第46話 休憩にワクワクを添えて


「「新しいメニュー?」」


「そう。新しいメニュー。」


「島木さん!私の話聞いてましたか?私は自分で言うのもなんですが誰もが認めるほど料理が下手なんです!大和先輩だけならまだしも私が加わったらとんでもないことになりますよ。」


自分の料理の出来なさを分かっているからだろうけどそこまで卑下しなくても、真木咲さん。


「なんだよ。やってみたくないのか?」


「、、、やりたいです!!」


真木咲さん、正直だな。


「大和はどうだ?」


俺は正直なところ


「すごく興味はあります。でも、少し不安です。」


「どういうところが?」


「どうして俺と真木咲さんなのかなと思って。もっと他に良いアイデアが出せて美味しいものが作れる人がいるのに。」


「大丈夫だ。期待はしてない。」


「「え!!」」


少しは見込みがあるから言ってくれたのかと思ったがそうじゃないのか。


「当たり前だろ。料理がクソ下手なやつとただの新人に期待する方がおかしい。」


「じゃあどうしてですか?」


「それは、、なんか面白そうだから。」


「なんですかそれ。」


「ただの思いつきだよ俺の。だからあんま深く考えないでやれば良い。」


「深く考えないで、、」


「来週のシフトの日までに、案考えてきてみろ。新メニューにするかはそれからだな。

じゃあ俺は昼休みなんで。」


そう言って島木さんは財布だけを持って部屋から出て行った。


「島木さんて意外と思いつきで何かすることあるんですね。」


「基本料理長に従ってしっかり仕事していますが結構マイペースで思いつきで料理を変えちゃう時あるので、、。」


「料理を変える、、。まあ、でもよかったですね。真木咲さん。調理に携われるかもしれませんよ。」


「よかったですけど、嬉しいですけど、全然まだできないし、ここで良い案を出さないと次やる機会があるかどうか、、。」


やりたいとは言っていたが不安そうな顔をしている。

確かに自信もないままチャンスがくるのは、どうしたって頑張るという力技をするしかない。

どうしようもない。


「俺も不安ではありますけど、、、でもなんかやっぱり面白そうですよね。」


確かに不安だが、いろいろ案を出しながら考えて作ってそれがもしかしたら新しくメニューになるかもしれないと思うとわくわくする。

それは真木咲さんも同じだろう。


「そう!そうなんですよね!不安ではあるんですけど、そういう機会に恵まれたのが本当に嬉しいというかラッキーというか。やっぱり不安と同じくらいワクワクするというか!」


真木咲さんもいつものテンションに戻りつつ楽しそうだ。


「あの、大和先輩!次のシフト被ってますよね。その後いろいろアイデア出し合いませんか?」


「ああ、いいですね。出し合いますか。」


掲示板に貼ってあるシフト表を見て何日に被っているのかを確認する。


「この日ですかね。」


「そうですね!この日にしますか!」


ふと自分の今日のシフト時間が目に入るとそこには赤いペンで15時までと訂正されているのが目に入った。

今日、15時までなのか。


「じゃあ次のシフトまでにお互い考えてきましょう!」


「分かりました。」


「あ!そういえばハンバーグ。どうぞ、食べて下さい!」


「あ、そうでしたね。」


目の前に迫力のある二つのハンバーグが置かれていたことをすっかり忘れていた。


「えっと、じゃあ、いただきます。」


キラキラした目で見られながらそれを口に含むと、想像以上に迫力のある味がした。


水を飲みながら食べ進めている俺を真木咲さんが応援するというなんとも言えない時間の後、正直な感想を言い真木咲さんはそれをメモしていた。

そこで真木咲さんに作った工程を聞き、

次のシフトまでに普通の作り方と比べての改良点をメモしてくると伝えて、休憩は終わった。



* * *




午後3時過ぎ。


バイトが終わり俺は陽心のいる図書館に向かっている。

陽心にはバイトが16時ではなく15時終わりだったとは伝えていない。

俺の都合でわざわざ集合時間を早めて陽心の勉強時間を減らすのはなんだかあまりしたくないと思ったからだ。


ではなぜ俺はどこかで時間を潰そうとするわけでもなく、真っ先に図書館に向かっているのかというと


「ここだな、、、。」


決して、水野が陽心に勉強を教えていて2人の心の距離が近くなっているんじゃないかと不安に思ったり、勉強してる時でさえ陽心を独占しやがって羨ましいなこの野郎と嫉妬しているわけでもない。


そういうわけではないが、まあ、時間があるし、一応どんなもんかと興味本位で見にきたのだ。

これはそう、陽心はちゃんと勉強をしているのだろうかと保護者のような気持ちでいるだけなのだ。


決して汚い感情で見にきたわけではない。至極清らかで澄んだ感情だ。


そんなことを思いながら俺は図書館内に入っていった。

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