第38話 君のすごいところ
「今日はクッキーの感想とアドバイスいただき本当にありがとうございました。」
「いえいえ、大したことは言えていないので参考になるか分かりませんが応援してます。」
真木咲さんと俺はいつもの6番のバス停に向かうためバスロータリーへの階段を降りている。
「ぜひ参考にさせていただきます!あんなに分かりやすく作り方も書き出せたし、大和先輩って料理得意なんですか?」
「いや、得意ではないけど作れなくはないくらいですかね。簡単なものくらいですけどね。」
「え、すごいですね!私もそんな風に言ってみたい。羨ましいな〜。」
「やってればそのうち出来ますよ。、、、あ!」
バスロータリーに着き、6番のバス停の方へ向かうと並んでいる列の一番後ろにあの子の姿があった。
こんなところで会えるのが嬉しくて気づいた時に思わず声が出てしまった。
「陽心。お疲れ。」
「あ!慎くん。今帰り?お疲れ様。」
陽心は俺に気づくと優しく笑ってお疲れ様と言ってくれた。
「ああ。今帰り。陽心も勉強の帰りか?」
「うん。そうだよ。、、、あ、昨日の。」
陽心は俺の隣に目をやり真木咲さんを見てそう呟いた。
昨日のとは何のことだろうか。
「あ、こんばんは!えっと私、大和先輩と同じバイト先の真木咲実里と言います。」
「やっぱりバイト先の子だったんだ。あ、えっと私は友達の万里陽心です。後輩?の方ですか?」
「いえ!私は一応バイトでは先輩なんですけど、学校では年下なので先輩と呼ばせてもらってます!」
「ヘ〜!同じ学校なんですね。じゃあ私とも一緒の学校ですね!」
「そうなんですね!じゃあ万里先輩って呼んで良いですか?」
「良いですよ!じゃあ私は実里ちゃんて呼んでも良いかな?」
「はい!ぜひ呼んでください!」
陽心と真木咲さんはお互い自己紹介をして、何だか二人で楽しそうに話している。
真木咲さんが少し羨ましい。
そうこうしているうちにバスが来て、三人で空いている後ろの方に行き、陽心が窓際で次に真木咲さん、そして俺の順番で座席に座った。
「実里ちゃん、慎くんはバイト良い感じにやってる?」
「お、おい陽心。変なこと聞くなよ。」
陽心は心配で聞いたのではなくこれは面白がって聞いているのだろう。
すべてが顔に出ている。
「それはもう良い感じにやってますよ!まだ3日目ですけどだんだんと慣れてきているのが見えるのですごいなと思ってます。」
先輩から慣れてきていると言われるのは、学んだことの成果が出ていると実感できるから結構嬉しいものだ。自然と頬が緩んでくる。
「慎くん誇らしそうな顔してる。実里ちゃんに褒められて嬉しいんだね笑」
「そりゃあ先輩に褒められたら嬉しくなるだろ。ほら俺良くやってるだろ?陽心。」
「うん。やっぱり慎くんはすごいね。」
そんな風に素直に褒められると少し恥ずかしいがやはり、嬉しい。
「大和先輩と万里先輩って仲良いですね。」
「まあ、家近くて昔からの仲だからね。」
「そうなんですか!幼なじみってことですよね?」
「うん。そうだね。」
「ヘ〜!じゃあ万里先輩は大和先輩の料理食べたことあるんですか?」
真木咲さんは興味津々に陽心に俺の料理について聞いている。
「うん。あるよ!慎くんスマホでレシピ検索してさっさと作っちゃってさほんとすごいんだよ。出来上がりもちゃんとしててね、めっちゃ美味しいんだ!」
昔はよく休日の昼とか学校帰りとかに陽心に作っていた記憶がある。
美味しいと言ってくれるのが嬉しくてあの時は結構レシピサイトを漁っていた。
最近だとまだ陽心と仲直りしていないあの土曜日に、陽心と圭介と俺の分の夕飯を作った。
仲直りはしていなかったが、その時も微笑んで美味しいと呟いていた。
キラキラした笑顔で今も美味しいと言ってくれている。
これはまたレシピを漁る機会が増えるかもしれないな。
「えー!すごい!やっぱり大和先輩って料理上手なんですね!だからあのアドバイスも丁寧で分かりやすかったんだ!」
真木咲さんは俺の方を向いてあの時のことを言ってきた。
「いや、あれは全然。ただレシピ見て違うとことかを見つけただけだから。」
「あのアドバイス?」
「はい!私料理がとても下手で、でもどうしてもうまくなりたくて、今大和先輩に試食をお願いしてるんです。それでこの前私が作ったクッキーを食べてもらって、その感想とアドバイスを頂いてそれがすごく分かりやすかったんです!」
「ヘ〜そうだったんだ!その後作ったクッキーはどうだったの?」
「あ、今日アドバイス頂けてこれから作るんです!まだどうなるか分かりませんが、美味しい料理を作れる大和先輩が私の作ったものを美味しいって言ってくれたらそれはもう合格ですね!」
真木咲さんはキラキラした笑顔で俺にそう言ってきた。
「え、あー、そうなるかもしれないですね。」
俺が判断して良いものかとも思うが今はそういうことにしておこう。
「そうなんだ!じゃあ、楽しみだね、慎くん。」
「まあ、前よりおいしくはあって欲しいな。」
「今度は絶対美味しく作ります!」
「じゃあ、お願いします。」
そんな話をしているうちに真木咲さんが降りるバス停に着き、真木咲さんは俺たちに手を振って元気にバスを降りていった。
真木咲さんが降り、俺と陽心の間に少しの空間ができていたので俺はそこを詰めようとすると、先に陽心が詰めてきた。
いきなりグッと距離が近くなったので少し鼓動が速くなる。
「分かってはいたけど、慎くんが仕事も人間関係もうまくいってるのが改めてわかって、ほんとによかった。信頼もされてるみたいだし私もすごく嬉しいよ。」
「何母親みたいなこと言ってんだよ。」
「母親みたいなことも言いたくなるよ。ずっと慎くんのこと見てきたから、私が思ったすごいところを誰かもすごいって思ってくれたり分かってくれたのが嬉しかった。」
「そ、そういうものなんだ。」
「うん。嬉しいよ。」
陽心は俺の方は見ずに微笑んでそう言った。
何だか今日は陽心に褒められすぎていて気恥ずかしくなる。
あまりこの話題ばかりを話すと俺の顔がニヤけまくりそうなので話題を変えた。
「よ、陽心も図書館でこんな時間まで勉強してすごいな。」
「まあ、一応受験生だからね笑」
「それだってすごいことだろ。苦手な英語だって頑張ってやってんだろ?」
「うん!頑張ってる。最近ね、水、、、あ。」
「最近?どうしたんだ?」
「あ、えっと、、、最近ね。」
「うん。」
「いつも友達と勉強しててね、それで最近、、、」
「何だよ?」
「あ、えっと、、、隠してもなんかおかしいような気がするから言うけど。」
「おう。」
「最近、水野くんが英語教えてくれてて。」
「、、、え?」
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