第47話 気持ちの変化が見えた時


図書館内に入りまず最初に向かったのは本格的な自習室。

ここは大体満室なイメージがあり、なんというか自習室特有の圧迫感がある。

窓から全体を見渡し確認してみたが、陽心らしき人物はいなかった。

ここじゃないとすれば窓際のテーブル席にいるのだろうか。


思わず図書館に入ってしまったがこんな隠れてコソコソしながら気づかれないように様子を見るなんて自分でもどうかと思うが、もうここまで来たら止められないでいた。

その姿は多分保護者のようとは言えないものだっただろう。


自習室を後にし窓際の方へと向かってみるといろんな制服を着た人たちがそこで勉強をしていた。

勉強をするならここのテーブル席かここの近くの一人席、そして先程の自習室になる。

陽心は友達と一緒にやっていると言っていたから、いるとしたら多分一人席ではなくここのテーブル席エリア。


体勢を低くし本棚に隠れながら一つずつテーブル席を見ていく。

もはや陽心以外からは変人に見られてもいいくらいのことを思いながら進んでいくと、少し遠くにあの水野の顔が見えてきた。


「あそこか、、。」


少し体を本棚から覗かせて隣を見てみると陽心の姿があった。


「陽心。」



陽心には水野に勉強教えてもらえよと言ったけど、俺はやはり少し不安な気持ちでいた。


水野と陽心が勉強を通して仲が深まってしまうんじゃないか、陽心が頼れる水野のことを意識してしまうんじゃないかとか、

自制しようと陽心には隠していた不安や嫉妬は俺の中で確実にあったんだ。


だからこうやって図書館で勉強しているところを見にきてしまっていた。



でもそんな心配は、必要なかったのかもしれない。


陽心が問題を解いていると時折水野が何かを教えているのか陽心に話しかけている。

陽心はそれを聞きながら頷きノートに何かを書いて質問してまた何かを熱心に書いていた。


陽心は水野とか関係なく、勉強を頑張っている。


あの熱心に勉強している姿を見たら不安に思っていたのが馬鹿らしく感じた。

こんなコソコソと見に来ている自分がすごく恥ずかしい。


進路とかやりたい事がまだ見つかっていなくても3年生の時間は限られていて、どんどん受験が迫ってくる。

だから今やれることを熱心にやっているんだ。


陽心は勉強を頑張っているだけなのに、俺は水野のこととか嫌なことばかり考えて、自分の中では自制が効かず全然格好良くなんてなれていなかった。


俺がすべきことは嫉妬ではなく、ただ頑張っている陽心を応援すること、見守ること、そして


待つことだ。



* * *



「あれ?慎くん?」


「お、陽心。終わったのか。」


図書館のラウンジで近くの本を読みながら座って待っていると、勉強を終えた陽心とその友達二人、そして水野が現れた。


「まだ待ち合わせの5分前だけどバイト終わったんだ?」


「あー、実は15時までに変更されてて。ここで待ってた。」


「え!言ってくれればよかったのに。そしたら私も」


「いいんだよ。お前の勉強時間はできるだけ削りたくないから。」


まあそれ以外にも理由はあったのだけれど、それは絶対に言えない。


「陽心、知り合い?」


「ああ、えっと、うん。友達の大和慎一郎くん。ここでちょっと待ち合わせしてて。」


「へ〜待ち合わせ、、あ!もしかして花火大会に一緒に行く人?!」


陽心の友達の一人になぜか俺が花火大会に一緒に行くことが知られている。


「そうだよ。」


「わ!へ〜〜〜。この人がねえ。へ〜〜〜。」


すごくニヤニヤしながら舐めるように俺を見てくる。


「ど、どうも。」


「陽心とはどういう関係なの〜??」


今度はもう一人の陽心の友達が話しかけてきた。ど、どういう関係って。


「、、、昔からの友達です。」


「へ〜!じゃあ幼馴染ってやつだ〜。」


陽心の友達たちと話していると後ろにいた水野と目が合う。


水野は邪魔くさそうに俺を見て目を逸らし、図書館から出ていった。



・ ・ ・



「ごめんね慎くん。なんか騒がしくしちゃって。」


「ああいいよ。友達に寄ってくる男がどんなやつなのか気になるのは分かる気がするし。」


あのあと二人から陽心と俺に10分くらいの質問攻めが続いた。

いつ解放してくれるのだろうとは思っていたが、なんだか俺が陽心ともう付き合っているかのような雰囲気で二人は聞いてきたので、まあ嫌な気はしなかった。

今はバスに乗り、新しくできたレストランの方へと二人で向かっている。


「あはは、色々聞いてきたね。初デートはどことか。付き合ってる訳じゃないのに。気が早いなあ、ははは。」


俺はもうお前とそういう想像は済ませてるぞなんて言ったら引かれるだろうか。

何か別の言い方で、


「俺は、、陽心と2人で出かけるときは、いつも、デートだと思ってる。俺も気が早いのかもな。」


「え、、、そ、そっか、、。好きってそういうことだもんね。」


意識して少し照れている陽心の姿は最高に可愛い。


「俺にとっての初デートはコンビニでお前がアイスを買ってきてくれたときだ。」


「ええ!あれ初デートに入るの?!じゃあクモマチに行った時はもうすでに二回目だったってこと?」


「あれは本格的な初デートだな。」


「本格的な初デートって笑 まあでも、そうなのかもね。」


そうなのかもね?


認めたのか?


今、陽心、デートだって認めたのか?


「あ!見えてきた!新しいレストラン。」


え、じゃあもう全てが陽心公認デートだってことだよな?

あれ?俺たちもう付き合ってるのか?

もしかして陽心は俺のことが好きになったのか?


「ほら着いたよ。行こう!慎くん。」


そんな飛躍したことを一人悶々と考えていると陽心が俺の手を引っ張りバスから降りた。


「よし、入るか。」


「うん!」


外観も内観もレトロでおしゃれなレストラン。

外で食べられるテラスのようなところもあり、なんだかいい雰囲気だ。


中に入り窓際の席へと案内される。


「よーし!食べよう食べよう!」


陽心が楽しそうにメニュー表を開き俺にも見えるように横に置いた。


「なんか全部美味しそうに見えて迷うな〜〜。」


「んーじゃあ、俺はエビフライとカツカレーのセットにするかな。」


「それちょっと気になってたやつ!ん〜でもチーズハンバーグとデザートのセットも気になる。うーん。」


「じゃあ俺の少しやるよ。」


「え!いいの!じゃあ私のもあげる。」


「、、、ああ。くれ。」


「うん。楽しみだな〜。あ、すみませーん!注文いいですか?」


好きな子と新しいレストランへデート、そしてシェア。

今だけはこの子の笑顔も時間も独り占めできる。俺だけのものなんだ。


「今日は一緒に来てくれてありがとね。」


「俺も行きたかったし、、ありがとう。あ、そうだ陽心。」


「なに?」


「俺、今日、バイトしてる喫茶店で新しいメニューを考えてみないかって言われたんだ。」


「え!すごいじゃん!」


今日バイトで言われたことを陽心に伝えると目を大きく見開いて驚き、嬉しそうにしてくれた。

その顔を見て俺も嬉しくなる。


「慎くんが全部考えて作るの?」


「いや、もう一人いて、この前会った真木咲さんと一緒にやることになって。それで成り行きで新しいメニューを考えることになったんだ。」


「ああ、美里ちゃんも一緒にやるんだ。すごいね、二人とも。先輩から見込まれてるんだ〜。」


「あ、それは、ちょっと違うかもしれないけど、、」


見込まれているわけではなさそうだ。島木さん完全におもしろがって決めたことみたいだし。


「だから、もし、よかったら、その、応援してて欲しい。、、、陽心に応援されてると頑張れるっていうか、いい物にしようって思えるから。」


「うん。応援するよ。応援するに決まってるじゃん!」


「お、おお。ありがとう。」


「早く食べてみたいな〜慎くんたちが考えた新メニュー。」


「まだ作ってもないからなあ笑 美味しいものが出来れば良いんだけど。」


「慎くんが考えて作ったものは美味しいって食べなくても分かる。だからもう、今、慎くんが自分で考えた料理を私のテーブルに置いてくれてるのが想像できるよ。、、、私も気が早いのかな。」


「、、、、嬉しいくらい、気が早いな。」


「あはは、そっか。」


ニコニコと笑って、まだ見た事がない俺の接客をこんな感じかなとやってみせる。

エアで執事のようなお皿の持ち方やお茶の注ぎ方をしている陽心に思わず笑ってしまう。


大好きなんだ。


その笑顔が、そばにいることが、陽心が。


「陽心。」


「何?」


「俺は今、すごく幸せだ。陽心と一緒にいれて、応援されて。」


「どうしたの急に笑」


「いや、なんか改めてそう感じて、伝えたくなった。」


「そうなんだ。うん。私も、すごく幸せだよ。」


俺が感じている幸せと陽心が感じている幸せは同じではない。


でもすごく幸せだよと言ったその表情は本当に幸せそうで俺じゃなかったら勘違いしてしまうくらいの可愛い笑顔だった。


「前だったら意識することなんてなかった。でも最近なんか色々考えるようになったんだ。」


「え?」


「このレストランも慎くんと一緒に行きたいなとか、行けなかったら残念だなとか、慎くんがどうするかを前よりも意識するようになってて、なんか感情が揺れ動く事が多くなってる。」


「陽心、、、」


「だから今こうやって、当たり前みたいに一緒にいてくれるのが、すごく嬉しいし、楽しくて幸せなんだ。」


「お、おお、おう。お、俺もだ。」


こんなことを言われるとは思っていなかったので、多分今俺は相当気持ち悪くて変な顔をしているだろう。

陽心はいつも通りに笑っている。


違う幸せだけど、違わないのかもしれない。


好きとかそういう感情抜きにしても陽心は俺といることが幸せだと感じているということだ。

このレストランにも俺と行けなかったら残念がるし、行けたら喜ぶと言っていた。


前だったらこんな風に幸せだなんて伝えることもなかったし、俺のことで感情が揺れ動くなんてしなかっただろう。


陽心は少しずつ俺のことを、恋愛的な意味で意識し始めているのだろうか。


「マジか、、、」


「ん?どうしたの?」


「え、あ、い、いや?なんでも?あー腹減ったなーー。陽心、なんか、もっと色々頼め。今日は俺の奢りだ。」


「え、でもまだお給料もらってないよね?」


「いや、大丈夫だ。今もらったから。」


「?今?」


嬉しすぎて訳のわからないことを言って不審がられてしまったがもういい。

今日はもうとことん楽しもう。


「ほら、陽心デザートもいっぱいあるぞ。」


「え、でもセットについてくるけど、、」


「いいんだよ、ほら。」


陽心は何が起こったのか分からないまま嬉しそうにデザートを頼み始める。


「ああ、やっぱ好きだなあ。」


俺はテンションが上がって思った気持ちをこぼしてしまっていた。


「え?このケーキ慎くんも好きなの?頼む?」


「あ、、、、おう。頼もうかな。」

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