第49話 肯定だけではない応援を


「やっぱり新メニューと言ったら、誰も考えつかないような斬新なものがいいですよね!」


「そうですよね。こう、見ただけで魅力溢れるようなやつにしたいですね。」


今日のバイトが終わり、俺は真木咲さんと新しく出すメニューについて近くのカフェでアイデアを出し合っている。


「最近だと食べる前に写真を撮る人が多いから、見た目が可愛いかったりインパクトがある方がいい気がします。カラフルになってたり面白い形をしてたり!!」


「確かに。見た目が目を引くもので興味をそそられるもの、、、主食とデザートどちらにしましょうか。」


「ん〜〜可愛いくしようとしたらデザートの方がやりやすいような、でも主食でインパクトある方が普通に食べにきた人でも頼んでくれますよね。」


何を作るかがなかなか決まらない中どんなふうにしたいかという理想ばかり膨らんでいってしまっている状態だ。


「予算的なものも他のメニューと大体一緒にしないといけないですし、考えることが結構ありますね。」


「そうでした!そこも考えないと、、。何にするか決まってないのにすっごいもの作ろうって張り切って全然具体的なこと考えられてなかったです、、。」


「俺も全然思いつかなくてすみません。んー作りやすいものにしてそこにアレンジを加えていくというのはどうですか?例えばパフェだったらすごいカラフルで可愛くするとか、カレーだったら色を変えてみるとか。」


「あ!確かに!それだったら予算的にもあまり変わらなさそうですし、そこまで難しくなさそう。でもそれだけだと本当にすごいアレンジにしないと新メニューとして出す意味がないような、、。」


「そうなんですよね。それが難しいところでもある、、。」


いろんな話し合いは出来た。

でも新しいメニューは何も決まらないまま時間だけが過ぎていった。


「もうこんな時間!まだ何にも決めてないのに!」


「ほんとだ。今日はここまでにしましょうか。」


お互い何の料理をベースに作るかを一回考えてこようということになり、今日は解散になった。



* * *



「全然何も決まらなかったな。」


家に帰り自分の部屋のベッドに寝転がり、喫茶店やレストランのメニューを調べながらそう呟いた。


無難なメニューだとつまらないし、インパクトがあると言っても美味しくないといけないし、作ることができないと意味がない。


「、、、。」


何をベースに作るか、、そういう時って自分の作りたいものがまず思いつくものだ。

そもそも自分の作りたいものってなんだ。

何を作りたいのか、何をメニューにしたいか。

美味しいもの、、、喜んでくれるもの、、、。


俺がいつも思い付くのは一人の女の子のこと。

その子が喜んでくれるのが一番の幸せだ。

その気持ちをベースに作るのはやはり個人の気持ちだからお店としては良くないのだろうか。


そう思いながらも俺はラインを開いてその子にメッセージを送った。


【陽心はさ、レストランとか行ってどんなもの出されたら嬉しくなる?】


少しすると返信がくる。


【もしかして新メニューでいろいろ悩んでるの?】


【まあ、そんなとこ】


【少し歩いて話さない?】


「まじか。話したい。」


嬉しくなりそこだけメッセージを返す前に声に出して言ってしまっていた。


・ ・ ・


「お、陽心。」


「よっ。」


玄関を出るとすでに近くで陽心が待っていた。


「こんな時間に悪いな。」


「いいんだよ。歩いて話そうって言ったの私じゃん笑」


「勉強してたのか?」


「してたけど息抜きしたいと思って言っちゃった。行こう。」


「おう。」


二人で当てもなく歩き出す。


「それで陽心、さっき言ったことなんだけど。」


「私が何出されたら嬉しくなるかだっけ?」


「ああ。」


「それは、、、言わない!」


「え、なんでだよ。」


「だって新メニューに私の意見なんて関係ないでしょ。」


「関係あるよ。だって俺は陽心に食べてもらいたいし、喜んで欲しいから。」


「それ。」


陽心は俺の方を向き指をさしてそう言った。


「慎くんが考える新メニューはいろんな人たちが食べるんだよ。私の意見なんか関係ない。まずお店とお店に来てくれるお客さんのことを考えないと。」


「、、、まあ、そうか。でも俺は」


陽心に格好良いところを見せることが出来るかもしれない、成長できるかもしれないと思ってバイトを始めたんだ。


「俺にとってそれを一番食べて欲しいお客さんは陽心なんだ。そういう気持ちを軸に考えるのはだめなのか?」


「ん〜〜、だめではないかもしれないけど、、慎くんはさ、新メニュー頼まれて嬉しかったでしょ?」


「ああ。」


「嬉しかったのはどうして?」


「それは」


自分たちが考えて作ったものが新メニューとしてお店で出されるかもしれないというチャンスをもらって


「やったことないことに挑戦できてそれがお店のメニューになると思うとなんかワクワクしたから。」


「それなら私のことは置いといて、その自分の気持ちを大事にして向き合ってみなよ。慎くんが働いてるコージーテイスティのメニューになることを意識して。」


「コージーテイスティーのメニューになることを意識してか。」


「そう!だから私の意見は言わない。意見を聞くのはお店やお客さんのことをよく知ってる人にした方が良いと思う。あとは慎くんが思うように作れば良いんだよ。」


そう言って陽心は俺より少し前を歩いた。


俺は少し前にいる陽心を呼んだ。


「陽心。」


「ん?」


「陽心の意見は聞かない。一番にお店とお客さんのことを考えて向き合ってみる。」


「うん、それがいい。」


「でも、俺が考えるメニューなんだ。俺の好きにできるところはさせてもらう。だから、陽心の好きなものをひとつ料理に加える。」


「、、、。」


「メニューを考える中でそれが少しの欠片になるかもしれないけど、それでも俺はお前にも喜んで欲しいから。俺が思うように作ればいいって言うなら俺はそうしたい!」


そう言うと陽心は俺の方に近づいてきた。


「私の意見とか関係なく、慎くんがそうしたいならそうすればいい。頑張ってね!」


その笑顔はやはり俺にとって、最高に頑張れるものだった。


「なんか昔も同じようなこと言ってくれたよな。」


「そうかもね笑、前も今も全然アドバイスにはなってないけど。あはは。」


「いや、お前の言葉はいつも目指すものを考えさせてくれる。だから目の前がクリアになるんだ。ありがとうな。」


「あはは、照れますねえ。どういたしまして。」


「俺もお前の力になれたら良いんだけど、、俺に出来ることなんて、ないよな。」


いつも俺ばかり良い思いをしている気がする。陽心にも何かしてやりたいのに。


「じゃあ、新作の苺メロン味のマカロンアイス買って一緒に食べよう!」


「なんだそれ笑ただ一緒に食べるだけでいいのか?」


「いいのいいの!」


陽心は近くのコンビニを指して楽しそうにしている。


こんなのお前の力になるどころか俺の力にし

かならないような気がするが、楽しそうにしている姿を見るとそんなことでも良いのかと、なんだか嬉しくなった。


陽心にとって力になることが俺にとって力になることと同じみたいで。

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