第53話 I want to be close to your heart


バイトが終わりちょうど帰るときに携帯を見ると陽心からメッセージが届いていた。


【バイト終わったら一緒に帰ろうよ〜!図書室にいるから終わったら教えてー😃】


「、、、。」


「どうしたんですか?大和先輩。」


「あ、いや、ちょっと寄るとこあるので、俺はこれで。」


「そうですか!じゃあお疲れ様です!」


「お疲れ様。」


「はい。お疲れ様です。」


一緒に店を出てきた真木咲さんと田淵くんに挨拶をし、俺は図書室に向かった。



* * *



「よ。」


「あれ、慎くん。」


勉強している陽心の後ろに立ち、陽心の頭に手を乗せた。


「おう。ちゃんと勉強してたか。」


「うん。なんだ。来てくれたんだ!」


「携帯見たの店出たときだったし、まあ通り道だしな。」


「ありがとね。じゃあ帰ろっか。」


「ああ。」


陽心が机に出していた参考書や筆記用具をしまう時に、俺があげたペンギンのキーホルダーが筆箱に付いているのが見えた。


「あ、ペンギン。」


「ん?ああ、ここにつけてるんだ。へへ!可愛いでしょ。」


俺があげたやつなのにまるで自分が見つけたかのような言い振りは、何とも可愛らしいものだった。



* * *



「あ、バスちょうど来てるね。」


「乗れそうだな。」


時間の少し前に到着していたバスに二人で乗り込む。


後ろの方に二人席が空いていたのでそこに座った。


「今日はすごかったね、慎くん。」


「、、、、ん゛ん。」


すごかったって豪快に転んで豪快に料理をこぼしたことを言っているのだろうか。


「まじで格好悪かったよな。自分から見に来てくれとか言っといてあんな派手に失敗するなんて。全然成長してない。」


「そんなことないよ。」


「そんなことあるだろ。あんな失敗して、、、。良い気になってたんだ。だんだん慣れてきて自分がすごいできるようになったとか思い上がって。陽心が見てくれてることにも嬉しくなって気が散って。はは、、、笑える。」


「私がすごかったって言ったのは一生懸命働いてる慎くんの姿のことを言ったんだよ。」


「どこがすごかったんだよ。なんにも出来てないくせに調子に乗ってたんだ。」


こんな卑屈になっている自分を陽心には見られたくなかった。


なんで俺のこと待ってたんだよ。


「ちゃんと接客して案内して、笑顔で注文聞いて、美味しい料理出してくれたじゃん。」


「そんなの、当たり前のことだろ。」


「こぼしちゃった時だって、ちゃんと謝って片付けて。その後も自分の仕事をしっかりやってた。」


「だから当たり前のことだって。それが仕事なんだから。別に、、、励まさなくていいよ。」


「悔しい?」


「悔しいよ。何であんな失敗しちゃったんだろうって。ちゃんと仕事覚えて出来てたはずなのに。迷惑かけて。、、、陽心にだって本当は良いところ見せたかったのに。」


なんかもう気持ちがぐちゃぐちゃでなんて言えばいいか分からない。

こんなこと陽心にぶちまけても困らせるだけなのに。

どうして上手くいかないんだ。


「ねえ、見て。」


そう言って陽心は俺に自分の携帯画面を見せてきた。

見てみると、そこには俺が陽心に出した料理が写っていた。


「これ慎くんが盛り付けてくれた料理だよ。写真撮っちゃった。」


「、、、。」


「悔しいって思うのは仕事にちゃんと向き合ってた証拠。上手くいかなくて悔やむのはずっと頑張ってたから。悔しい気持ちは本人にしか分からないけど、この料理とか働いてる姿を見たら私も少し分かる。」


「、、、。」


「そんなの当たり前のことだって言えるのは、当たり前になるまでやってきたからだよ。」


自分の中のいろんなグチャグチャした感情が溢れそうになる。


「それに私はね、格好良いところを見に行ったんじゃない。」


「え?」


「頑張ってるところを見に行ったんだよ。」


そう言われた時ずっと堪えていたものが溢れて目の前がぼやけた。

必死に隠そうと下を向く。


自分の背中に陽心の手の体温が伝わってくる。


「今日は本当に、お疲れ様。」


そんなに俺を甘やかさないでくれ。

その優しさにもっと俺は。


悔しさに涙なんて出ないと思っていたのに。

背中に伝わる陽心の優しい温もりが涙をもっと溢れさせた。

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