第39話 アクセサリーを選ぶにはまだ早い
「あ!大和くん、万里くん、こっちこっち!」
俺と圭介はお台場浜辺公園駅で降り、東京ラージサイト近くまで歩いていくと、入り口付近で待ち合わせている下山田とその友達、同じ美術部の杉本加子(すぎもと かこ)がもうすでに到着していた。
今日は8月22日。美術部の面々とデザインフェスタに行く日。
しっかり晴れて日差しが強く少し汗ばむくらいの暑さだ。
「お〜!二人ともお待たせ!」
「ごめん遅くなった。」
「大丈夫!私たち友達の手伝いでちょっと早く来てただけだから。」
「うん。大丈夫。」
これで行くメンバーは揃ったので、じゃあ行こうかと下山田が言って杉本と先頭で歩き出した。
その後を俺と圭介が付いていく。
圭介はワクワクしているのが分かるくらい楽しそうに歩いている。
その時俺は昨日のことを思い出していた。
* * *
「最近、、、水野くんが英語教えてくれてて。」
「、、、え?」
「でも二人でとかじゃないよ!友達とかもいて、、、、あ、そういうことじゃないのか。」
「いや、それは。」
陽心は不安そうな顔で俺を見ている。
「慎くん、、やっぱり嫌かな?そしたら私、」
「水野先輩、教えるの上手いんだろ?」
「え、うん。上手いよ。分かりやすいし。」
「じゃあ、、教えてもらった方がいい。陽心、英語やばいもんな笑」
「うん。なかなかやばい。」
「じゃあいっぱい教えてもらえよ。今勉強しとかないと後々困るぞ。」
「慎くん。」
うん。いい感じだ。
「俺のこと一番に考えてるから他の男の事なんて考えられないんだろ?」
俺は日曜日に陽心に言われたことを思い出しそれを陽心に言った。
「え、うん。そうだよ。今一番慎くんのこと考えてる。」
「うん。それを言われて俺はすごく嬉しかったんだ。そりゃまあ、今の話聞いて少しモヤったりはしたけど、でも、陽心の勉強の邪魔はしたくない。だからお前も余計なこと考えないでしっかり英語教えてもらえ。」
そう言って俺は陽心の髪をグシャグシャしながら頭を撫でた。
「うおあ!ちょっと!」
ぐしゃぐしゃだよと言って陽心は自分の髪を整えている。
「勉強応援してる。英語いい点取ったら教えろよ。」
「うん。分かった。、、、ねえ慎くん。」
陽心は小声で何かを言おうとしていたので俺は陽心の方に少し屈んだ。
すると陽心は勢いよく俺の頭を撫でて髪をぐしゃぐしゃにしてきた。
「お、おい!、、、くそ、やられた。」
「ありがとう慎くん。勉強頑張るね!」
柔らかくはにかんでいる陽心を見て俺はほっとした。
正直水野と勉強していると聞いた時、混乱したし驚いた。
嫌な気持ちは変わってないし、嫉妬だってしてる。
水野なんかに教わるくらいなら俺が教えてやりたいとさえ思うし、だいたいなんでそんなことになったんだよ。どうせ水野がそう言ったんだろうけど。
勉強を教えるとかいう口実だっていうのが見え見えなんだよ。くそ。
あいつのことだからなんか二人っきりになろうと色々考えて何かやらかすんじゃないかとか、陽心もしっかり警戒しろとか、
そういう風に思うのは変わっていない。
でも陽心の勉強の邪魔をしたくないというのが一番なんだ。
それに俺は陽心に好きになってもらえる様なかっこいいやつになりたい、そう思った。
成長したいっていう気持ちが今の俺の気持ちを落ち着かせている。
だから今回はちゃんと自分の気持ちを自制できて安心した。
嫌な嫉妬を隠しきれて、陽心を困らせずに済んで本当によかった。
陽心には笑顔でいて欲しいし、頑張って欲しいと思うから。
でも俺よりも夏休みに陽心と過ごす時間が長いのか?それはちょっと、あれだよな。なんか腹立つな。
俺もなんか口実つけて会いに行ったり
「おーい!慎!何やってんだよ。先行くぞー。」
少し前にいる圭介に声を掛けられる。
俺が色々考えているときに圭介たちは少し進んでしまっていたみたいだ。
「あ、ごめん。今行くわ!」
* * *
一通り周り終えたところで各々気になったところへ向かう。
俺は水彩画を出展してあるエリアが気になったのでそこに寄ってみた。
そこには人物や食べ物、キャラクターなどの絵がたくさん並んであり、一際目を引いたのが風景の絵だった。
実際にある風景がほとんどで、自分も見たことがある景色の絵も結構あった。
電車の駅のホーム、夏の海と入道雲が浮かぶ空、夕暮れ時の住宅街の道。
どんな絵でも写真のようにリアルで綺麗に描かれている。
多分実物を見るよりこちらの方が惹かれるものがあるように感じるくらい素敵な絵だった。
何枚か束でポストカードが売られていた。
誰に手紙を送るわけでもないから、これは多分使わないだろうけど家に飾っておきたいと思ったのでいくつか買っていった。
自分のお目当てのものは買い終わったのでうろうろしていると雑貨、アクセサリーエリアに行き着いた。
髪飾りやピアス、イヤリング、ブレスレット、指輪などキラキラしたものが目に入る。
そのエリアは女性が多く、興味津々でアクセサリーを見て選んでいる。
何気なくそのアクセサリーを見てふと思ったことがあるが、その発想は流石に彼氏ではない俺からするのはなかなかにきついものがある様な気がするので、胸にしまっておいた。
「お、大和くんじゃん。」
「ああ、下山田。ここにいたのか。」
アクセサリーエリアをうろうろしていると下山田が出展する側の方に座っていてそこから声をかけてきた。
「うん。ちょっと今手伝ってて。」
隣には下山田の友達が座っていた。
こんにちはと挨拶をしてお辞儀をしてきたのでそれに俺も返す。
「はるちゃんと一緒に来てるお友達ですか?」
「はい。そうですけど。」
「あ、じゃあ少しの間はるちゃんのこと手伝ってもらえないですか?」
「下山田を?」
「え、良いよ!私一人で十分だから!」
「でもお友達いた方が安心でしょ?すみません、私今から少しの間席外すので、はるちゃんと一緒にここ見ててもらえませんか?」
「あ、まあ、良いですよ。」
「ありがとうございます!少ししたら戻ってくるのでお願いします。じゃあはるちゃん行ってくるね!」
そう言って出展していた下山田の友達はどこかに行ってしまった。
「じゃあ、失礼します。」
俺はアクセサリーを売る側へとまわり、下山田の隣の椅子に座った。
下山田の方を見ると何も言わず黙って並んであるアクセサリーを見つめている。
下山田と二人になるのは服を選んでくれた時以来だ。
あの時気にしないでといつも通り振舞ってくれたがやはり二人になるのは少し気まずいのだろうか。
「あー、下山田、あのさ、やっぱ俺違うとこ行ってた方がいいか?」
「え?別に、良いよ。それより手伝ってもらっちゃってごめんね。」
「ああ、それは全然良いんだけど。」
少し気まずいのかとも思ったがそうでもないのか。表情だけではどっちなのかが分からない。
「何?もしかして二人になるの気まずかった?」
「あ、いや、俺は全然大丈夫なんだけど、下山田が気にするかなと思って。嫌だったら俺どっか行くわ。」
「ちょっと、私がまだ大和くんのこと引きずってるみたいな言い方するのやめてよ。もう気にしてないから。は〜〜。」
「そ、そっか。ならよかった。」
「女の子はね、切り替えが早いの。いつまでも振った人のことウジウジ考えてるほど暇じゃないんだから。大和くんじゃあるまいし。」
「いや、俺は、、そうだけど。」
そうか、変に気まずく感じていたのは俺の方だったのかもしれない。
下山田はちゃんと切り替えている。女の子は強いって聞くけれど本当に強いんだな。
「それで、デートはうまくいったの?」
「え、それはまあ、うん。あ、」
「ん?何?」
「服が、すごく好評だった。素敵だって言われたよ。」
「ふーん。まあ私が選んだからね。当たり前でしょ。」
「おう、下山田のおかげだ。ありがとう。」
「、、、。もう私は選ばないからね!これからだっさい服でデートに行って幻滅されない様にしなよ!」
「うっ、、、それは気をつけるよ。」
そんな話をしていると、何人かお客さんが来てアクセサリーを見ている。
一人のお客さんが気に入ったアクセサリーを手に取り下山田に渡した。
下山田は袋に包装しているので、俺はお客さんからお金を受け取りお釣りを渡す。
お客さんはありがとうございますと言って嬉しそうに去っていった。
「このアクセサリー、下山田の友達が全部作ったのか?」
「うん。そうだよ。趣味で色々作ってるみたい。」
「へ〜、すごいなあ。こんなの作れるんだな。」
「すごいよね。、、、大和くんこういうの見てお姉さんにあげたいなとか思ってるでしょ。」
「お、思ってないと言えば嘘になるけど、、、まあそれは、、、また後で考える。」
「何それ。あげたいならあげればいいのに。」
「アクセサリーって好みもあるだろうし、いろいろさ、なんか難しいじゃん。」
「まあそうか。重いって感じる人もいるからねえ。特に気持ち悪い大和くんからもらったらお姉さんもちょっと引いちゃうかもね。」
「おい、気持ち悪いとかいうなよ。」
「ちなみにこの中だったら大和くんはどれがいいと思う?お姉さんに似合うとかなしでね。大和くんの好みで。」
「ん〜〜。好みかー。、、これかな。」
俺はゴールドの花飾りとターコイズがついたブレスレットを指した。
「ヘ〜。これかあ。」
「綺麗だし、可愛いと思う。この中でだったらこれが好きだな。」
「そうなんだ。でもお姉さんにだったら違うの選ぶの?」
「んー。まあそうかもなあ。でも陽心にって思うと何を選んでいいのか分からない。」
「そっか。」
「すみません、これください。」
アクセサリーを選んだお客さんに声をかけられる。
「あ、はい!800円になります。、、あれ袋がない。」
「こっちに予備がある。ほらこれ。あとマスキングテープ。」
「あ、うん。ありがとう。」
下山田は予備で置いてあった袋にアクセサリーを入れ、マスキングテープをしてお客さんに渡した。
「ありがとうございました!、、大和くん手際いいね、助かったよ。」
「まあ俺、アルバイトやってるんで。」
「得意げに言ってるのがなんかうざいなあ。へえバイト始めたんだ!」
「おう。駅前の喫茶店でさ。だからほらこんな風にお札だって数えられる。」
近くにあったお札でそれを披露する。
「へ、へー。すごいねー。、、、もしかしてそれってお姉さんにかっこいいところ見せるためとか?」
「うおわ!お札が!」
下山田に言われたことに動揺し手元が乱れてお札が床に落ちてしまう。
「ちょっと〜何やってんの。動揺しすぎだから。ほら。」
下山田にもお札を拾ってもらいそれを受け取ってお札ケースへとしっかりしまった。
「動機が分かりやすいというかなんと言うか。つくづく気持ち悪いよね。大和くん。」
「気持ち悪くたって仕事はちゃんとしてる。そこで色々学んでできることも増えてきて結構達成感もあるんだ。」
「、、、それはよかったね。じゃあお姉さんとでも覗きに行ってみようかな。」
「ああ。すごい接客を見せてやるよ。」
「すごい接客ってなに笑」
「すごい接客はすごい接客だよ。」
30分くらいお客さんの対応をしたり、下山田と話していると、下山田の友達が戻ってきた。
「はるちゃんとその友達さん!ありがとうね〜!」
「いえ、大丈夫ですよ。」
俺は椅子から立ち上がり、出展する側から見る側へと戻る。
「下山田はどうするんだ?」
「私はもう少しだけ手伝って行こうかな。大和くんありがとね。」
「おう、そうか。じゃあまたな。」
下山田はもう少し手伝っていくみたいで、俺はまた一人いろんなエリアをうろうろ散策することにした。
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