第44話 二人時間
「ねえ、慎くん。」
ん?なんだ?体が重い。
「ねえ、慎くん。起きて。」
なぜか陽心の声が聞こえる。
あれ、俺今どこにいるんだっけ。
微かに聞こえる陽心の声と体の重さに違和感を感じながら目を開けると
「よ、陽心?!」
「あ、慎くん起きた。」
驚くことに、仰向けになっている俺の体の上には白の花柄レースが入った可愛らしい下着姿の陽心が座っていた。
「な、なな、何やってんだよ!お前!」
「どうしたの?そんなに驚いて。」
「そりゃ驚くだろ!なんでそんな格好でっ!!は、早く服きろ!」
上に乗っている陽心は不思議そうな顔をした後にっこりと笑って、手を俺の胸に添えてきた。
「慎くんドキドキしてる。」
「あ、当たり前だろ!」
「かわいい。」
「、、、かわいいのはそっち、、て、お前何して」
陽心は添えていた手を俺の肩に置きどんどん自分の体を倒して俺の体に密着させてきた。
胸元の膨らみが自分の胸元に当たりその柔らかさが直に伝わってくる。
俺にドキドキしていると言っていたが陽心自身の鼓動も早くなっているのが分かる。
「よ、陽心、、近い、、。」
「慎くん、、。」
陽心は頬が熱って目が潤んで、とても妖艶な表情をしていた。
体を密着させたまま俺の頬を両手で覆い、顔を近づけてくる。
「お、おい。陽心、、。」
距離がもうあと5cmほどのところで陽心の吐息が唇に触れた。
「、、、慎くん。」
「、、、陽心。」
あ、もうすぐ唇が触れ
ジリリリリリリリリリリリリ!!!!
「うおああ!!!!」
ゴン!!
「痛っ、、、!!!」
目覚ましの音に驚き勢いよく起き上がろうとして手を滑らせ、頭から床に落ちた。
この状況が現実なのは頭の痛みでよく分かる。
「、、、。」
ジリリリリリリリリリ!!
バイトに行くためにかけておいた目覚ましは、俺のこの虚しさなんてお構いなしに、部屋中に爆音を鳴り響かせていた。
「、、、、、煩悩だ。」
強く打った頭をさすりながら、のそのそと起き上がりうるさく鳴り響く目覚ましを少し乱暴めに止めた。
* * *
「行ってきまーす。」
外はいつものように、いや、いつもより蒸し暑い。
天気は曇りだが、その蒸し暑さのせいで少し歩いただけでもう汗ばんでいる。
「曇りか、、、。」
空を見上げると分厚い雲が空を覆っていてそれがまるで自分の気持ちを表しているかのようだった。
あんな夢を見るのは久しぶりだ。
久しぶりというと前にもあるのかよと思うだろうが、正直何度もある。
でも最近はあまり見ていなかった。
多分、良いも悪いもいろんなことがあったから煩悩が暴れ出したのかもしれない。
それにしてもあの目覚まし、タイミングが悪すぎるだろ。
「はあ、、、、。切り替えよう。」
陽心と圭介と近くのファミレスに行った時、陽心と繋いだ手の感触やその前に思ったあの熱量がありすぎる感情を今でも覚えている。
なんだか最近昔の自分より気持ち悪さが増しているように感じる。
、、、あまり考えすぎないようにした方がいいのかもしれない。
いつも乗るバス停まで行くと、ベンチには、、、俺のよく知る女の子が座っていた。
「あ、、。」
「あ、慎くん。」
女の子は俺に気付き軽く手を振ってきた。
「よ、陽心。おはよう。」
「おはよう。今日もバイト?」
「あ、ああ。バイト。よ、陽心は図書館に行くのか?」
「うん。そうだよ。」
め、
目を合わせられない!!
夢とはいえさっきまで俺の上であんな格好であんな表情で迫ってきた女の子が、今俺の目の前にいてしゃべりかけてくるというなんともいえない恥ずかしさ!!
俺は耐えられるのか。
「どうしたの?座ったら?」
陽心はトントンと自分が座っている横を優しく叩いている。
「お、おう。失礼します。」
「なに、失礼しますって笑」
「いや、なんとなく、、。」
「ヘ〜。今日はなんか蒸し暑いね。」
そう言って陽心は顔の前で手を仰いで見せた。
「そう、だな。確かに。うん。」
なんでもない仕草なのにさっきの名残がまだあって妙に煩悩をくすぐられる。
ああもう俺、気持ちわる。平常心だ、平常心。
「ねえねえ。」
「なんだ?」
「今日はバイト何時まで?」
「今日は4時までだな。」
「そうなんだ。じゃあよかったらその後、この前言ってた新しいレストランに行ってみない?」
「、、、え!」
陽心からの誘いに驚いて勢いよく横を向くと結構な近距離で目があった。
「あ、、、えっと。」
吸い込まれそうな瞳に見つめられ恥ずかしくなって、咄嗟に目をそらしてしまった。
「なんか用事ある?それなら」
「いや!違う!何もない、、から、行こう。、、、行きたい。」
また陽心の方を向き目を合わせそう言うと、陽心はにっこりと笑った。
「そっか!よかった。」
「えっと、、、じゃあ俺バイト終わったら図書館行くから待ってて。」
「え、迎えにきてくれるんだ!」
「ああ、迎えに行ってやろう。」
「あはは!じゃあ待ってるね。」
無邪気な笑顔が眩しくて可愛い。
なんだか俺ばかり煩悩やら歓喜やらで心が乱されてばかりのような気がして、少し悔しい。
「陽心。」
「ん?」
「お前のことが大好きな俺が迎えに行ってやる。」
陽心がどんな反応になったか気になり見てみると、じーっとこちらを見つめている。
「慎くん、、、、顔赤いよ。」
「れ、冷静に言うなよ!、、、まあ、お前は余裕だよな。」
「、、、私は、」
「ん?」
「ううん。迎えに来るの楽しみに待ってるね。」
少し照れながらへらっと笑っている。
結局俺が恥ずかしめを受けただけだったが、陽心の少し照れた表情を見れただけでも良しとしよう。
「慎くん。」
「ん?」
「ありがとう。」
迎えに行くことにありがとうなのか、大好きだということにありがとうなのかは分からないが、その優しすぎる柔らかい笑顔を見てしまったら何も言えずに固まるしかなかった。
「お!バス来た。」
「ほんとだ。」
少しして駅前行きのバスがこちらに向かってくるのが見える。
「よし、今日も頑張ろう!」
陽心は俺の背中を笑顔で優しく叩いた。
「ああ。」
俺もお返しに陽心の頭に手を乗せた。
「、、、の、乗せやすいからってそれはどうかと思いますよ。慎一郎くん。」
「なんだ、キュンとしたのか?」
「イケメンならしてたね。」
「おい。」
「あはは。うそだよ!キュンとした笑」
「ほんとかな〜」
少し間を置いて陽心は自分の頭をさすって小さく呟いた。
「ほんとだよ。」
「、、、そ、そうか。じゃあもっとしてやる。」
「うわあ!!髪が!ね〜!やりすぎ!」
もうこんなの可愛いなんてもんじゃない。
最高に可愛すぎる。
このままずっとこの時間が続けば良いだなんて、ベタな気持ちになってしまうほどこの2人の時間は俺にとって大切なものなんだ。
陽心もそうだと嬉しい。
待っていたバスが到着し、それに二人で乗って駅へ向かった。
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