸部に入り、そこから俺の部活動選択、そして学校生活が変な方向へと走り出してしまった。

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