第28話 最高な日曜日②
「慎くん見てこれ!下すごいクラゲいるよ!きれ〜〜。」
今俺たちは昼食を済ませ水族館に来ている。
俺の目の前でクラゲを見てはしゃいでいる陽心は今この空間にいる時だけは俺の彼女だ。
何気持ち悪いことを言ってんだよと誰かが言うかもしれないが、しょうがないだろう。
だってここはカップルの聖地と言っても良いくらい定番中の定番スポット、水族館なのだから。
、、、と自分の心の中では思っても良いよな。
「うわ〜ふわふわしてて可愛い。こんなに小さいクラゲもいるんだねえ。」
「うん、可愛いな。あ、おい陽心、あのペンギンお前にそっくりだな。」
「え?そう?」
「ほらジャンプしたりうろちょろしたり。あ、あー、そんなに動くから転ぶんだよ。ほら、がんばれ陽心。」
「んーーーなんか複雑な気持ちだなあ。可愛いじゃんあの子!」
「だからお前に似てるんだって。」
「え。」
「え?、、、あ、いや、その、、可愛いんだって、、、お前とあのペンギン、、」
「慎くんが照れないでよ!笑 じゃああっちのお腹上向けて寝てるペンギンは慎くんだね笑」
「おい、あんな腹出てねえぞ。」
普通に会話のように可愛いと言っていた自分に驚いた。さすが水族館マジック。
こうやってカップルは仲を深めていくのか、、、。
「あ、そろそろイルカショー始まるみたいだよ。」
「行ってみるか。」
室内の大水槽、アクアリウム、ペンギン、クラゲエリアから外のイルカエリアへと二人で向かう。
「イルカショーなんだけどなんか光とのコラボって書いてあって幻想的な雰囲気を味わえるみたいだよ。楽しみだね。」
「そうだな。じゃあ後ろの方行くか。」
「せっかくだから前行こうよ!」
「え、陽心、前の方は怖がってなかったか?」
「もーそれは昔の話だよ!今は全然怖くない。ほら行こ!」
「そ、そうか。」
陽心に手をひかれにショーがよく見える前から5段目あたりのところに一緒に座る。
別の水族館だが小学生の頃に親も連れて陽心たちと行った時があり、その時は圭介と俺の姉が1段目で見たいと騒いでいた。
でも陽心が怖がっていたので俺は陽心と一緒に後ろの席に座ってショーを見ていた。
あの時と今はもう違うのか。
「そう言えばあの時私が怖がって慎くん一緒に後ろの方で見てくれたよね。」
「そうだな。今はもう大丈夫なんだな。」
「うん、あの時はこれがどういうものなのかとか何が飛んでくるのかとかも分からなくて、怖さの方が大きかったけど今はこれが何なのかもわかるしイルカの可愛さだって分かるから前で楽しみたいんだ!それに慎くんも前で見た方がいいでしょ?」
「俺は別にどっちでもいいよ。、、、陽心が楽しければ。」
「、、、そっか。昔も今もありがとね。」
「、、、。」
少ししてからイルカショーが始まる。
音楽に合わせて水と光が交差したり重なったりしながら、イルカもそれに合わせて早く泳いだりゆっくり泳いだり、ジャンプをしたり、様々なショーを見せてくれた。
隣を見ると陽心はキラキラした眼差しでそのショーを見ていた。
楽しそうに手を叩いて、笑って、昔とは全く別の反応だった。
「わ!」
隣の陽心を見ているといきなり前から水しぶきがかかってきた。
「うわっ」
最後のイルカの高いジャンプで結構な水が俺たちのところまで飛んできたみたいだ。
「あはは!すごい飛んできたー!二人して濡れちゃったね笑」
陽心はあははと楽しそうに笑って俺の方を見た。
髪と睫毛に少しの滴が付いていて笑うたびにキラキラと滴が跳ねて弾かれる。
それがイルカショーよりも幻想的だと思うくらい綺麗だと感じる俺はもうどうにかなってしまっているのだろうか。
これが今の陽心なのか。
もっと、、、今の陽心を見てみたい。
俺はそう静かに心の中で思って陽心の笑顔を見ていた。
* * *
「は〜〜楽しかった〜。」
水族館を出てまた俺たちはショッピングモールの方へと戻ってきた。
「あと陽心は他に寄りたいところあるか?」
「んーあとは雑貨とか見れたらいいかな。慎くんは?」
「あー俺は、、、」
周りを見渡すと服屋、靴屋、鞄屋などが並んでいる。
その端の方に画材屋があるのを見つけた。
「えっと、、、あそこ寄っていいか?」
「ああ!あそこね。いいよ!行こう。」
俺たちは端の方にある画材屋に入る。
「慎くん今は何描いてるの?」
「あー今は油絵で風景とか描いてる。まあ展示会近くじゃないからそこまで真剣に描いてはないんだけど。」
「ヘ〜!油絵かぁ。ねぇねぇ、写真とかないの?」
「、、、ない。」
「その間は写真あるね。見せてよ。」
「、、、、まだ完成してないし。」
「いいよいいよ。見たい!」
「、、、、、、分かった。」
見せたくなかったから、ないと言ったわけじゃない。
見せたかったけど自分から見せるのは何だか昔と何も変わってないような気がして恥ずかしかったから、陽心から見たいと言われるまでは勿体ぶりたいと思ったのだ。
なかなかにめんどくさい性格をしていると我ながら思う。
前にスマホで撮っていた油絵を見せると陽心は目を見開いて驚いていた。
「うわー!すごい!これ途中なの?もう完成してるみたいに見えるけど。」
こうやって陽心が自分の絵を見て感動した表情になるのはいつ見ても嬉しく、誇らしい。
「まだ途中だろこれは。」
「ヘ〜〜〜。昔は油絵苦手だったのに、こんなに上手くなるなんて本当にすごいね慎くんは。」
「、、、、まあずっと描いてますから。」
「高一の時よりも上手くなってるんじゃない?」
「それは褒めすぎだって、、、、ん?高一?」
「うん。」
「高一の時俺の絵見せてないよな?」
あの時の俺たちは暗黒時代だったから絵なんて見せてなかったはずだ。
なのにどうして。
「え、だって展示会に出された絵は学校で飾られるじゃん。それで見てたよ?」
「え、そ、そうだったのか。」
予想外の返しだった。
あの時はもう陽心は俺の絵なんて見ていないものだと思っていたから、これは本当に嬉しいとしか言いようがない。
「学校に飾ってある慎くんの絵を見てすぐにでもすごいとか上手いとか思ったこと伝えたかったけど、あの時はできなかったから今の慎くんの絵、よかったらいっぱい見せて欲しいんだ。」
優しく微笑む陽心の顔を見て胸が熱くなる。
陽心に見せたい、褒められたい、という気持ちが残っていてそれに争うために今まで絵を描き続けてきた。
描き続けてきたおかげで自分の絵は昔より人に褒められることが多くなった。
絵を描くのは楽しかったが自分が描いている絵の行き場所、向かう場所がどこなのか分らなくて虚無感に陥ることがよくあった。
でも今の陽心の言葉を聞いて、どこに行けばいいのか分らない気持ちが溶かされて、導かれていくようだった。
「陽心、俺、もっと上手くなるから、、、だから、見てて欲しい。」
「、、、うん。これからもっと楽しみだね。」
「、、、ああ。」
俺は油絵具のエリアに行き、無くなりそうだった白と青の油絵具を手に取り、レジへ向かった。
* * *
俺たちはカフェにより手軽に飲める飲み物を購入し外の広場へと行くことにした。
広場にはテーブルや椅子が並んであり、そこで飲食ができるようになっている。他には噴水やきれいに敷き詰められた芝生に、石や木のベンチが何個かある。
俺たちは噴水近くのベンチに座った。
「夕方は少し涼しくなるね〜。」
「そうだな。風が気持ちいい。、、、、、あのさ、陽心。」
俺は今があの話をする時なのではないかと思い、覚悟を決めて陽心の名前を呼んだ。
「ん?」
「あの、、、この前の話、してもいいか?」
「うん。いいよ。」
「俺、、、嫉妬してたんだ。陽心と部活が一緒の水野先輩に。」
「そうだったんだ。」
「、、、ああ。帰り道とかファミレスの時楽しそうにしてる陽心と水野先輩を見て、なんか俺水野先輩に陽心をとられる気がして、、、。」
「うん。」
「次の日に陽心と水野先輩が夏休み一緒に出かける話をしてるのをたまたま聞いて、それでもっと自分の気持ち抑えられなくなって、、、八つ当たりしたんだ、、、。八つ当たりした時に陽心俺が水野先輩に嫉妬してるって気づいただろ?」
「うん。何となくね。」
「それが嫌で、、そんなガキみたいな嫉妬に気づかれたくなくて、、陽心から逃げたんだ、、、。」
「、、、そっか。ありがとう言ってくれて。」
「、、、ごめんな。」
「、、、ねえ慎くん一つだけ言ってもいい?」
「な、何だ?」
陽心は何を言うのだろうか。
そんなことで俺が嫉妬してたなんて知って嫌に
「私は今一番、慎くんのことを考えてるよ。」
「え、、、。」
「あ、受験のこともちゃんと考えてるから安心してね!、、そうじゃなくて、誰を一番今考えてるのかっていう意味で。慎くん以外の男の子のことを考えられる余裕はないと言いますか。慎くんのことを一番に考えたいから別の人のことは考えられない、っていう感じなんだけど、、、伝わってるかな?」
「え、あ、、、はい。」
「とにかく、今は慎くんのことを考えたいから、、、あれ?またこれ同じこと言ってる?」
「ああ。」
「えっとー、だから、、」
「今一番考えたいのは俺の陽心に対する気持ちの返事っていうことか?」
「そう!あ、伝わってたんだ。」
「ああ。」
「そっか!よかった。へへ。」
気が抜けたように笑う陽心を見て自分が心底馬鹿なんだと思い知らされた。
陽心は俺のことを一番に考えたいと思ってくれていたのに、俺はただ隣にいるやつに馬鹿みたいに嫉妬していた。
なんて言うかもう笑うしかない。
「それに水野くんに嫉妬って笑。大丈夫大丈夫。水野くんは私のこと1ミリもそんな風に見てないから!笑」
「そ、そうか。」
そうだ。陽心はこういうやつだった。
余程のアピールがない限り自分への好意に気づかない。
水野、残念だったな。まだお前はスタートもしていなかったぞ。
俺が陽心に教えてやることもできるけど、それは絶対に、絶対にしない。
「私ね、何となく本当に何となくなんだけど、バスで慎くん寝ちゃった時もしかして慎くん水野くんを見て少し嫉妬して機嫌悪くなってるのかなって思ったんだけど、」
陽心、あの時分かってくれてたのか。
「なんかそれだと自惚れすぎかなとも思ってなかなか慎くんにフォローできなかったんだ、、ごめんね。」
「陽心」
「ん?」
「もっと自惚れろよ。」
「え。」
「俺はさ、陽心のことになるとなんか全部ダメになるんだ。陽心と嬉しいことがあるとめちゃくちゃ舞い上がって浮かれる。陽心と悲しいことがあるとめちゃくちゃ落ち込んで涙も出る時がある。陽心のことを考えるとどうしようもなく感情が揺れ動くんだ。」
「、、、それは前に私が避けてた時があったからだったりする?もしかしてトラウマになっちゃったとか、、、」
「ああ、そうかもしれないな。」
「!、、そ、そうなんだ、、
「うそ。」
「え、、、、え?!」
俺がそう言うと落ち込んだ表情から途端に驚いた表情になった。
ばかだな陽心は。
「俺はずっと前から、、、陽心のことが好きになった時から陽心のことを考えるとダメになるやつになったんだ。好きすぎて。だからもっと、、、成長したい。」
「、、、。」
「気持ち的に成長して、陽心がもっと意識して、好きになるくらいかっこいいやつになりたい。」
何を言おうか考えていた時、何となくぼんやりとしかイメージできなくて言いたいことがまとめられていなかった。
けれど今日一緒に出かけて陽心と過ごしているうちに言いたいことが固まった。
ずっとこれが言いたかった。
俺はもっと大人になりたい。陽心を困らせるような嫉妬も、浮かれすぎる気持ちも自制が効くようになりたい。
それでそんな俺を陽心に好きになってもらいたい。
「そっか!じゃあ見せてね。かっこいい慎くん。」
「ああ。」
「、、、あの、私も話したいことあるんだけどいいかな?」
「おう。」
「、、、私ね慎くんといると辛くなるんだ。」
「え、、、それはえっと、どう言うこと」
「うそ!」
「!!」
「仕返しだよ。」
これ以上ないくらいの笑みで陽心はそう言った。
「私はやっぱり慎くんといると楽しいんだ!前みたいに話せて、ううん、前よりも慎くんのことが知れて、慎くんといれて嬉しい。だから私、今の慎くんのこともっと知りたいし、これからの慎くんも見ていたい。
あの、全然まとめられてない気がするんだけど今の私の気持ちはこういう感じです。中間報告ということで伝わればいいなと思ってます。あはは。」
本当にこいつは俺をどれだけかき乱せば気が済むんだ。
人を好きにさせたり、嫌いにさせたり、もっと好きにさせたり。
いつも、いつも感情が追いつかない。
本当に可愛くてずるい女だ。
でもだから、陽心のこういうところが俺は。
「あ!あとこれ今日のお礼。」
そう言って陽心は俺に小さい紙袋を渡してきた。
この紙袋は、さっき陽心が雑貨屋で何かこそこそと買っていた時のものだった。
「え、くれるのか?」
「うん。」
「ありがとう、、。開けていいか?」
「うん!」
開けてみると何やら目つきの悪いくまのキーホルダーが入っていた。
「、、、これはくま?でいいのか?」
「桃尻くまくんっていうんだ。可愛くない?この尻!は〜さすりたい。」
「あ、、かわいいねーー」
「めちゃくちゃ棒読みじゃん!このジト目めっちゃ慎くんに似てるんだ笑 ちゃんと大切にしてあげてよ!」
「分かったよ。ありがとな。、、、、俺からも、はい。」
俺は水族館のお土産コーナーで買っていたものを陽心に渡した。
「え!いいの?、、、、わ〜!これ似てるって言われたペンギンだ笑 可愛い。」
「ちゃんと大事にしろよ。」
「うん。ありがとう。ちゃんと大事にする。」
「、、、俺今日陽心と一緒に過ごして陽心が今と昔で少し変わってたことも分かって、、
その、、、俺ももっと今の陽心を知りたいんだ。、、、だから、また俺と一緒に出かけてくれないか、、」
「うん。また一緒に出かけよう!」
そう言った陽心の笑顔は今日一番、いや全部一番なんだけど、ダントツと言っても良いくらい可愛くて素敵だった。
「もうひとつ言い忘れてた。」
「何?慎くん。」
「好きだ。」
「え。」
「好きだ、陽心。」
「え、ちょっと、どうしたの慎くん?」
言いたいもっと、お前に、もっと分らせたい。
「俺がどれだけお前のこと好きなのか、分かって欲しい。」
「も、もう十分わかってると思うんだけど。」
俺はじりじりと陽心の方へ近づいていく。
「いや、まだ分かってない。全然まだまだだ。」
「え!そんなことないって。」
「まだだよ。陽心、好きだ。」
「わ、分かったって!ちょっと恥ずかしいよ。」
どんどん陽心に詰め寄っていくと、いつになく陽心は恥ずかしがって顔を赤くさせている。
でも多分俺の顔は陽心よりももっと赤くなっているだろう。
沸騰しそうなくらいめちゃくちゃ顔が熱い。
「俺も恥ずかしい。でも言いたいんだよ。好きな気持ち、お前に全部あげたいんだ。」
「も、もうもらってるから!落ち着いて!」
まだまだ足りない。
俺の陽心を好きな気持ちはこんなもんじゃない。
この時だけでは伝えきれないから、
どんなに恥ずかしくたって恥ずかしがられたって、
これからもっと陽心に伝えていきたいと思うんだ。
* * *
後悔は全くしてないけど思い出すとクソ恥ずかしいな。
俺はクモマチタウン駅からいつも使っている駅までの電車で帰りの広場でのことを思い出していた。
ああいうのが自制が効かないっていうんだろうな。
もっとしっかり意識していかないと。
隣にはすやすやとよく寝ている陽心が座っている。
広場であんなことを何回も言われたのにお気楽なもんだ。
結構恥ずかしがって赤くなってたくせに、今はもうただの気持ち良さそうな寝顔だ。
何気なく陽心にもらった桃尻くまくんのキーホルダーを見る。
俺こんな目つき悪いか?
ていうか桃尻って何だよ笑 見れば見るほど尻だしてんのムカつくな笑
どんだけ陽心、桃好きなんだよ。
まあ陽心からのプレゼントならどんなものでも嬉しいんだけど。
桃尻くまくんをいじりながら軽く笑う。
隣で寝ている陽心の頭がコクコク動いているのが視界に入ってくる。
何だか前に倒れてしまうんじゃないかと危なっかしくて、俺は陽心の頭を自分の肩に寄せた。
陽心の頭は安定されて、より気持ち良さそうに眠っている。
お前が悪いんだぞ。あれだけ大々的に告白をしたのに無防備に俺の隣なんかで寝るから。
だから危なっかしいとかいう口実で肩を貸すくらいは許してくれ。
お前が起きるまでは。
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