第45話 パフェとパンケーキとハンバーグ


「あの、大和くん大丈夫ですか?」


「あ、、、す、すみません!知村さん。ちょっとぼーっとしてました、、。」


「今の時間お客さんが少ないからって気を抜かないでください。ほら、呼んでますよ。」


「はい。行きます!」


バイトにも少しずつ慣れてきて今では接客全般や少しだが盛り付けの手伝いも任されるようになった。

そこでこんなぼーっとしてしまうなんて、しっかり気を引き締めないと。

俺が今バイト中にもかかわらずアホ面でぼーっと突っ立ていた理由は、



・ ・ ・



駅に着き、バス停から図書館があるショッピングモールへと向かう。

俺のバイト先はこのショッピングモールの奥の通りにあるから陽心とはここで別れることになる。


「じゃ、私はここで。」


「ああ。じゃあ、また後で。」


「うん。行ってらっしゃい、慎くん。」


「お、おう。行ってきます。陽心も、、行ってらっしゃい。」


「うん!行ってきます。」



・ ・ ・



という感じの陽心との新婚生活みたいなことをバイトへ行く前にやってしまい、浸ってしまっていたというわけだ。


こんなことだけで新婚生活だのなんだのほざいている自分を心底気持ち悪いと思うが、あれは本当に新婚生活の雰囲気だった。


行ってらっしゃいって言ったんだ。俺に陽心が、、。手を振って笑顔で仕事に行く俺に行ってらっしゃいって、、、



「大和くん。」


「あ!はい!」


「今から盛り付けの方をするので一緒に来てもらっていいですか?」


「分かりました。じゃあえっと、、ここは」


「俺がやっとくよ。」


「あ、田淵くんありがとう!」


俺は今やっていたドリンクバーの補充を田淵くんに任せ、知村さんと一緒にキッチンの方へ向かった。


「じゃあ今日は苺のパフェを盛り付けていきます。」


「はい!お願いします。」


知村さんには少し前から料理の盛り付け方を教わっている。

最初はなかなか綺麗に出来なかったが、知村さんが丁寧に教えてくれるので、だんだんとコツが掴めるようになってきた。


「まず、下に苺のゼリーを敷きます。」


「はい。このくらいですかね。」


「そうですね、そのくらいです。次に苺のムース、その上に苺ジャム、生クリームを乗せていきます。」


「こんな感じですかね。」


「そうそう。その上に苺チョコがコーティングされたコーンフレークを乗せて、また上に生クリームをかけます。」


「わかりました。」


知村さんと同じように具材を乗せていっているだけなので、今のところは綺麗な層になっている。


「じゃあ次に半分にカットした苺を中身が外側を向くようにグラス側に敷き詰めて、空洞になった真ん中にバニラアイスを入れます。」


「お〜、なんかパフェっぽくなってきました。」


「まだありますよ。」


今敷き詰めた具材がもうグラスいっぱいまできていて、あとは上に盛り付けをするらしい。


「次はトップにボリュームのある盛り付けをします。」


「ここからボリュームつけるんですか!グラスもういっぱいになってて落ちないか不安ですね。」


「それがパフェですから。」


「た、たしかに。」


涼しげな顔で知村さんは真ん中に苺アイスを乗せてその周りを生クリームで包んだ。


俺も見真似でやってみたが、生クリームを出しすぎてしまった。


「うわあ、、」


「あまり出しすぎると後で苺を盛り付けたときに変にはみ出してしまうので少しの方が良いですね。これはもう、慣れだから何回かやってれば徐々に量が分かってきます。出しすぎたら少し減らしましょう。」


知村さんから受け取ったスプーンで少し生クリームをとる。


「次はこの半分にカットされた苺を周りに置いていきます。これを2段重ねていきます。」


「な、なんか、手が震えますね。」


少しでもバランスを崩したら一気に落ちてしまうんじゃないかと思いめちゃくちゃゆっくり苺を乗せていく。


「真ん中の生クリームが支えみたいなものなのでそこにしっかり付いていれば落ちないので大丈夫です。」


「で、できました。」


「そしたら最後に大きい苺を真ん中に乗せて完成です。」


「、、、乗せました。」


グラスいっぱいまで層を作るところまでは良い感じに出来ていたのだが、そこから上が知村さんが盛り付けたものと比べると自分のはかなり不恰好だった。

俺のはなんだか並びがガチャガチャしているし、少し斜めに傾いている。


「やっぱ難しいですね。」


「まあ、最初はみなさんこうなりますから、気にせずに。だんだんやっていくうちに出来てきます。」


「分かりました。じゃあ、えっと、、もう一回やってみても良いですか?」


「良いですよ。もう一回やったら次はパンケーキの盛り付けしていきましょう。」


「はい、ありがとうございます!」


次は慎重に時間をかけてやったらさっきよりは上手く出来たような気がするが、丁寧さも必要ですが速さも大事と知村さんに言われた。

こういう作業はやはり繊細で難しい。

でもやっていて徐々になんとなくコツを掴めていくのが面白いと思う。

まだまだ上達までに時間はかかると思うが頑張っていこう。



* * *



「お疲れ様でーす!」


休憩をとっていると遅番の真木咲さんが休憩室に元気よく入ってきた。


「真木咲さん、お疲れ様です。」


「えー!どうしたんですかこのパフェとパンケーキ!」


机に2つずつ置いてあるパフェとパンケーキを見て真木咲さんは驚いている。


「これは、その、さっき知村さんから盛り付けを教わりながら作ったやつです。上手くできなかったのは自分で食べて良いそうなのでお昼代わりにしようと思って。」


「これ大和先輩が作ったんですか!」


「この量はちょっと胃もたれしそうだから真木咲さん少しどうですか?」


「え!食べたいです!」


「どうぞどうぞ。」


「いただきまーす!」


真木咲さんはパフェを手に取りスプーンで多めにすくって美味しそうに頬張った。


「うん!美味しいです。」


「ありがとうございます。」


「すごいな〜もう盛り付けも出来るようになったんですね。」


「いやいや全然できてないですよ。」


「私にしてみれば形になってることがすごいんです!何回も練習して上達できたら盛り付けは大和先輩に頼もうってなる日が来るかもしれないですよ!」


そう言って美味しそうにまた大きな二口目を頬張った。


「あ、もしよかったらこっちのパンケーキもどうですか?二つあるので。」


「良いんですか!ありがとうございます。ではいただきます!」


真木咲さんはパンケーキを自分の方へ持っていってやはり大きめに切ってそれも美味しそうに食べてくれた。


「そう言えば真木咲さん今日来るの早いですね。」


今の時間は真木咲さんが出勤する30分くらい前だ。


「あ、大和先輩が休憩中かなと思って少し早くきました!」


「何か俺に用事があったんですか?」


そういうと満足げににっこりと笑って自分の鞄から何か出してきた。


「今日はこれを持ってきたんです!」


「、、、これはハンバーグですか、、、?」


「そうです!」


鞄から取り出されたのはお弁当の袋に入ったタッパーだった。

その中には焦げ茶色の大きな俵型のハンバーグらしき物体が二つ入っている。


「あと、これは大和先輩のメモを見ながら作ったクッキーです!」


今度は小袋に入ったクッキーが鞄から出てきた。


「今まで作ってきた中で一番よくできた気がします。食べてみて下さい!」


ずいっと俺の前に差し出された小袋を受け取る。

確かに前よりも色も薄いし、すごく硬くはなさそうだ。


「、、、じゃあ、いただきます。」


「はい、、、。」


「あ、美味しいです。」


「本当ですか!」


「はい、普通に美味しい。俺もびっくりしてます。」


「うわ〜!よかった!」


食感も変に硬くなくサクサクしてるし、味も変なカレー風味もなく普通にチョコ味だった。


「すごいじゃないですか!真木咲さん!あ、、、なんか偉そうにすみません。」


「いえいえ!私もこんなに美味しくできるとは思わなくて、本当に嬉しいんです。ありがとうございます、大和先輩。」


こちらまで微笑んでしまうような本当に嬉しそうな表情で真木咲さんは笑っていた。

あのアドバイスだけでこんなに普通にできるなら、もしかしたら順序よくやっていけば上達するのかもしれない。


「それで次はこのハンバーグを味見して欲しくて、、。」


「おお、これはこれは。」


タッパーを開けると少し見えていた時よりも全体の色合いが分かって、とにかく、なんというか迫力があった。



ガチャ



「あ、お疲れ様です島木さん!」


「おーお疲れー。」


ハンバーグの見た目について感想を言おうとすると、島木さんが休憩室に入ってきた。

島木さんも今から休憩らしい。


「お、早速盛り付けした失敗作食べてんのか。」


「ちょっと島木さん。失敗作じゃないですよ!美味しいんですから!ねえ大和先輩!」


「まあ材料は同じだから。あはは。」


「あと、、、それハンバーグか?」


島木さんは俺の近くにあるタッパーを覗き込んでいる。


「あ!!」


「あ、えっと、そうです。」


「やべえ色だな。」


真木咲さんは一応料理があまり得意ではないことを隠している。

この場は俺が作ったことにする方が良いのだろうか。


「ちょ、ちょっと焦げ目を入れたくて、、」


「ふーん。お前、実は料理下手だな。」


「ち、違います!」


そう言って声をあげたのは真木咲さんだった。


「え、真木咲さん。」


「びっくりした。なんだ真木咲。」


「これは、、、私が、私が作ったもので、大和先輩は料理が上手なんです!だから今の盛り付けの仕事もこれからもしかしたらやるキッチンのお手伝いもちゃんと大和先輩だったらできますから、どうか仕事を外したりしないでください!」


「いや、そんなことで外さないだろ。」


「え、、、え!」


「もし大和が料理が下手だったとしてもやってれば少しずつ慣れてくる。盛り付けや手伝いくらいなら、やる気があれば学んでそれを生かすことだって徐々に出来てくるだろ。」


「そ、そうですか。」


「てかなんで真木咲が大和に料理持ってきてんだ?」


「それは、、」


真木咲さんはもうごまかしても意味がないと思ったのか一連の経緯を話しだした。




「という感じなんです。」


「なるほど。それで大和に試食してもらってたのか。」


「はい。だから私料理が上手くなりたくて、、。」


「よし。じゃあお前ら二人で、ここの新しいメニュー考えて試作してみないか?」


「「え、新しいメニュー?」」

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