第29話 夏休みの抱負


「んーーよく寝たな。、、、12時か。」


目が覚めてスマホ画面の時計を見ると、午後12時になっていた。

時間を気にすることなくいつもよりも何時間か多く寝れてゆっくりダラダラと過ごすことができる、こんな朝はとてもいい気分だ。

それに、、、


時間を確認するために開いたスマホをスワイプしてホーム画面に移り、左上の写真フォルダをタップする。


見ようとしていたあの写真がスマホ画面いっぱいに映し出される。


それは桃のパフェとロールケーキに見惚れて抜け切った表情になっている可愛いあの子の写真だ。


『私は今一番、慎くんのことを考えてるよ。』


『私はやっぱり慎くんといると楽しいんだ!』


『うん。また一緒に出かけよう。』


あの時の光景がまた頭の中に浮かび上がる。


「はあ、、、本当に夢のような一日だった。」


夏休み三日目。


俺は未だに日曜の出来事を一日に何回かは思い出して浸りまくっていた。


これはしょうがないことなんだ。

あの日曜日が幸せすぎたから。


その写真を見ていると目と頭が冴えて、何だかいろいろ行動したくなる。


「よし、起きるか。」


いつもよりもすっきりした気分でベッドから起き上がる。


自分の部屋から一階に降りてリビングに行く。

いつも慌ただしく出勤の準備をしている姉も、余裕を持って活動的に動いている母親も、母が作った朝食を美味しそうに食べている父親も今日は仕事でここにはいない。


「やっぱ一人だと改めて夏休みって感じすんなー。」


冷蔵庫を開けご飯と卵を取り出し、ご飯をレンジに入れてあたためスタート。

母が弁当のために作ったおかずのあまりもあったのでそれは今日の俺の昼食にする。


牛乳を取り出しコップいっぱいに注いで一気に飲み干し、またコップいっぱいに注ぐ。

あとはご飯が温まるのを待つだけ。


少しするとレンジから、温めが終わったことを知らせる音楽が流れてきた。

レンジからご飯を取り出し、おかずたちを並べておいたテーブルに持っていく。


「いただきまーす。」


湯気が出ている熱々のご飯の上に、卵を割り入れる。

そして醤油を一回りかけて味の素も少々かけたら、普通の卵かけご飯の完成だ。

それを一気に混ぜて口の中に放り込む。

うん。普通に美味い。


テレビをつけるといつもは見ない平日お昼頃にやっているバラエティ番組が映る。

それを見ると本当に休みなんだと実感させられていい気分だ。

するとそのバラエティ番組で日曜に行った水族館が特集されていた。

そこには


「今年の夏おすすめするデートスポット、、、か。フッ。」


そんな優越感に浸ってまた陽心のことを考える。


陽心と俺はあの日の帰りにまた二人で出かける約束をした。


次に二人で出かけるのは夏休み最終日近くの花火大会。

圭介たちも含めてだったら何回も行ったことはあるが、今回は二人。


よくここまで漕ぎ付けられたものだ。

ちょっとぐいぐい行きすぎた気もするが、

本当に誘ってよかった。


「あー早く陽心と花火大会行きてー。」


花火大会以外は久々の合同家族旅行や何かの機会に会うことがあるだろう。

何せ家がもうそこだからな。

、、、どんな日でも会いに行けたら会いに行きたいし。


夏休みでもたまに部活で学校に行く日もある。

陽心も部活で行く日があると言っていたのでもしかしたらそこで会う可能性だってなくはない。


本当に今年の夏休みは夢と希望に溢れている。


楽しい日もあり、こうやって自由に気楽に一人を満喫できる日もある。


夏休みさいっこう!!



プルルルルル プルルルルル



そんなふうに思っていると家の電話が鳴り出した。


「はい。大和です。」


《あ!出た〜!慎ちゃん?久しぶり〜》


「明希おばさん?」


電話をかけてきたのは母の妹、明希おばさんだった。

明るく柔らかい口調の話し声が受話器から聞こえてくる。


「お久しぶりです。どうしたんですか?母は今仕事ですけど。」


《向葵ちゃんはいいの!今日は慎ちゃんに用があって電話したんだ〜家いるかなあと思って。》


「俺に?なんですか?」


《慎ちゃん今夏休み中でしょ〜?それでなんだけどー、、、うちでバイトやらない?》


「バイト、、、ですか。」


《うちで働いてくれてた子がもうすぐ辞めちゃうんだけど、それだと元々人少ないのもあってちょっと人手不足というか。だから慎くんに夏休みの間だけでも手伝ってもらえないかなあと思ってさ〜〜。あ、ちゃんとバイト代は出すから!》


おばさんは駅前の商店街に自分の店を持っている。

そこは喫茶店になっていて、店は小さく、メニューも多くはないのだが、出されるものは中々に美味しく、店自体も居心地の良い雰囲気なのでそこそこ評判が良いらしい。


バイトか、、。

金欠になることはたまにあるがあまり困らないし、部活もあるしで今までバイトをしようと思ったことはなかった。

まあ興味はあるけど。


「俺全然経験ないですよ?」


《みんな最初はそんなもんよ〜!やってれば自然と慣れてくるから!》


「そういうものなんですか、、、。」


《あ!慎ちゃん彼女とかいたりする?それか好きな子。》


「、、、、、、、、、、いないですけど。」


《じゃあその好きな子と出かけるときとかプレゼント買いたい時にお金は便利よ〜!お金があればその子といろんな場所に行けたりやりたいことだってできちゃうんだから!》


「、、、、。」


いや、何でいないって言ったのに、いること確定してるんだ?

まあいるから間違ってはないんだけど。


《それに料理とか作ってもらう機会もあると思うから、その子をお店に呼んで自分の作った料理を振る舞うこともできるし、かっこいい所も見せちゃうことだって出来るわよ〜!》


「、、、、なるほど。」


確かに、、、それは良いかもしれない。


陽心と一緒にいる時間だって作れるし、働いて俺の成長した姿を見せることもできる。

、、、そしたら陽心は俺のこと、もっと見てくれるかもしれない。


《ね!どう?お願いできないかな〜??》


「俺、やります。」


《え!本当〜?やった〜!ありがとう!》


「いえいえ、こちらこそですよ。ははは。」


《じゃあ早速なんだけど明日から来てもらっても良いかな??》


「はい、大丈夫です。」


《お〜〜!!さっすが向葵ちゃんの息子!迷いがないねえ。じゃ、明日の10時にお店に来てね〜。よろしく〜!》


「分かりました。よろしくお願いします。」



夏休み初の試みとして明日から俺は、明希おばさんがやっている喫茶店のバイトとして働くことになった。


それが今後どうなるのかまだ分からないが、少し楽しみだ。


初めて働くということを経験することも、自分の稼いだお金を何に使うかということも、

陽心に良いところを見せられる絶好のチャンスがやってきたということも。


この夏休み、自分自身も陽心のことも一歩、いや、何歩でも踏み出せるところまで踏み出したい。


「よし、頑張るか。」


俺は食べるのが途中になっていた卵かけご飯を勢いよく口にかきこんだ。

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