第30話 新人と先輩


「おはようございます。」


「お〜!おはよう!慎ちゃん!今日はよろしくね!」


俺が今日から働くここは『コージーテイスティ』という喫茶店。

今は開店15分前で店長の明希おばさんはテーブルを拭いて開店の準備をしていた。


「、、よろしくお願いします。」


「やだ、慎ちゃん緊張してるの〜?」


「そりゃしてますよ。初めてのバイトだし、しかも仕組みもまだよく分かってないし。」


「大丈夫よ〜。最初は研修期間で少しずつやってもらう感じだし、先輩も優しいから安心して!いっぱい頼りなさい!」


「は、はい。」


おばさんは元気にグーサインを俺に向けている。

まあ緊張もいずれ慣れてくるだろう。

仕事もしっかり先輩に聞いたり、見たりしながら少しずつ覚えていこう。


「あの、おはようございます。」


おばさんと話をしていると後ろから同い年くらいの黒縁眼鏡をかけた男子が店に入ってきた。


「あ!おはよ〜!君は田淵くんだね。」


「はい。田淵尚之(たぶち なおゆき)です。今日はよろしくお願いします。」


「は〜い。よろしくね!」


今の会話を聞いているとこの人も俺と同じく今日からここで働く新人のバイトらしい。


「よろしくお願いします。新人の大和です。」


「あ、こちらこそよろしくお願いします。同じく新人の田淵です。」


田淵くんはあまり緊張していないような雰囲気をしている。経験者なのだろうか。


「新人くんたちは揃ったね!よし、じゃあ、まきちゃーん!ちょっと来てくれる〜?」


「は〜い!」


元気な声と同時に出てきたのはまたもや同い年くらいのショートカットの女の子だった。


「え〜店長二人とも男子ですか〜。なんだ〜女の子がいいなあと思ってたのに。」


「もう!まきちゃんそういうこと言わないの!ほら挨拶。」


「す、すみません、、えっと、私は真木咲 実里(まきざき みさと)です!よろしくお願いします!」


「新人の大和慎一郎です。よろしくお願いします。」


「同じく新人の田淵尚之です。よろしくお願いします。」


「よし、じゃあまきちゃんとの挨拶も終わったところで説明するね!二人はまず最初の基本的なことをこの可愛い先輩、まきちゃんに教えてもらってね。まきちゃんは可愛いピチピチの高校一年生だから二人の一つ年下でまだここに来て4ヶ月ちょっとだけど頼もしい先輩です!何か分からないことがあったら私かまきちゃん、あと今日はシフトないから来てないけどもう1人の先輩になんでも聞いてください。分かりましたか?」


「「はい。」」


「はい!じゃあまきちゃん、最初のいろんな作業とか教えてあげて!」


「分かりました!じゃあ二人ともこっちに来てください!」


俺と田淵くんは真木咲さんの後についていき奥の従業員専用エリアに入った。



* * *



「これを二人に渡します!」


「ありがとうございます。」


渡されたのは白いワイシャツと暗いえんじ色のネクタイリボン、それから黒いズボンとネクタイリボンの結び方が書いてある用紙だった。


「これはここの制服です。まずここで着替えちゃってください!そのあと次の作業の説明しますから。」


そう言って真木咲さんは部屋から出て行った。


「これが喫茶店の制服かあ。」


制服は学校のしか着たことがなかったので、こういう喫茶店の制服はなんかおしゃれな感じがしてテンションが上がる。


早速田淵くんは着替え始めている。


「あの、田淵くんはここ以外でバイトしたことあるの?」


「え、いやないけど。何で?」


「なんかすごい冷静だし、こういうの慣れてる感じがしたから。」


「そうかな?まあここには何回か来たことあるし馴染みがあるというか。いつも通りでいればなんとかなるよ多分。」


「そ、そうか。」


なんだか同じ新人に背中を押されてしまって不思議な感じだ。

俺も馴染みはありまくりなんだけどな。

本当に初めてなのか?この人。


「じゃあ着替え終わったから先出てるね。」


「え、はや!、、、俺も早くしないと。」



* * *



「すいません!俺も着替え終わりました!」


「、、、、。」


急いで着替えて部屋から出ると真木咲さんが俺の襟元ら辺を目を細めてジロジロ見ている。


「あ、あのなんかおかしなところでも、、、。」


「そこがおかしい。」


真木咲さんは俺の方に近づいて俺のネクタイリボンをほどいてきた。


「ネクタイリボンはもっと丁寧に締めないと。片方だけ長かったり短かったりしたら見栄えが悪くなっちゃいますから。」


「す、すみません。」


真木咲さんは注意をしながらも優しく俺のネクタイリボンを丁寧に結び直してくれた。

こうやってやり直してもらうのはなんだか気恥ずかしい。


「よしできた!」


「ありがとうございます。おお!すごい、さっきと全然違う。」


「そうでしょう?」


真木咲さんは自分の腰に手をやって得意気な顔をしている。


「こんな感じで今度はちゃんと丁寧に結んでくださいね!着替え、急がなくて大丈夫ですから!」


「はい。」


「じゃあ今日は、、まずレジのやり方を学んでもらって、料理を運ぶのも練習してもらいます!」


「「よろしくお願いします。」」



初日の出だしは少し微妙だったがなんとか慣れていきたい。

そしてあとでネクタイリボンの結び方もしっかり勉強しないと。

まずは身だしなみをちゃんとしないと元も子もないもんな。


今日のレジと料理運び、ちゃんと覚えて早く良い感じになっていきたい。


俺のためにも、陽心に見てもらうためにも。

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