第25話 耳に残った言葉
「よし、陽心に明後日の連絡するか。」
圭介と下山田に付き合ってもらった買い物から帰ってきて、俺は今自分の部屋でスマホと睨み合っている。
陽心と出かけるのは明後日8月16日の日曜日。
予定通り陽心が会ってくれるのかという不安は、圭介の言葉で少し薄れた、とは言え最初にどんなテンションで送れば良いのか迷っている。
二人で行くのやめるかと言って逃げておきながら、普通に「明後日何時集合にする?」とかは言いづらい。
行こうとしているところはなんとなく決まってはいるが、まず最初にどこで何するのかとかは詳しく決められていない。
それに別々に家を出て目的地集合にするのか家から二人で一緒に向かうのか、集合の仕方も諸々決めていない。
まずはそのことについて話さないといけないのに、、
「あーーーーもう、最初になんて打てば良いんだ。」
考えては悩み考えては悩み、この繰り返しをしている。
「なんでも良いから早く送らないと、、、。」
悩みに悩んで「昨日はごめん。やっぱり日曜俺と一緒に出かけて欲しい。」と打つことに決めた。
やっぱり素直にこう伝えた方が一番良いかもしれない。
言うだけ言っておいて我がままだろうかと思っていたが、そうも言っていられない。
まず、俺が変わらず2人で日曜に出かけたいと思っていることを陽心に伝えないと。
「よし、、、送信。、、うお!」
送信ボタンを押したと同時に陽心からもメッセージが送られてきた。
【昨日はいろいろ言ってごめんね。慎くんが良ければ日曜予定通り出かけたいんだけど、どうかな?】
「よ、陽心も送ろうとしてたのか、、、。」
同時に送ってしまったのでもちろん、俺のメッセージには既読の文字が出ているし、陽心の方にも自身のメッセージに既読の文字が出てきているだろう。
「、、、なんで陽心が謝るんだよ、、」
自分が情けないばかりに何も悪くない陽心に謝らせてしまった。
俺があんなことを言わなければ、もっとしっかりしていれば、、、。
【今電話しても良いか?】
今陽心にちゃんと声で、言葉で伝えたい。
そう思ってメッセージを送ると、送ったメッセージはすぐ既読になり返事が返ってくる。
【良いよ👍】
俺はそのメッセージを見てすぐに通話ボタンを押した。
♪〜
数秒の間発信音がなりすぐにその音は止まった。
《、、、はい。》
《あ、、、陽心、か?》
《うん。そうだよ。》
スマホから陽心の声が聞こえてきた途端少しだけ緊張してしまう。
気まずくなっているからというのもあるが、これが陽心と初めてする電話だからでもある。
電話越しの陽心の声はこういう感じなのか。
《あの、、いきなりでごめん。電話しておいて何だけど、その、、今大丈夫だったか?》
《今はバス待ってるところで外にいるから大丈夫だよ!》
《そ、そっか。よかった。あ、えっと、、、あのさ、、ごめんな、変なこと言ったのにまた図々しく一緒に出かけて欲しいだなんて、、、。》
《ううん。そんなのいいんだよ。、、、よかった。ダメにならなくて。》
陽心の優しい声が胸にぐっと突き刺さる。
こんな風に言ってくれる人に俺は最低なことを、、、、。
《陽心、、ごめん、、、俺あんな》
《あ、そういうのはさちゃんと会った時話そう!短い時間で終われる話じゃないんだから!》
《、、、でも》
《私もちゃんと話したいから、日曜にじゃだめかな?》
《、、、分かった。でもこれだけは、陽心に分かっていて欲しいんだけど》
《うん》
《俺、陽心と出かけるのが嫌になったからああ言ったわけじゃないんだ。陽心と、、、2人で出かけたいってあの時も今もずっと思ってる。それだけは覚えておいて欲しい。》
《、、、それはちゃんと分かってるよ。慎くんが2人で出かけようって真剣に誘ってくれたからね。》
《え、、、》
《それで私も慎くんと2人で出かけてみたいって思ったんだよ。それに意外に2人で出かけたこともなかったしね。だから本当になくならなくてよかった。》
《よ、陽心も俺と2人で出かけたいって思ってくれてたのか?》
《当たり前じゃん!笑 そうじゃなかったら一緒に行こうなんて言わないよ!》
《そ、そうか。》
《そうだよ笑》
どうしよう
《じゃあ明後日の待ち合わせは、あ、家近いしお互いの家の前集合だね。そこから一緒に行こうか!》
《ああ。そうしよう。何時くらいがいい?》
どうしよう、今すごく
《んー13時くらいにする?》
《それくらいだな。》
《慎くん起きられる?笑》
《起きるに決まってるだろ。》
《大丈夫かなあ笑》
《陽心だって寝坊するなよ。》
《ちゃんと起きるよ!》
《まあ、寝坊したところで行くのは絶対なしにしてやらないけど。》
《私だって慎くんが寝坊しても行くのやめてあげないよ。》
いたずらっぽく言ってきた言葉とクスクスと笑う声が聞こえて耳がこそばゆくなる。
《、、、分かってる。》
すごく
《じゃあ明後日は家の前に13時くらいに集合でそれから駅に向かおうか!それで駅着いたら-》
すごく、どうしようもなく嬉しくてしょうがない。
《うん、、うん、分かった。そうしよう。じゃあ、また明後日な。うん、じゃあな、、ん?なんだ?、、、、、、俺もだよ。、、、うん、じゃあまた。》
電話が終わり一気に体の力が抜け、ベッドに横たわる。
「は〜〜〜。」
最後の方は高揚している自分を抑え込むのでやっとだった。
自分の声が興奮して震えてないかとかうわずっていないかとかそういう心配で頭の中がいっぱいだった。
それに最後の最後に言ってくれた言葉が今でも耳に残っている。
『明後日、すごく楽しみにしてるね。』
それはとても優しく、温かく、弾んだ声だった。
気を使ってなんかじゃなかった。
しょうがなく行こうとしているわけでもなかった。
その言葉で、それだけで、すごく、すごく嬉しかった。
顔が熱く、胸が熱い。
陽心にこの気持ちを余すところなく伝えたい。
『じゃあ今度は好きだっていう気持ちをぶつけ続ければいい。』
『も〜そういうことは私に言わないで本人言ってよ。恥ずかしい。』
圭介と下山田の言葉を思い出す。
俺がどれだけ想っているのか陽心が分からないなら、伝えていけばいいんだ。
全部、全部。
誘おうとしたときよりも、
誘ってからokだったときよりも、
今が一番、楽しみで仕方がなくて、陽心にも楽しんでもらいたいという気持ちで溢れていた。
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