第27話 最高な日曜日①
今日は8月16日の日曜日。待ちに待っていた陽心と二人で出かける日。
自分の部屋で金曜に買った服を着て、鏡で確認してみる。
うん。変なところはない。むしろ良い感じだ。
「あ、忘れるとこだった。」
教えてもらったように、履いているテー何とかズボンの裾を少しだけ折って足首が見えるように調節する。
「おお。良いコナレカンになったんじゃないか?」
鏡の前で覚えたばかりの言葉を使って独り言を呟く。
寝癖は治したし、肌のコンディションもバッチリ、服装もきまってる。よし。
時計を見るともう集合時間の5分前になっている。
「そろそろ行くか。」
一階に行くとソファーに座っている姉と目があい、気持ち悪いニヤケ面で俺をジロジロと見てきた。
「な、何だよ。」
「張り切ってるね〜。」
「別に、、、普通だろ。」
「ヘ〜〜〜。ま、頑張って。陽ちゃんとの初デート。」
そう言って姉は手をひらひらと振ってテレビの方に向き直った。
いちいち冷やかしてくる姉を切り抜け俺は玄関の方に歩いて行く。
「デート、、、だよな。出かけるだけでも、、うん。」
やっと、、、やっとこの日がきた!!
小学生と中学生の時の俺に言ってやりたい。
お前は高校生になったら陽心と二人で出かける日、、、陽心とデートができる日が来るんだと!
まあ、まだ付き合ってはないけど、、、そんなことはあとだあと!
今日は絶対、陽心を楽しませたい。俺をいつも、楽しくさせてくれたみたいに。
嬉しさと少しの緊張で玄関を開けると、陽心とまた関わるきっかけになったあの日みたいに強い日差しが照りつける。
「やっぱ今日も暑いな。」
外に出て玄関を閉めると、後ろから玄関を開ける音がする。
振りむくと
「、、、あ!慎くん!」
玄関から出てきた陽心が俺に気づいて満面の笑みで俺に手を振ってきた。
俺もぎこちなく手を振り返す。
ああ、すごく嬉しい。今、日本中で、いや、世界中で一番幸せなのは俺なんじゃないかって思うくらい、幸せすぎる。
世界中のみんな聞いてくれ、俺は今からあの子とデートをする!!お出かけだけど!!
「よ、よう。今日も暑いな。」
「だね〜!もうすでに汗かきそうだよ。」
今日の陽心は髪をポニーテールにしていて、服装はくびれの締まった丈の長い青いワンピースだった。
涼しげで夏っぽく爽やかな感じが、とてもよく似合っている。
陽心が動くたびポニーテールになったふわっとした髪が揺れて、何だかいい匂いもするような気がする。
「あ、今日はちゃんと朝ごはん食べてきたから大丈夫だよ。」
「、、、それなら安心だな。」
歯にかんでそう言ってくる姿もとても愛らしく可愛らしい。
大丈夫じゃなくてもいつでもおんぶの準備なら出来てるから大丈夫だぞ、陽心。
「慎くん、、なんか今日雰囲気違うね。」
「そ、そうか?」
「うん。なんていうかおしゃれな感じがする。すごく素敵だよ。」
この子、もう、ほんとこういうとこだよ。
そんなキラキラした目で俺をまっすぐ見つめて素直に褒めないでくれ。
もっと好きになっちゃうから...!!
「陽心もすごく、、似合ってる。、、、、か、かわ」
「お〜嬉しいこと言ってくれますねぇ。このワンピースすごく可愛いよね。昨日一目惚れして買っちゃったんだ〜!」
「、、、そうなのか。すごく可愛い、、、ワンピースだな。」
言えよ!お前が可愛いんだって言えよ〜〜。
いつもこう肝心なところでちゃんときめられないのをどうにかしたい。
陽心を意識させられる絶好のチャンスだったというのに。
「でしょ!ありがとうね。慎くん。」
ただただ俺は撃沈するだけだった。陽心のこの可愛い笑顔に。
陽心を意識させられるか以前に、この笑顔で俺がただ単にまたもっと好きになってしまうだけだった。
「よし!行こうか。」
「陽心、ちょっと、、、」
「ん?」
陽心は早速歩き出そうとしたがその前に陽心にちゃんと謝らないと。
こうやってまた陽心と話す機会に恵まれたんだから。
「あ、陽心あの、この前のことなんだけど、、、あんなこと言ってごめん!!ずっと謝りたくて俺、、、。」
「いいよ!私も、ごめんね。分かってないのに、いろいろ言っちゃって、、。」
「いや、違う!陽心は悪くないんだ。俺が、、その、、。」
ちゃんと理由を話さないとと思ったのに、やっぱりそれを言ったら陽心がどう感じるのかと思うと抵抗があってなかなか言い出せない。
「あ、ちょっと待って!その話は最後にしない?私もいろいろ話したいし。今はその話は置いといて今日のことを考えようよ!せっかく初めて二人で出かけるんだからさ!」
俺が言いづらそうにしていると陽心は最後に話をしようと提案してきた。
そして、出かけることを俺と同じように楽しみにしてくれていたのがまた伝わってきて、嬉しかった。
「、、、そうだよな、今日のことを考えよう。俺今日はすごく楽しみにしてて、、絶対陽心のことも楽しませたいんだ。」
「うん。私も楽しみたいし、慎くんのことも楽しませたい!」
「そうか。、、、ありがとな、、じゃあ行くか。」
「うん!」
楽しませたいとお互いがお互いに言い合ってバス停へ二人並んで歩き出した。
宣言してから始まるのは何だかおかしな光景のようにも思えるが、多分俺と陽心は伝えたいのだ。
思っているだけだと伝わらないことがあると知っているから。
隣で歩く陽心の姿はいつもと変わらず可愛い。
でもいつもよりも陽心との心の距離が近い気がして、俺は今すごく浮かれている。
陽心は楽しませたいと言ってくれたが、俺は陽心とこうやって出かけてるだけでもうすごく、楽しいんだよ。
* * *
バスに乗って駅に着きお目当ての場所、超大型ショッピングモール、クモマチへ向かうための電車に乗る。
「クモマチ行くの久々だな〜。なんか結構新しくなったみたいだよ。」
「そうだな。今はいろんな店が増えたみたいだし、それに季節限定で陽心の好きな桃スイーツ店もあるしな。」
「いや〜付き合ってもらってありがとうございます。そこは行ってみたかったんだよね〜!いろんな場所の桃が集結してて写真で見た時めちゃくちゃ美味しそうだったんだよ〜!ほら!」
陽心は自分のスマホ画面を俺の方へと向けてきた。
「ヘー、すっげえ桃盛り沢山て感じだな。美味しそう。」
「、、、今少し、桃なんて全部同じ味だろとか思ったでしょ。」
「、、、バレたか。」
「へー、がもうそういうへーだったもん。良いよ、それなら分らせてあげる。シェアして食べよう。」
「あ、はい。」
桃のことになると目の色が変わるというか何というか。まあそこも可愛いんだけど。
「慎くんは水族館行きたいんだよね?」
「、、、ああまあな。」
「なんか慎くんが水族館行きたいなんていうの意外だったなぁ。」
「そ、それはまあ、あれだ、俺だってたまには魚たちと触れ合いたいとか思ったりもするんだよ。」
「触れ合いたいって笑 まあそうだね。イルカショーとかも楽しみだし。みんなでは行ったことあるけど、慎くんと二人で水族館なんてなかなか体験できる事じゃないから、なんか面白そう笑」
「何だよ面白そうって。」
「あはは、イエーイ。」
陽心は悪戯っぽく笑って楽しそうに自分の肩を俺の方に軽くぶつけてきた。
「なんか陽心楽しそうだな。」
「久々に慎くんと遊んでるから、なんかテンション上がっちゃって笑 申し訳ねえ笑」
何なんだこれは。
こんなの側から見たらcoupleじゃないか。
周りの人たちにイチャイチャすんなよとか思われてるんじゃないか?
いやあ本当にすみません、俺の陽心が。
「なんか慎くんといると気が抜けてあんまり遠慮とか出来なくなりそうだから、慎くんもしたいことあったら何でも言ってね。」
「、、、俺もテンション上がってるから、、、したいことあったら何でも言うよ。」
俺が水族館に行きたいと言った理由はデートでは定番中の定番スポットだからだ。
定番スポットに陽心と行くということは、これはもうデートでしかない。
少しでもデートという気分に浸りたくて選んだ場所だった。
こんなことは流石に恥ずかしくて本人には言えないけれど。
いろいろ話しているうちに目的地クモマチタウン駅前に到着する。
駅前からクモマチタウンは近いというかもう目の前なのであとはもうあのでかいショッピングモールの入り口に入れば良いだけだ。
「お〜〜着いたね!よし、お昼食べよお昼!」
「はいはい、桃な。」
「しょっぱい系はサンドイッチとかパスタとかもあるから主食でそういうのも食べちゃおう!」
「めっちゃ食うな。」
まず最初に向かうのはお昼ご飯として行こうとしていた桃スイーツ店だ。
そこに行くと店の前にショーケースがあり、その中に桃のケーキやら桃パフェやらがたくさん並んでいた。
「見て見て慎くん!めっちゃ美味しそう!可愛いし、、、。は〜〜やばいよこれは、、。」
陽心はまだ食べてもいないのに今にもよだれが出そうなくらい顔が緩んでいる。
「じゃあ入るか。」
「うん!」
入るとそこの空間は女性だらけで、一人だったら絶対入りにくい場所だ。
その空間に少し圧倒されたが、ポツポツと男性の姿が見える。
男性といるのは女性で多分彼氏という立場で来ているのだろうと思える。
ん?ということは俺も彼
「慎くん、ここ空いてるよ!」
「お、おう。」
陽心が頼んだのは桃のパフェとカルボナーラのパスタ。
俺が頼んだのは桃のロールケーキとハム卵サンドイッチだ。
少ししてから頼んだメニューが運ばれてくる。
「うっわ〜〜!美味しそう!」
「おお、、すごいな。」
陽心が頼んだ桃パフェは、長いグラスの中にピンク色のキラキラした桃ゼリーが敷いてあり、その上にカットされた桃が乗っていて、次にヨーグルト、スポンジケーキ、またもやカットされた桃、上に生クリーム、そして一番上には桃が丸ごとのせてある。
「見てこれ!ひ〜〜!可愛すぎる!慎くんのもめちゃめちゃ美味しそう!」
俺が頼んだ桃のロールケーキは生クリームとカスタード、そして小さくカットされた桃がピンクのスポンジに巻かれていて、周りにはくし形に切られた桃たちが円を描いておしゃれに置かれている。
「写真撮ろ。」
陽心は自分の桃パフェと俺の桃ロールケーキを並べて真剣な表情で写真を撮っている。
こうやって可愛いものや美味しそうなものの写真を撮っている姿を見ると、陽心も今時の女子高生なんだなあと思う。
そりゃあそうなんだけど俺は中学生までの陽心しか知らないからこういう姿を見るのは新鮮でとても良い。
「あ、ごめん、、、夢中になっちゃって。」
「良い感じに撮れたのか?」
「え、うん!ほら。」
「ヘ〜〜なんか目で見るより綺麗に撮れてるな。」
「これアプリなんだ。食べ物美味しく撮れたり、顔も盛れたりして、ほら見て!」
「ん?、、、おい、隠し撮りしてたのか。」
桃パフェと桃ロールケーキの写真の次に見せてくれたのがそのスイーツたちとそれを見ている俺の写真だった。
「隠してないよ〜。記念に撮りたかったんだ!スイーツ見て感動してる慎くんの顔可愛い笑 盛れてるし笑」
可愛いと言われ慣れてないからどういう反応したら良いのか分らないが、陽心が可愛い顔して俺を可愛いと言ってくれるから悪い気分ではない。
「俺も撮ろうかな。」
「どうぞどうぞ。」
俺は桃スイーツたちを撮りつつ、しっかり陽心もカメラのフレームに入れて撮った。
多分俺が陽心を撮っていることはあの抜け切った表情を見ると多分気づいていないだろう笑。本当に可愛いやつ。
「いただきます!」
「いただきます。」
「じゃあまずパフェの方を、、、う、うまー!もうめっちゃ桃!」
「よかったな笑」
「慎くんの方はどう?」
「うん。美味しい。陽心の言った通りめっちゃ桃だわ。」
「だよね!はい私のもあげるから慎くんのも少しいただきたいです!」
「ああ。ど、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
陽心は俺が食べたところを自分のスプーンで取っていった。
「うんうん。桃のロールケーキもめっちゃ美味しい。」
俺も陽心が食べたところを自分のフォークで少しもらう。
「、、、、、うん。こっちも美味しいな。」
昔からの付き合いだからこういう微関節キスは慣れているのだが、今日のは何というか久しぶりなのもあってか少しソワソワしてしまっていた。
「慎くんありがとうね。今日ここに一緒に来てくれて。すっごい大満足だよ!」
「そうか笑、、、俺も大満足だよ。」
そう言ってくれて幸せそうに食べる陽心の姿を見ると俺もすごく幸せな気分になる。
こちらこそそんな笑顔をまた見せてくれてありがとうな。
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