第24話 君の恋と私の恋


「おい、選ぶ気あるのか圭介。」


「、、、、姉ちゃんはこういうのが好きなんだよ。」


俺たちは今あの有名な、主にカラーバリエーションは多いが無地のデザインが多く、それぞれの商品のカラーに絶対黒を入れるムニクロの前にいる。


「絶対お前が行きつけの所だろ。」


困った時はムニクロと言われるくらい無難でシンプルな良い服ばかりだが、、。


「だ、だから連れてきたんだろ!やっぱ無難が一番だろ?」


「ここなら普通に俺も持ってんだけど。」


「いいじゃん!大和くん。いつもと選ぶのが違えば見せ方だって違くなるし。」


「そうそう!それだよな下山田!俺はそれが言いたかったんだよ。」


圭介は腕を組んでうんうんと頷いているが絶対そんなことは思っていないだろう。

でも下山田が言う通り普段選ばないものだったら良い感じにおしゃれになるかもしれない。


「、、、じゃあお願いします。」


任せてと言った下山田の後ろをついて行き自分もなんとなく店内を見渡す。


「大和くんて普段どんな服着てるの?」


「夏は大体黒か紺のシャツか、無地のTシャツでジーパンかなあ。まあどうせ学校にいる時間の方が長いから私服自体あんまないけど。」


「なるほどなるほど。」


なんで普段の私服を聞いてくるのかは分からないが下山田は何かいろいろ考えているらしく店内を一通り見ていた。


「あ!これなんかどうかな。」


下山田は半袖の茶色のパーカーとベージュのTシャツ、青緑の少し鮮やかなスウェットシャツを持ってきた。


「大和くんは黒とか青系が似合うから寒色で暗い色を選びがちだと思うけど、ここはあえて暖色で選んでみるのもありかもと思って!あとこっちの青緑のシャツはいつも鮮やかな色は選ばないみたいだからいつもの青とは違う青系で行くのも良いなと思って!どう?」


「ああ、確かにいつもはあんまり着ない色だな。でもなんでいつもとは違う感じにするんだ?」


「いつもとイメージを変えて新鮮さを出すとそれだけで結構意識すると思うんだよね。自分のためにおしゃれして来たのかなって思わせるのも良いアピールになると思うし。」


「ヘ〜そう言うもんなのか。」


「なるほど、確かに、それはそうだな。」


圭介は下山田の後ろで分かったふうに相槌を打っている。


「あとはそうだなあ、ジーパンじゃなくてテーパードパンツを選んでみるとか!」


「テーパードパンツ?」


「これこれ。」


今度は黒よりの紺のテーパードパンツとか言うものを持ってきた。


「あーちょっとしたスーツみたいなやつか。なんか綺麗めでキメすぎじゃないか?それに俺スニーカーとサンダルしか持ってないんだけどこれ合わないような。」


「キメすぎかなと思うなら尚更スニーカーかサンダルの方がいいよ!パンツの大人っぽさとカジュアルな靴でいいバランスになると思う。」


「そうなのか。」


「さすが下山田、俺が言おうとしてたこと全部言ってくれてるな!」


圭介はまた後ろで何か言っている。


「じゃあ試着してみようか!」


「お、おう。」


・ ・ ・ ・


「じゃあここで待ってるから、はいどうぞ!」


「あ、はい。」


服を渡されるがまま俺は試着室に入り下山田が選んでくれた服を着てみる。


普段あんまり気ない服は新鮮で良いと思うんだけど似合うか似合わないかもあるからなあ。そこが不安だな。


「着たけど。」


一通り選んでくれた服を着終わり試着室のカーテンを開くと前のソファーに座っている下山田がいたので声をかけた。


「お!どれどれ。え!なんで制服なの?」


「一通り自分で鏡で見たし良いかなと思って。」


「え〜、じゃあ大和くんは一番どれが良いと思ったの?」


「んーベージュのTシャツかなあ」


「じゃあそれとパンツもう一回着て見せてよ。」


「え、また着んの?」


「良いから良いから!」


試着室に押し込められ、さっききた服をまた着てみる。


「、、、こんな感じだけど。」


「おお!良いね!イケメン風だよ。」


「イケメン風って。」


喜んで良いのか良くないのか分からない言い方だな。


「んーこうしたらもっと良くなるかも。」


そう言って下山田はしゃがみ俺の足首に手を伸ばす。


「おわ!なんだ!」


「ちょっと動かないでよ。」


いきなりのことでびっくりして足を上げると下山田に注意されてしまう。


「な、何してんだ?」


「よし!できた!」


見てみるとズボンの足首のところが少しまくってある。


「、、、足が短いからか。」


「違うよ。下を少し折って足首をほんの少しだけ見せてあげると涼しげでいいかと思って!ちょっとこなれ感出ていいしね。」


「コナレカン?」


「いい感じになったってこと!」


「そ、そうなのか。、、あれ?そういえば圭介は?」


「万里くんは飽きて本屋行っちゃったよ。」


「、、、。」


あいつは何をしに来たのだろうか。


「じゃあ、買ってくるわ。」


「はーい。お店出たところの広場で待ってるね。」


・ ・ ・ ・


会計を済ませ店の前の広場に行き、下山田が座っているベンチの前に行き声をかける。


「よう、待たせたな。」


「、、、うん。あ、そうだ。万里くんもう少し見てからこっち来るって。」


「はあ、そうか。下山田、」


「ん?」


「今日は服選んでくれてありがとな。俺のことなのにお前に任せっぱなしにして悪いな。」


「、、、いいよ!服選ぶの好きだし。」


「なんか下山田って服詳しいんだな。組み合わせとか似合うのとか色々知ってるみたいだったし。」


「服は昔から好きで、自分に何が似合うのか選ぶのも、兄とか妹の服選んだりするのも好きなんだ。たまに自分でデザインとか考えるのも楽しくていろいろ、、、あ、ごめん、ベラベラと。」


「なんだよ。デザイン考えて自分で作ることもあるのか?」


「あ、えっと、いや、作ったことはないけどいつか作ってみたいとは思ってる。だから今はそういう勉強少ししてて。」


「あ、たまに美術室で勉強してたのはそれだったのか。」


「え!見てたの、、」


下山田は驚いた顔でこちらを見た。


「なんか真剣にやってるから気になって後ろからチラ見したときにちょっと見えちゃって笑 服のこととかいろいろ難しいこと書いてあってよく分かんなかったけど。」


「そ、そっか。」


「服飾関係の学校に行くのか?」


「まだそれは決まってないけど、それも少し興味あるから視野に入れてる。」


下山田の興味があることとか将来の話は初めて聞いたが、こんなにはっきりやりたいことが決まってるのは驚きだ。


「俺はまだ全然やりたいこととか決まってないから、下山田がなんか、格好良く見えるよ。」


「、、、、別に決まってるだけで達成してないし、、格好良くないよ。」


いつもなら、でしょー!とか言ってくるだろう下山田が少し照れているのが分かる。

毎日俺の方がからかわれて圧倒されているからなんだか面白い。もっと言ってみようか。


「お前に選んでもらった服本当に俺では絶対選ばない服だから、俺自身も新鮮でいけてる感じになれたような気がして嬉しかったよ。今後こういうのも選んでみようと思った。」


「、、、。」


「俺からなんか言われても説得力はないし喜びもしないと思うけど、下山田はそういうセンスあると思う。大変だけど勉強頑張れ。応援してる。」


「、、、やめてよ。」


下山田は下を向いてそう呟いた。

本当のことを言ったのだが、余計なことを言いすぎて怒ったのだろうか。


「ご、ごめん。なんか知ったようなこと言って


「違うよ。」


「え?」


下山田は顔を上げて俺の方を見て優しく笑ってこう言った。


「すごく嬉しくなっちゃう。」


こんなに素直に喜ぶなんて少し意外だったが、言った方としてこの笑顔は嬉しく感じるものだった。


「おう。喜べ喜べ。」


「、、、大和くん。」


「なんだ?」



「私ね、大和くんのことが好きなんだ。」



「、、、、、、え?」



何を言われたのかは分かるが思考が追いついてこない。


下山田が俺を


「好きなんだ。大和くんはどう思う?」


「、、、あ、、えっと、、、。」


はっきり言われたことによって思考が追いつき、正直今、すごく動揺している。


自分から好きになったことはあるが誰かに好かれたことは初めてで、何を言ったらいいのか分からない。


すごく驚いているが、嬉しくもある。

自分のどこを好きになってくれたのかは分からないがこんな風に思ってくれている人がこんなに近くにいるなんて思わなかったので本当にありがたい気持ちでいっぱいだ。


でも、


「、、、ありがとう、でもごめん。俺は、、、」


「、、、。」


「陽心が好きなんだ。」


下山田の目を見てそういうと下山田は呆れたようにため息をこぼした。


「まあ、分かってたけどね笑 そう言われるのは。」


「だ、だよな。、、、お前がそんな風に思ってくれてたのに、気付かなかったとはいえ、その、陽心のこといろいろ話して悪かった。」


自分だったらされたら嫌なことを相手にしてしまったのが情けなく思う。


「別にいいよ笑 私は今よりも前の大和くんが好きだったし。」


「前の?」


「お姉さんが嫌いだった、、いや、嫌いなふりをしていた大和くんが好きだったんだ。」


「あの時の俺が?そうなのか。」


「普通に喋るときは今と変わらないけど、授業中とか部活で絵書いてる時とかたまに何かを諦めて冷めた顔とか切なそうに何か押し殺した顔とか思い詰めた顔とかしてるときがあって密かにそれを見るのが好きだった。」


「そんな顔してたのか。気づかなかった。」


「楽しそうにしてるけどどこかで何か違うことを考えてるようにも見えて大和くんの本質が見えないところに惹かれたんだ。」


「なるほど。あのときはまあ、そういう時期だったな。」


陽心さんから絶賛拒絶中で俺も自分の気持ちを押し殺して出ないように出ないように必死だったから。


「でも今は、陽心陽心って犬みたいに尻尾降ってるし、少しのことで嫉妬したり動揺したり、女々しくて気持ち悪い。あとストーカーみたいだし。」


「そ、そうですか。」


気持ち悪いってそんなはっきり言わなくても。あとストーカーは違うぞ?


「でもこれが大和くんなんだよね。」


「ま、まあ陽心のことになるとそうなってしまうのが俺かな。」


「そうだよね。だからごめん、今の大和くんが好きということではないんだ。」


「え、これ俺振られてんの?」


「うん。」


「あ、そうですか。」


なんかよく分からないうちに俺は振られたらしい。そうだよな、気持ち悪いもんな。


「でも少し後悔があるんだ。」


「なんだ?」


「前の、、あの時の大和くんに告白してたら答えはokだった?」


「いや、それはないな。」


「即答だね笑」


あの弱っている時期に告白されたらそっちに流されたくなるのは分かるが、多分俺はそれはできない。

流されたいと思ってもどうしても頭に陽心の姿が浮かぶから。

流されたとしても、陽心の姿を見たら引き戻されてしまうと思うから。


「即答で悪い。」


「逆にスッキリするからいいよ。、、、どうしてそんなにお姉さんが好きなの?」


「どうして、、か。、、、多分きっかけはたくさんあると思う。良いところも悪いところもたくさん見てきた。でもそのきっかけで好きになったというよりは、なんだろうなあ。難しいなあ。」


「、、、。」


拒絶されたときどうして陽心のことを好きなままなんだろうと何度も思った。

嫌いだと思ってもどうしてか好きな気持ちが勝ってしまって、陽心を思ってしまっていた。

それはどうしてか


「、、、俺の隣にいて欲しい、、人生にいて欲しい人だからかな。」


「、、、、プロポーズは本人にしてもらえますか。」


下山田がすごい顔で俺を見てきた。


「プ、プロポーズって!いや、違くて、あ、違くはないんだけど。今のはあのあれだ。ちょっと飛躍しすぎた、、、。」


「どうしてかはいろいろ理由はあるけど、そんなことよりも自分の人生にいて欲しいくらい好きだってことだよね。」


「、、、あ、ああ。」


自分の言ったことだが、人から要約されるととてつもなく恥ずかしくなる。

顔面が今めちゃくちゃ熱い。


「はいはい、良くわかりましたよ。好きで好きでしょうがないんだねぇお姉さんのことが。」


「、、、ああ。好きなんだ陽心が。自分のこと馬鹿だなってキモいなって思うくらい、陽心が好きなんだ。」


「も〜そういうことは私に言わないで本人言ってよ。恥ずかしい。」


「あ、悪い。」


またボロボロと気持ちが溢れてきてしまっていた。

、、、本人に言ってよ、か。


「よし!大和くんがどのくらいお姉さんのこと好きなのかも分かったことだし、この話はこれで終わりにしよう!」


「下山田、、、」


「何その顔、私が前の大和くんの方がいいって言った事気にしてんの?」


「あ、いや、、」


「悪いけど私が好きだったのは前の大和くんで今じゃないから!ちゃんとそこは覚えといて!だから何も気にしないで。分かった?」


「ああ。分かったよ。、、、もう何も気にしない。俺は自分が思った通りに進むよ。」


「うん。そうしな!、、、あ、あれ万里くんじゃない?」


「ほんとだ。めっちゃ袋持ってんな。俺の服選びにきたんじゃなくて自分の買い物だろあれ笑 まあ良いけどさ笑」


「言えてる笑 おーい!万里くんこっちこっち!」


下山田の言っていた昔の俺が好きというのは本当だと思う。


でも、複雑な気持ちなのは確かだ。それでも、いつも通りに普通にしている。


俺は謝ることなら何回だってできる、でもそれ以上のことはしてやることはできない。

そう思うのも少しおこがましいのかもしれない。


だからいつも通りでいる下山田にいつも通りの俺を返そう。


でも一つ言わせて欲しいことがある、まあもうこの話はしないという約束だから言わないで思うだけにするけど。



下山田、俺を好きになってくれてありがとう。



* * *




本当は大和くんとお姉さんの仲を邪魔したいと思っていた。


大和くんがあんな気持ち悪い女々しい男にした陽心という人にイライラしていた。


でもそんなのは間違っていた。


大和くんは本来そういう人だということに今更ながら気づいたのだ。


虚しくないのと聞いたとき、虚しいとか虚しくないかで終わらせられるようなことじゃないと言われたとき、うわ、過去の恋愛引きずって馬鹿みたいと思った。


でもお姉さんを見て嬉しそうにしていたり、必死になって追いかけている姿を見て大和くんのお姉さんに対する気持ちの大きさが少しずつ分かってきた。


お姉さんを追いかけて行ったときに見つかって絶望した大和くんの顔は、私の心を酷く荒らした。


大和くんのあんな怯えた顔は見たことがなかった。

それほどまでにお姉さんには気付かれたくなかったのだと思った。

あのままにしておけば仲は避けたかもしれないのに、どうしてか大和くんを助けたくなってしまった。


お姉さんと話してお姉さんも大和くんの気持ちにしっかり向き合っていることが分かって、ああ、この二人は私が邪魔したとしても、誰が引き裂いたとしても、絶対に向き合える関係に戻ることができてしまうのかもしれないと感じた。


だからもう私のこのモヤモヤもはっきりけじめを付けたいと思った。


本当は今日告白するつもりなんてなかった。

今日はただ一緒にショッピングをしたり服を選んであげたり、デートみたいなことをしたかっただけだった。


でも大和くんが私の将来の話を聞いてすごいとか、嬉しいことを言ってくれたからどうしてか今すぐ伝えたくなったのだ。


まあ結局分かってた通り振られて、お姉さんが好きだとはっきり言われた。

しかもプロポーズみたいなことも言われて、どんだけ大好きなんだよって思わされた。


じめじめした雰囲気で謝られるよりはマシだがあんなにはっきり言われるとは思っていなかったから、なんというか変な気分だった。


もしかしたら大和くんみたいに粘り続けたら、何か私にもチャンスがあるのかもしれないと思ったことはある。


でもそんなことはしたくない。時間の無駄だ。


あなたみたいに少しのことで一喜一憂したくないし、

一生来ないかもしれないその時を待つことはできない。


でも私だって少しは抵抗をしたいと思った。


その抵抗は、ファミレスのドリンクバーで聞いたお姉さんの気持ちを伝えなかったことだ。


お姉さんが大和くんを本当に大事に思っていて、不器用ながらもちゃんと大和くんの告白を真剣に考えていることを、私は言いたくなかった。

言ってしまえば大和くんは、世界が色付いたみたいな顔をして今すぐお姉さんに会いに行ってしまうのではないかと思ったから。


そんなことになったら私は無様に行かないでとすがっていたかもしれない。

私が伝えて簡単にハッピーエンドになんてしたくない。

二人にはしっかりもがいて遠回りしてもちゃんと自分で決めて、考えて、お互いがお互いに辿り着いて欲しいと思うから。


そうだ。私はそう思ってる。


今の大和くんのことは好きじゃない。前の大和くんが好きだったんだ。


だから、大和くん。


今よりも、昔よりも、これからもっと、


格好良くはならないで。

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